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星の国

作者: 耕路

童話のようなストーリーです。

洋一が学校から帰るとテーブルの上にいなり寿司の皿が載っていた。母の典子はまだパートから帰宅していない。洋一は、ランドセルからノートを取り出すと手早く宿題を片付けた。


いなり寿司を平らげると、学習机の棚に載ったスナップキットのプラモデルの箱を手に取った。机に向かって、箱の中の残りの部品を組むと、ロボット怪獣が完成した。


箱の中にあった紙片を洋一は手にした。もう何度も手にしているので紙片は皺になっている。紙には短いメッセージとアドレスが書かれていた。


(君の願いをかなえるよ。オーロラ姫にメールしてね)


洋一は、もう何度も見ている携帯の受信メールを表示した。

(よる7時に浅間神社で待っていてね……オーロラ姫)


浅間神社は、団地のはずれにあった。洋一は携帯で時刻を確認すると、誰もいない神社の鳥居の前に立った。冷たい夜気が彼をつつむ。


黒い空に光点が現れた。光は複数になり、洋一が見上げていると、やがて物体の輪郭がぼんやりと認められた。それは巨大な葉巻型の母船だった。上空から一条の光が射す。


洋一が息をのんでいると光の照射された地面に人のかたちが現れ、やがてそれは髪の長い女性の姿になった。


「オーロラ姫ですか?」


洋一が尋ねると女性は微笑みながら頷いた。


女性は言った。


「洋一さんですね。あなたの望みをかなえる為に私はやってきました」

洋一は確かめるようにオーロラ姫に訊いた。


「本当にお父さんと逢えるんですか?」


「もちろんですよ。お父さんは星の国にいます。そこまでお連れするのが私の役目です」


裾の長い衣をまとったオーロラ姫は優しく洋一を手招きした。


次の瞬間、洋一は船の中に座っていた。窓から団地の建ち並ぶ丘陵の風景が見えた。やがて星の光の満ち溢れる風景の中を母船は飛んでいた。どのくらい時間が経っただろう。


一時間のような気もするし、何日も過ぎたような気もする。


「着きましたよ。洋一さん、星の国です」


オーロラ姫が洋一に優しく言った。手を繋がれて、洋一がオーロラ姫と一緒に母船の外に出ると、そこは見渡すかぎりの花園だった。


空には、無数の星が輝いていた。地上の花園は昼間の風景なのに、上空は、満天の星空なのだ。洋一は深い呼吸をした。なんとも言えない甘い香りが胸いっぱいに広がった。


すると、花園の向こうから人影が現れた。その人影は近づくにつれて、洋一に確信をもたせた。洋一は思わず声をあげた。


「お父さん!」


父はにこにこ笑いながら洋一を抱きしめた。洋一は強い感情で気持ちがいっぱいになった。背後では、オーロラ姫が微笑んでいた。


洋一がまだ幼いときに家庭を捨てて去って行ったと聞かされていた父が、いま自分を抱きしめてくれている。


「お父さん……」


洋一は、幸せをかみしめた。


母の典子が帰ってくると、洋一は机にうつぶせになってうたた寝をしていた。典子は、畳の上に落ちていた紙片を拾った。オーロラ姫のアドレスが書かれた紙片だ。


(君の願いをかなえるよ。オーロラ姫にメールしてね)


典子は、オーロラ姫のアドレスにメールを送信した。――ありがとう、オーロラ姫さん。息子も夢がかないました。


ギャンブルに入れこんで家庭を捨てて失踪した夫。そんな父親を息子に会わすわけにはいかない。物語にはファンタジックな脚色が必要だと教えてくれたのはオーロラ姫なのだ……。

読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 子どもにとってのファンタジーは現実に近く、子ども自身が抱える問題を抱きしめ、答えをそっと教えてくれるものなんですよね。この作品ではファンタジーの在り方がしっかりと書かれていました。とても良か…
2018/03/04 21:39 退会済み
管理
[良い点] 星の国というところが、夢なのか本当にあるところなのかあいまいなところが、ふわっとしたファンタジーになっていて良かったです。 [一言] ありがとうございました。
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