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一から始める異世界ギルド  作者: 山外大河
二章 ブラインド・ブラック
19/35

09 追走開始

「どうする? とりあえずどこかでご飯食べよっか」


 喫茶店での俺にとっては濃密に思えた会話を終えた後も時間的にはあまり進んでおらず、依然昼時である事に変わりはなかった。

 というより昼時じゃなくなったとしても腹は減っている訳で、時間がどうであれ飯にしたい所である。


「ああ、そうしようぜ」


 俺はアリスにそう返した。

 しっかし……異世界の食文化ってのは中々に興味が沸いてくる。

 朝食の時のアリス曰く主食は米ではなくパンらしいけど、それ以外の情報はまるで入って来ていない。一体どんな料理があるのか結構楽しみだったりする。


「裕也は何か食べたい物とかある?」


「俺はこっちの世界に何があるか分かってねえからな。お任せで頼む」


「分かったわ」


 アリスはそう言って、どこが良いかなと考え始める。


「とりあえず折角お金も入った事だし、ちょっと高いお店にでも入ろうかしら」


「基本的にギルドの報酬って、定期的に入ってくる様な物じゃねえんだろ? あんまり無駄遣いすんなよ」


「分かってるわよ……でもお金が入ってから、最初の一回位は贅沢してもいいと思わない?」


「まあ、そうだな」


 確かに給料日は外食してたり、少しランクの高い飯を食っている人が多いって印象はある。お金がある程度あると財布の紐が緩むってのもあるけど、頑張った自分へのご褒美ってのもあるのかもしれない。


「それに……ほら」


 アリスは俺の方を見て言う。


「ギルドに新しい仲間が加わったって事で、その歓迎会みたいなのもしたほうが良いと思うの。まあ会って言っても私とアンタの二人だけだから、少し高いランチを食べるってだけだけどね」


「え、あ……そうか。ありがと」


 まさかそういう事を考えてくれているとは思わなかった。それは素直にうれしい事である。


「……で、どうする? なにか目星の付く様な店ってこの辺にあるのか?」


「沢山あるからこうして悩んでんの」


 アリスは歩きながら長考に入ってしまった。

 しかし飯を食いに行く時、どうして人はここまで悩んでしまうのだろうか。

 俺自身、休みの日に昼を適当に外で済ませる事になって、ラーメンを食うかカレーを食うかで非常に悩んだのが記憶に新しい。人間すぱっと決められないのだ。だってどっちも食べたいし、どっちも諦めたくはない。それ故にどっちも選べない様な状況で悩むんだ……アレ、そう考えると、先週ラーメンかカレーで小一時間悩んでいた俺は優柔不断って事になってしまうのか? ……嫌だなぁ。

 ……って待てよ。よく考えたらカレーラーメンとかいう完璧な選択肢があったじゃねえか! 何故この解に今辿り着く? 一週間おせーよ。


「よし」


 アリスはようやく店を決めたのか、そう口にした後……俺の方に拳を付きだした。何故に?


「とりあえず二つに絞ったから、後はじゃんけんで決めましょ。私が勝ったらあっちの店。裕也が勝ったらもう少し歩いた所にある店。それでいい?」


 なるほど。最後の審判は運任せって事か。


「分かった、そうしよう」


 俺達は足取りを止め、最初はぐーの合図で手を出す。


「俺の勝ちか」


 俺がチョキを出し、アリスはパー。


「つーことは、もう少し歩いた所にある店で決定って事でいいのか?」


「そうね……いや、ちょっと待って。もう一回。いや、二回。三回勝負にしましょ」


 うわー、優柔不断面倒くせー。

 とはいえ俺も同じ立場だったらそういう風に……いや、流石にもう少し位は決断力がある。


「却下。例えこんな些細な事でも、ある程度はピシっと決めた方がいいと思うぜ?」


 まあアリス程ではないにしろ、ラーメンかカレーで一時間も悩んだ奴の言える事ではないがな。


「……そうね。よし、決めたわ。もう少し行った所の店にしましょ」


 どうやら決めてくれたらしい。これでまだじゃんけんを継続してこようものなら、どうしたもんかと思ったけど、流石にそれは無かった。


「じゃあさっさと行こうぜ。あんまり並んでなきゃいいけどな」


 まあガラガラだったらそれはそれで旨いのか不安になるし、ストレスが溜まらない程度に適度に混んでるといいな。

 そうやって適度に混んでいる店のビジョンを脳裏に浮かべつつ、俺達は店を目指す。

 そして少し数十秒程歩いた所だろうか。


「あ、見えたわ」


 どうやら店のすぐそこまで来たらしい。

 といっても俺にはその店の外貌なんてのは分からない訳で、どうやら外にまで並んでいる人が居ないらしいその店を見分ける事が出来ない。

 だけどその代わりに、飲食店と全く関係の無い二つの存在が目に入った。


 まず一人目は道に立ち止まって、手に持っている封筒に入っている札束を数えている二十代前半程の女性が居た。なんというか……ああいう風に外で札束数えてたら危なくないか? 冗談抜きで窃盗の被害に会いそうだ。


「うん……確かあの店の一番高いメニューの値段があの位だったから……うん、見て裕也。高級ランチ二人分頼んでもまだこんなに残る」


「はいはい。分かったから札束仕舞え」


 人の振りみて我が振り直せというか、とりあえずお前はあの隙だらけの人を見て如何に自分がネギ背負った鴨みたいになっているか理解してくれ。そしてさっさと札束仕舞え。頼むから。


 そしてそんな光景ともう一つ。どうしたって注意を向けてしまう人物がそこに居た。


「……なんだあの子」


 俺は恐らくアリスにも聞えていない様なボリュームでそう呟く。

 よほど慌てているのか、こちら側に向かって全力疾走している、緑髪でショートヘアーな、リーアと同じ位の年頃の女の子。時々転びそうになりながらも殆どスピードを緩めずに走り続ける。

 なんとなく、その内誰かにぶつかってしまいそうだ。危なっかしい。

 そう思っていた矢先だった。


「うわっ!」


 少女の体がそんな声と共に、勢いよく躓いた。


「え、ちょ……ッ」


 そしてその先に居たのがアリスである。

 アリスは突然の事に反応できず、結果的に少女がタックルを仕掛けた様な形になってしまった。

 そのままアリスを押し倒す様な形になる。


「ったた……」


「……大丈夫か?」


 俺はアリスと、そしてアリスにぶつかってきた女の子に対してそう声を掛ける。


「大丈夫です! すみませんでした!」


 まず返ってきたのは女の子の声で返事を返したと思いきや、すぐさま立ち上がって、こちらが他に何か声を掛ける暇をも与えず、再び走りだした。


「どうしたのかしら、あの子」


「さあ? 本当に、あんなに急いで、何をしたいの……か?」


 俺は走り去る少女が手にしている物を見て、思わず背筋に冷たい物が走った。

 嫌な予感がする。


「アリス!」


「なによそんなに慌てて……」


 ゆっくりと起き上ろうとするアリスに向かって、俺は言う。


「報酬の入った封筒、ちゃんと持ってるか!?」


 走り去る少女の手には、確かに封筒らしき物が見えた。

 考えたくは無いが、喫茶店にて俺やリーアが恐れていた様な事態が起きたかもしれない。

 頼むから何事もなく済んでくれ。そう思って掛けた言葉に対する言葉は、あまり聞きたい回答では無かった。


「大丈夫よ、ちゃんとあ……裕也!」


 どうやらついさっきの数秒で起きた事をアリスも理解したらしい。

 そしてアリスが俺に何を求めたのかも何となく理解した。

 間違いなくやられた。随分とダイナミックな手法だったがそれは間違いない。


「クソ……ッ、冗談じゃねえぞ!」


 俺は瞳を赤く染め、肉体強化の魔術を発動させる。

 ……相手は普通に走ってるだけ。距離は目と鼻の先。

 速攻で追い付く!

 俺は心の中雄叫びにも似た声を上げつつ、力を解放するかの如く全力で地を蹴った。

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