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ex.1 愚かな兄妹の物語

 むかしむかし、あるところに兄妹がいました。どこにでもいる兄妹はそれは大層仲が良かったそうです。親がいなかった兄妹は二人で一生懸命に力を合わせて旅をしながらお金を稼ぎ、暮らしていました。そんなある時、妹の方に縁談のお話がやってきました。


 とある国の伯爵が一目惚れしたので是非とも嫁に来て欲しいと。


 妹は兄に相談しました。


「お兄様、縁談とは何ですか?一目惚れとは?」


 兄は困り果てました。妹に恋愛に関することを教えてこなかったので何も知識がありません。本来ならば愛を知っていて当然の年頃のはず。兄は妹のことを考えて言いました。


「縁談とは結婚をしないかということだ。一目惚れとは一目見て好きになったということだよ。きっと伯爵様が幸せにしてくれる。行っておいで」


 妹はそれを聞いて顔を歪めました。聡明な妹はすぐにその言葉の意味を悟りました。誰とも知れない人に好きなりました結婚してくださいと言われたことを。兄の言葉の意味を知りながらも妹は首を振って言いました。


「そういうことならお断りしましょうお兄様。私はお兄様のことが好きなのです」


 それを聞いた兄は心底驚きました。まさか自分のことを好きになるとは思わなかった兄はそこで王国の方を思い出していました。法にはこう表記されています。


『肉親との結婚は認めない。王族のみの特権であると』


 王族ではないので無理だと妹に言う兄だったが妹は泣き出してしまいました。


「お兄様と結婚できないのでしたら私は死にます。生きる意味もありません」


 兄は焦りました。そして、後悔もしていました。妹に余計な知識を与えたことを、もっと早く教えるべきだったことを。けれど、時は止まりません。兄は妹が死ぬのは耐えられませんでした。幼いときより一緒にいた妹を兄もまた愛していたのです。


 兄は妹の縁談を断るために伯爵と会談をします。そして伯爵はそこであることを提案してきました。召喚術を使い、私より優れた魔物を召喚できれば妹との結婚を諦めると。伯爵の誘いに乗った兄は私もやりたいという妹と共に召喚の儀を行いました。そこで出た魔物はスライムとドッペルゲンガー。伯爵はドッペルゲンガーを出した妹に冷たい目でこう言いました。


「悪魔の子だったのか。道理で人を惑わす容姿をしているわけだ。捕まろ。兄は殺せ!」


 伯爵は兄妹の仲が良すぎることに疑念を抱いていたのです。そして、嫉妬をして兄を殺そうとしました。妹を独り占めするために。兄妹は兵士に囲まれ襲われます。兄妹はスライムとドッペルゲンガーを使い何とか囲いを抜けて国を出ました。反逆の罪を被せられて国を出た時には兄が召喚したスライムは死に果て、妹のドッペルゲンガーだけが残りました。

 国に居場所がなくなった兄妹は森で静かに暮らすことにしました。人を信用出来なくなった兄妹は二人きりで暮らすことに決めたのです。

 やがて兄が病を患いました。妹は悲しみました。国には行けず、医者も呼べないと泣きました。兄はそんな妹を見て前から思っていたことを実行しようとしました。


「妹よ。キスをしよう」


 妹は兄の突然の宣言にうろたえました。まさか兄からそう言われるとは思っていなかったからです。その言葉の後に兄は語りました。自分もまた妹が好きであることを。妹は喜んでキスをしますと言いました。二人は唇を重ね合いました。

 そして、間もなく兄は亡くなりました。妹はとても悲しくて涙を流しました。最初で最後のキスになったことを嘆きました。妹は後を追うように自殺しました。

 妹は死ぬ前にドッペルゲンガーに言いました。あなたは私達の遺骸を喰らいなさい、と。後に残された遺言に従い、ドッペルゲンガーは二人を喰らいました。

 ドッペルゲンガーはそこで初めて言葉を発したと言います。


「悲しい味がする」


 ドッペルゲンガーは二人を喰らい終えると何処かへと消え去りました。


 こうして二人の兄妹は禁忌と呼ばれた近親同士の愛の果てに死にました。

 どこからともなくそれを聞いた伯爵は何故か発狂してベッドの上で死んだそうです。



 おしまい。



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