修復の魔法~初授業は模擬戦~
誤字脱字はご了承ください。
僕は目の前の光景に簡単の声を出した。魔術師により目の前の建物が修復されていく。隣で泣き謝る妹の頭を撫でながらしきりに興奮するラグに苦笑を返した。
「ラグ、いくならんでも大げさすぎるぞ」
「いや、スイこれがどれだけ凄いのか分かってないからそんなことが言えるんだ。いいか、これは土魔法に水魔法も合わさった物凄い魔法テクニックなんだぞ!」
興奮して顔が近くなったラグの頭を叩き、僕は目の前で修復されていく建物に目をやった。確かに土魔法に水魔法を組み合わせて修復しているようだが二属性を合わせて使うことは割と常識なことだし、何より目の前で魔法を行使しているのは宮廷魔術師団の団員だ。二属性持ち以上が入ることが許される宮廷魔術師団はそこに相応の実力がなければ訓練すらついていけないと言われているほどだ。訓練が厳しいのも召喚術に負けないようにというライバル心剥き出しな考えに基づくものだと聞いたことがある。
それをラグに言うと呆れたような声を返された。
「スイは夢がないなぁ。属性を複数扱える奴なんてそうそう見る機会がないんだぞ?」
「なにいってるんだよ。目の前にいるじゃないか」
「スイが二属性以上使えるってのか?」
「まあね。それは模擬戦で見せてあげるよ。僕の可愛いライムが存分に披露してくれるよ僕が仕込んだからね」
「へぇ~面白いな。楽しみにしてるぜ」
「男なんて……うう」
トラウマが未だに治らない妹は僕の腕にしがみついている。先程のこともあって僕の顔を直視できないでいるようだ。僕としても恥ずかしいからいいんだけどね。
そうこうしているうちに修復は終わり、先生のお小言が始まった。男の先生に怒鳴られたので思いっきり怯えた震えるミリーは僕にしがみつく力を更に強くした。余りの怯えように先生は罰が悪そうな顔をしていたので妹の事情を説明して納得してもらった。
それからすぐに授業が始まった。皆、召喚をし、模擬戦をするらしい。僕もスライムを召喚する。白い色のスライムは召喚されるとすぐにジャンプして僕の肩に乗っかった。周りには嘲笑されたがすぐに妹のことを思い出して青ざめていた。何だか脅しているみたいで面白い。
「ミリー、炎極龍はダメだからね」
「分かっておりますお兄様。召喚・赤子竜レッドドラコキッド」
ミリーの詠唱と共に小さなドラゴンが姿を表す。赤子竜レッドドラコキッドは赤竜レッドドラゴンの幼体だ。小さいながらも吐くブレスは人を燃やすには充分な威力がある。その容姿は猫くらいの大きさに背に翼を生やし、鋭い牙が小さいながらにも目立っている。
「レッドドラゴンキッドか。珍しいな」
「うちの妹は天才だからね」
「さっきから思ってたけど、お前ってシスコンだよな」
「……ライム、ファイアーボールだ」
僕の合図と共に炎が膨れ上がり、ラグに向けて放たれる。ラグは見事避けたので無事だった。当たればよかったのに。僕の魔力を吸ってご機嫌なライムはぷよよんと震えている。
「あっぶねぇ。スライムが魔法使うなんてまじかよ」
「お兄様のスライムは一味違うのですよ!」
「よし、ライム。テンペストだ」
ライムから膨大な魔力が吹き荒れて目の前に嵐が顕現する。ラグは巻き込まれて空に飛んでいった。テンペストは風魔法の中でも上級者が使う魔法だ。魔力制御が難しく、形が定まらないことがあるこの魔法を周りはびっくりしている。予想通りの結果だ。
魔法を使ったライムは体が縮み、ふにゃふにゃになっている。魔力を使いすぎるといつもこうなるのでそのたびに僕が魔力を供給する。みるみる膨らんでいくライムを見て空から帰ってきたラグが一言。
「お前のスライム規格外だな」
と、言った。そして、フレイムキャットをけしかけてきて戦いになった。周りを見れば既に始まっているようだ。
「フレリー、ファイアーランス」
「ライム、ウォーターウォールだ」
フレイムキャットのフレリーは魔力を解き放ち、炎の槍を形づくり放ってくる。それを僕のライムが水属性の壁で防ぐ。ウォーターウォールに当たったファイアーランスは瞬く間に鎮火した。
「やるな。じゃあ俺も魔法を使っていくぜ。ファイアーボール」
「実践形式とは先生も言ってなかったはずなんだけどな。ウォーターボール」
ライムとフレリーと僕とラグの魔法合戦は魔力が尽きるまで続く。魔法にはある程度名称が決められている。イメージを名前により固定化することによって魔力の消費量が安定するからだ。各属性のボール系、ランス系、ウォール系の基本的な魔法に有名な魔法師が残したオリジナル魔法がある。僕の使ったテンペストもオリジナル魔法のうちの一つだ。
「そろそろきついんじゃないのか?」
「いや、まだだね。フレイムバリア」
「じゃあ終わらせよう。魔物だけだったなら勝てたのに残念だよラグ。……ファイアーボールver, 流星」
僕の詠唱と共にファイアーボールがいくつもの空中に浮かび上がり、ラグのフレイムバリアへと向かっていく。次々と当たるファイアーボールに軋みをあげたが何とか残ったようだ。
「何とか耐えたぜスイ」
「あ、ごめん。僕のは囮だよ。ライム今だ!ウォーターボール・バースト」
ライムが水を三連続で放つ。罅が入っていたフレイムバリアに穴をあけてラグの顔へと当たりびしょに濡れにした。
「いや、スイ。今のはなんだよ。さっきからオリジナル魔法ばっか使ってよぉ」
「これは教えられないよ。だからオリジナルなんだからね」
ラグはフレリーを抱き寄せてぶるぶると体を震わせた。僕はライムを抱き上げてご褒美に魔力を食べさせる。ぷるぷる揺れるライムは何だか嬉しそうだ。
ミリーの方を見てみるとこちらに駆け寄ってくる途中だった。
「お兄様みてください!勝ちましたよ」
ミリーの嬉しそうに駆け寄ってきたので頭を撫でてやる。対戦相手がどうなってるのかと思って見てみるとミリーの対戦相手は泣きながら契約した魔物に声をかけている。黒こげになって倒れているということはブレスでも使ったのだろうか。
ちなみに黒こげになっているのは雪狼ホワイトウルフだ。寒い地方にしか生息しない魔物で毛皮が白いのが特徴だ。
「やりすぎじゃないのかミリー。レッドドラゴンキッドならファイアボールでも倒せただろ」
「いえ、お兄様。私ちゃんとファイアーボールを使いましたよ?」
ファイアーボールで黒こげにするほどの威力があるなんて流石は僕の妹だ。きょとんとして首を傾げている辺り天然でやっているのだろうか。可愛くて仕方がない。
隣のラグは顔を引きって呆れながら笑っていた。
「ラ、ラグ。僕はどう反応すればいいんだ?」
「いつも通りでいいだろ。しかし、お前の妹は美人で天才と引く手数多だろうな」
僕は迷うことなく、魔法を発動。二属性複合魔法ファイアストームだ。ラグには妹はあげないとの思いを込めて。
「うお!あっぶねぇな。お互いのこととなるとどっちも危なくなるとか怖いよマジで」
「ふふ、誰がミリーをお前にやるか。さあミリーおいで」
「はい、お兄様」
前から思ってはいたけれど、ミリーをよそにやるなんて考えられない。こんなに可愛くて出来のいい妹に釣り合う奴などいないに決まっている。それこそ伝説上の人物くらいだろう。
粗方模擬戦が終わった頃に先生から召集がかかった。特別何か言われることなく、そのまま解散となった。初日の授業なのにこんなに適当でいいのかと思うが学園としてもやることはそんなにない。
一般知識などの授業を受けたい人は受けて、後は召喚術師として必要な最低限の知識を必修として受ける。模擬戦や外での魔物の討伐演習などで実力をつけるくらいしかこの学園でやることはない。早い人は一年ほどで卒業できるというかする。実際に最後まで学園に残っている人の方が少ないほどだ。
ミリーは一般知識の方も受けるそうなので僕も一緒に受けることになっている。一般知識と言っても魔法に関することや歴史などで平民が受けるような授業ではない。ちらほら平民がいたりするのはおそらく商人の子供だろう。
最近、この学園も入らないでノラの召喚術師が増えてきているのはこの学園の授業内容などか受けなくても充分にやっていけるからだ。年々減少傾向にある入学者のせいでこの学園も閉鎖されると言われているほどだ。
ラグと別れの挨拶を済ませて家に帰ることにした。周りの生徒も僕達をというか主にミリーを避けて道を開けてくれるので楽に通れる。
「帰るか。ミリー行くよ」
「はい、お兄様。今日は何をして過ごしましょうか」
「そうだね。また魔法を一つ教えてあげよう。今日はスピアを教えてあげよう」
「またお兄様のオリジナルですか?」
「スピアの魔法は三又の槍をイメージしてくるんだ」
「まぁ楽しみです。早く帰りましょうお兄様」
ワクワクした様子ではしゃぐミリーに年相応の可愛さが見える。周りの男が少し見惚れていたので牽制の意味を込めて地面を分かるか分からない程度で隆起させて転けさせたりした。本当にだらしがない。ミリーを嫁にやることは多分一生訪れることがないだろう。両親が下手なことを企まない限り。
妹の元気の良さに少々疲れながらも僕はいつも通りの日常に感謝をした。