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プロローグ~命の終わり~

 悠久の時が流れるような感覚が身を包む。ゆっくりゆったりと流れゆく流れに任せて俺はひたすらに胸を打つ感覚に浸っていた。ここに来たのはいつだったか分からない。これからどこ行くのかも、どのようにしてここから抜け出すのかも。思考がない交ぜになり、思考が定まらなくなっていく。その中でやけにはっきりとした諦めの感情が浮かぶ。諦めろと言われたわけではなく、ただ単に事実として記憶にあるのだ。


「死んでしまったのか」


 その一言によりさらに死を認識する。死の間際には走馬灯がなんちゃらなんてよく言うがそれはまやかしだった。俺にはそんなものは見えなかった。未練がなかったのか、あるいは大切なものがなかったのか。いや、走馬灯の前からずっと思っていたことはあったか。妹が無事であるのか。ただそれだけしか考えて生きてこなかったから妹が脳裏に浮かぶのは常だった。


「明美、大丈夫かなぁ~」


 意識がふんわりとしてきた。語尾が伸びたのはどうやら気持ちよくなってきたかららしい。本当にここはどこなのか知りたい。いや、それよりも明美が無事なのかが知りたい。

 あの時俺は明美を庇ってトラックに跳ねられた。大切な愛しい妹の明美は今年で十四歳になるはずだ。そんな大事な年に死なれては兄として困る。だから一生懸命に守った。衝撃が伝わらないように、柔らかく包み込むように抱きしめて俺はそこで意識が途絶えた。


「意識、なくなるのか……」


 意識が、記憶がなくなるのが分かる。これはただ流されているのではなく、洗い流されているのだと。ああこれが輪廻転生という奴か。記憶が残らないのは残念だな。でも、せめて知識だけは持っておきたい。生まれなおした時に妹がいれば守れるように。それは明美じゃないけれど、妹というだけで守る価値はあるのだから。

 魂に知識を刻み込む。激痛が走った。禁忌的な行為だと主張するような痛みが全身を包む。それでも諦めない。この思いだけは消えてしまったとしても成し遂げたい。例え、転生後に世界を滅ぼすようなことになっても。守りたい者を守る者は知識者であらなければならない。例えこの知識が一般人に毛が生えた程度のものだったとしても。


「ふふ、俺はシスコンだったのか。いや、俺はきっと……」


 ついに覚えているのは名前だけになった。確か大切な存在がいたはずだ。ああ、そうだ覚えている。俺の名前は向田尊。でもそれだけしか思い出せない。激痛はいつの間にか止まった。何かの作業でもしていたのか。


「あ、け、み?ああ、誰なんだ。俺の大切な存在。どんな……人なんだ」


 ああでも名前だけは覚えていた。もうすぐ全てが消える。名前も生きて記憶も全て消え去った。俺には何も残っていない。後は身を任せればいいか。なら、少し、眠ろう。


「おやすみなさい」


 意識は途絶えた。

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