13/07/19 横浜オフィス:お前は俺に『死ね』と言ってるのか
13/07/19 金 15: 00
いつもの横浜事務所。
部屋では俺、シノ、旭の三人で雑談中。
他に在室しているのは土橋統括。観音は有休。
ただ雑談中とは言っても、俺の指はパソコンのキーを叩いている。前日、観音から以前に止めた報告書を清書して、本庁に送付する様に命じられたから。
あの時観音が止めたのは、俺のマルコウを段原補佐に知られないため。つまり段原補佐が公安庁から消えるのを待っていたのだ。
段原補佐は昨日付で依願退職した。
もしかしたら近くこの世からも消えるのかもしれない。
一瞬そう思ったが、それ以上は思考停止することにした。
あの日以降も観音の態度は以前と変わらない。
仕事におけるやりとりも従前通り。
山下公園での一件からの一週間、以前と何一つ変わらない日常が続いている。
「そこ僕の席ぃ~」
俺の向かいに陣取る旭に、土橋統括が指を咥えながら訴える。
「統括の席じゃありません~、観音さんの席です~。『私がいない時、あの厨二野郎を絶対にここへ座らせるな』ときつく言われてます~」
「あのババアぁ……」
いや、もう本当にあなたの席じゃないから。
そろそろ壁際でどっしり構えて、肩書に見合った態度をとりましょうよ。
旭は上半身を机に預け、ぐでーとした風情で口を開く。
「ホント暑くなりましたよね~。みんなで休みを合わせて海に行きませんか~。シノさんと観音さんの水着姿を拝みたいです~。弥生さんもついでに誘ってあげます~」
公安庁において七月から九月は別名有休消化月間。
いわゆる夏休み。
出勤しても最低限の仕事しかしないし、留守番一人残せばみんなで休みを合わせる事も可能。つまりはゴールデンウィークと同じである。
「ついでって何だよ。別に行きたくねーよ。海水浴場なんて人混みの極みじゃんか」
今度は同じくぐでーとしているシノが口を開く。
机に載せているのが頭と腕だけなのは胸が邪魔だからだろう。
「まあまあ。ゴールデンウィークの時の観音さんへの埋め合わせって事でさ」
そりゃお前は最大の加害者であり被害者だからな。
だけど俺は海なんかより、家でマッシュをやっていたい。そうでなくとも皆実にギルドを任せて以来、かれこれ一ヶ月半もINしていないのに。
マルコウでそれどころじゃなかったからだが、それが落ち着いた七月以降もやはりINしていなかったりする。
それはなんとなく観音……いや、ねぎとマッシュで話すのが気まずいから。
いくらねぎたる観音本人と職場で顔を合わせていようと、それはそれなのだ。
だからと言って、このままINしないわけにもいくまい。
ましてや「ねぎ」と遊べる時間は有限であることがわかってしまったのだから。
ああ我ながら、なんて複雑極まりない感情なんだ……。
「んじゃ俺の代わりに皆実を行かせよう。旭だってその方がいいだろ」
「私は構いませんけど~」
「却下」
シノがきっぱりと突っぱねる。
「弥生さん、行こうよぉ~。僕も行くからぁ~」
土橋統括の明らかに場を間違えた台詞に、シノが投げ槍気味で返す。
「魔法少女な娘さんだけなら一緒に連れていってあげますよ」
そんな話をしていたところに庁内電話が鳴る。
旭がめんどくさそうに受話器へ手を伸ばした。
「はい~……弥生さんですか~? はい、います~……少々お待ち下さい~」
旭が受話器を渡してくる。
電話に出ると同期のキャリアだった。
「おう、弥生。大使館行き決まったから報告するよ」
「ほう、どこに決まったんだよ。シリアか」
「お前は俺に『死ね』と言ってるのか」
「ローテーション的には妥当だろうが、じゃあどこなんだよ」
他はブラジルだが……それで来年のワールドカップ見放題とか言ったらぶっ殺すぞ。サッカーには全く興味ないけど、そういう話はわけもなく羨ましくなる。
「アメリカ大使館。天満川さんが辞退してさ、もう嬉しくてその場で快諾してきたよ」
──えっ? どういう事?




