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13/06/28    横浜オフィス:短い間だったけど本当に楽しかったよ

13/06/28 金 14: 00


 いつもの横浜事務所。

 昨晩マルタイから聞いた話を報告書にして観音に提出する。

 しかし観音の反応がおかしい。

 報告書に赤ペンではなく極太マジックで書き込みをしている。

 とてもじゃないが「直し」をしている様には見受けられない。

 あまりに俺の報告書がひどいから当てつけている? いや、そんなわけはない。

 俺にマルコウ経験はなくとも分析経験はある。大量の情報に目を通すのはもちろんのこと、質の高い非公然情報に触れ続けていれば、自然と情報を見る目は養われる。

 それに観音も仕事において「だけ」は悪ふざけをする人じゃない。

 終わったらしい。観音が立ち上がって、外を指さした。


 喫煙室に入ると観音は鍵まで掛けた。

 本当にどうしたんだ。

「まさか私はこれから手籠めにされちゃうんですか」

「ばらばらになるくらい気持ちよく手籠めにしてやるよ」

 観音が報告書を俺に渡してきた。

 見ると段落が四角で囲まれ番号が振られている。一方×で潰されている部分が何カ所かある。その部分こそが、この報告書のキモなのだが。

「これはどういうことですか」

「この×部分は削り、振ってある番号単位で報告書を作成しろ。入手源は『青商会構成員某が神奈川県本部筋から聞いた噂話』にして、聴取場所も例の焼肉店にしとけ」

「わかりました」

「え?」

 観音が口を半開きにし、拍子抜けしたらしき顔を見せる。

「観音さんが自分で指示したんでしょう。どうしてそこで驚くんですか」

「いや……段原補佐との一件を考えると、もしかしたら噛みついてくるかもしれないと思って。×部分はこの報告書の核だから、評価が欲しければ送らないとだし」

「どうせ観音さんの事だし、考えがあるんでしょ」

「そこまで信じてもらえると嬉しいな」

 赤くなった観音がそっぽを向く。本気で照れたっぽい。

「番号単位でという方の理由は説明してやる。この部分で評価は獲れないから本数を稼ぐ。本対昇格に報告書評価は絶対ではないが、報告書本数は不可欠だから」

「いわゆる登録のためのテクニックですか」

「うむ。×部分の方も近く送ってもらうけど今はだめ。そこは私を信じて欲しい」

「わかりました」

 頷くと、観音がソファーに腰掛ける。

「君もかけろ。ついでに私自身の件について説明させてもらうよ」

 観音の口からは以下のことが説明された。

 アメリカ行きは一月で決まっていた事。研修入りと同時に本庁二‐二へ異動する事。月曜日までは部屋のみんなに黙っていてほしい事……等。

「短い間だったけど本当に楽しかったよ」

 観音はその一言で締めくくった。

 公安庁のキャリアは大抵どこかの大使館に出向するが、ワシントン以外はその時点で空いている国に行かされる。そしてどこに行かされたとしても人事上の差はない。

 裏を返せば、計画性をもって相応しい人材を配置する人事はワシントンだけ。平たく言うと出世コースである。

 寂しいという言葉が頭をよぎる。だけど強引に心の奥へ押し込んだ。

 その代わりにあらん限りの笑顔を作って、頭を深々と下げる。

「おめでとうございます、そしてありがとうございました」


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