13/05/30&06/03 スポーツクラブ:世の中絶対間違ってる!
13/05/30 木 18: 55
ただいま、CARPの入居しているビルの前。
本日は木曜だから、恐らくマルタイは来ない。しかしそれでもトレーニングをさぼるわけにはいかない。
──着うたが鳴った。
画面を見ると観音。電話に出る。
「弥生か、マルタイに動きがあったぞ。県本から出たマルタイが車に乗って移動した。ナンバーも控えてくれている」
「おお。作業した甲斐がありましたね」
「明日ナンバーを陸運局の車両照会に回す。それじゃジム頑張れ」
観音が電話を切る。
結果が判明するのは週明けかな。楽しみ、楽しみ。
13/06/03 月 13: 30
いつもの喫煙室、いつもの四人で会議中。
車両照会の結果を見て唖然とした。
「そ、そんな。まさかあの二人ってできてるの? あのハゲオヤジとあんなに可愛い女性が? ありえない! 世の中絶対間違ってる!」
観音は叫びながら、ソファーにがんがん蹴りを入れまくっている。
「リア充死ね、リア充死ね、リア充死ね、職場で自分の男といちゃつくな!」
──何と、車の所有者名が「吉島翠」だったのだ。
俺達はCARPの吉島さんを名字しか知らない。比較すべき写真も無いから同一人物とは限らない。例え自明に見えても裏を取るまで決めつけてはならない。これは情報機関における基本中の基本だ。
ただ仮にそうだとすれば、マルタイから吉島さんの話題を振られた理由がわかった。あれは性癖を探ろうとしたのでなく、牽制。だからこそ妙な違和感を覚えた。
しかし「先生と生徒」と答えたから、マルタイは安心して性癖の話に流れ込んだのだろう。つまりは結果オーライ、本当にラッキーだった。
──ようやく観音がソファーに腰を下ろした。
先程までの暴れぶりはどこへやら。いつもの澄まし顔で問うてくる。
「弥生はこの結果を受けてどうしたい?」
「当然、裏を取る必要があるでしょうね」
その策も具体的に考えてはいるが……俺は手伝ってもらっている身、口にしづらい。すると観音は、それを気遣ったかの様に付け加えてきた。
「具体的に指示して構わない。これは君のマルコウなんだから、君が考えた通りに私達は動く。方針が明らかに誤っていれば指摘するから、遠慮はするな」
「そうだよ弥生、遠慮無く言って。私にできる事なら何でもするから応援させて」
「ですです~、いくらでも協力しますです~」
みんな、ありがとう。
「それじゃ私はCARPの駐車場にその車があるか調べます。観音さんはCARPで吉島さんの写真を確保して下さい。もちろん可能なら下の名前もお願いします。シノと旭は火曜日と木曜日に絞って尾行作業を継続してくれ」
極端に言えば運転者は別人という事だってある。シノと旭にはそこまで現認してもらわないと、今回の調査目的は達しえない。
俺が言い終わると、観音が即座に口を開いた。
「付け加えよう。吉島の基調は、今回の作業を終えた時点で私がする。現段階で行うのは効率的と言い難いからな。それとマルコウの条件として用いるにはまだ弱い。できれば不倫の現場を押さえたいから、シノと旭はそのつもりで作業に当たってくれ」
俺達三人唖然とする。
「それは……」
「つまり……」
「現場写真を突きつけて脅すということですか~?」
いくらスパイ仕事において常識とは言え、仕事として命じられると余りに生々しい。軽く目眩を覚える。他の二人も同じだろう。
しかし観音は顔色一つ変えずに答えた。
「選択肢が多いに越したことはないだろう。裏を取る延長くらいに考えておけ」
何だろう、観音の平然とした態度にはやり切れないものを感じる。
──あっ、忘れてた。
「次回からの尾行作業って、当然車に切り替えますよね。運転手はどうしましょう」
旭がおずおずと右手を挙げながら申し出る。
「免許取ったばかりでその途中には仮免五回落ちた私でよけ──」「却下」
語尾を伸ばさせるまでもない。そんな奴に官用車のハンドルを任せられるか。
かと言ってシノはペーパードライバー。仕方ない、土橋統括にでも頼もう。
……と決めかけたところで、観音がシノに話を振った。
「じゃあシノ、頼む」
「はい」
あれ? シノがあっさりと承諾した。
「シノ、お前だってペーパードライバーだろ」
「うん、そうだけど頑張ってみる。旭ちゃんよりはましだと思うから」
「シノは運転でき──」
「あーそうだ! 今月C+来ました。観音さんの御指導のおかげです」
観音が何か言いかけたところで、シノが思い出した様に叫んだ。
「そ、そうか。それはシノが頑張ったからだよ。うん、おめでとう!」
シノが嬉しそうにはしゃぐ。観音は照れながら微笑む。
ああ、見ているだけで心が和むなあ。




