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13/05/02    温泉:でも私が撮る

 東急田園都市線二子玉川駅前。

 昨日の今日で温泉旅行は無理なので瀬田温泉へ行くことになった。俺があざみ野、シノが長津田、旭が溝の口。全員が田園都市線に住んでるから、電車一本で行き帰りできる。しかも瀬田温泉は水着混浴ができるので、性別問わず楽しむことができる。

「──というわけで、私達三人は瀬田温泉に行くため休みます~」

 休暇の連絡は、一番カドが立たなさそうな旭。

 電話の向こうで観音が怒鳴っているのだろう、苦笑いを浮かべている。しかし旭は一呼吸入れるや、一方的に答え始めた。

「観音さんが独りで留守番するのは自業自得です~。私達と遊べないのも自業自得です~。全部観音さんが皆実さんを呼んだせいです~。おかげで私もまだ、おでこのたんこぶが痛いです~──」

 確かに観音は自業自得だが、お前のそれも自業自得だ。

「──もう、スマホのバッテリなくなりそうなんで~。失礼します~」

 始業時刻に相応しくない見え透いた言い訳を残して、旭は電話を切った。

「はあ~……めんどくさい人ですねえ~……」

 旭がぼそりと毒を放つ。そして俺達に向き直り、笑顔で号令をかけた。

「それじゃ朝食を取って、温泉にれっつごーです~」


           ※※※


 瀬田温泉の混浴露天風呂スペース。

 シノはオーソドックスなオレンジのビキニにパレオ。魔乳かつ膨張色でありながら、決して太く見えないプロポーションはさすが。腰の細さは理想なんだけどなあ。

 旭はピンクベースのストライプが入ったタンキニ。幼児体型の旭にはよく似合っている。言いたくないが可愛らしい。

 肩まで浸かるシノ、その上に旭が背中を向けて座る。

「シノさんの胸って極上のクッションです~」

「こら、旭ちゃん。でも弥生、観音さんには悪い事したかなあ」

「観音さんは七歳だから一八歳未満お断りのイベントって事でいいよ。なあ、旭」

「ですです~。でも『お仕事お疲れ様です~』くらいはメールしてあげましょう~」

「それならいっそ写真もつけようぜ」

「弥生ひどすぎ。でも私が撮る。そして観音さんにメールするね」

 シノが喜々としてスマホを構える。いったいどれだけ根に持ったのか。まあ、積極的に当てつけようとするくらいには立ち直ってくれたみたいだ。

 昨日の一件につき、一晩考えてはみた。

 シノがデブ専じゃなかろうと、一旦白けた気持ちはどうにもならなかった。いや、例えまともに告白してもらったとしても……結論はきっと同じだろう。有り体に言えば、シノに惹かれないのだ。それは目の前に浮かぶ魔乳だけが問題ではない。

 俺にとって、同僚は基本的に恋愛の対象外。

 まず職場恋愛は何かと面倒。以前は仕事の妨げと思っていたし、現在は自分の事で精一杯。とてもじゃないけど他人を気遣う余裕がない。加えて仕事が仕事、プライベートでは職場を忘れたい。スパイという意味でも、庁内ニートという意味でも。

 もう、こういう理屈を並べる時点でダメだろう。さらに理由を問い詰められれば、百でも二百でも並べる自信がある。

 だって結論が決まっているのだから。どこか俺の中に「こいつじゃない」という思いがあるのだ。昨日の皆実じゃないが……きっと自分を甘やかすだけの女性は求めていないのだろう。自分を躾ける女性なぞ、それ以上に遠慮したいが。

 シノには悪いと思う。だけど俺はこのまま素知らぬ振りを決め込ませてもらう。

 高台となるこの場所からは、ビルやマンションが建ち並ぶ街並と、その間に流れる多摩川が見下ろせる。

 両者の程よい調和が今の俺には心地よい。

 連休が終われば、いよいよ俺も本格的に仕事。緊張感を持ってスタートを切るには、これくらいに現実感を抱いての休息が相応しい。


 温泉を出た後は、高島屋に二子玉川ライズと春のニコタマウォーキング。

 ささやかながらも楽しいゴールデンウィークの一日を過ごした。

 観音からメールの返事がなかった事は気になるけどな……。


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