13/04/20(1) 自宅:だから確かめようよ
13/04/20 土 20: 00
週末の我が家の食卓。俺の前には、逆さにした茶碗。その上には御飯がちんまり。
「皆実、これはどういうことだ」
「うちの台詞だよ、どうして糖尿病なの隠してたの」
皆実は観音から聞いたとの事だった。あの入学式の後、皆実は本当に御飯をたかりに行ったらしく、それ以来メールを交わす仲になったとか。
「要らない事ペラペラと話しやがって」
「それだけ兄ぃを心配してくれてるんじゃん」
そう言う皆実の横には、どっさり積まれた糖尿病の本。
幸い、おかずは常人並みの量が並べられている。糖尿病には低GIな献立が重要で、白飯はGIが高いから減らしたらしい。
「低GIとやらなら白飯に代わる主食もあるんじゃないか」
「あるけど一度やってみたかったんだ。ところでスポーツクラブの調子はどうなの」
「ちゃんと頑張ってるよ」
行ってみれば案外続く。特に月水金は吉島さんの勤務日なので張りきっている。
「シノさんの件はその後どうなったの?」
あの日帰宅した後、俺は皆実に相談を持ちかけた。しかし皆実も花の新入生。授業にコンパにと慌ただしかったので、ゆっくり話す機会がなかったのだ。
「月曜日に出勤してきたよ。『忘れて』っていうから『何の事?』って言っておいた」
「付き合うつもりがない上に同僚だったらそう言うしかないよね」
「せめて普通の告白だったらなあ。理由が理由だからドン引きせざるをえなかったよ」
「『デブだから好き』を言い換えれば、『中身はどうでもいい』ともとれるしね」
「うん。でも案外冷めた反応だな。てっきり『付き合っちゃえばいいじゃん。それで晴れて兄ぃ専属メイド二代目誕生』とか煽るものだと思ってた」
皆実は答えあぐねたのか。視線を上にそらし、指を口にやる。
「んー、正直言うとね……うちは兄ぃがシノさんと付き合うのは反対」
「どうしてさ」
「まあ、ちょっと。それより、うちはねぎさんの方が気に掛かるんだけど」
引っかかる言い方、しかしもっと気になる事を口にされてしまった。
「ああ、こないだ相談した件か」
「どう考えても女性でしょ。男同士で『私はみつきさんだけがいればいい』はないよ。キモイよ。女性のうちですら、男性にそんな台詞はそうそう言えないし」
「だよなあ」
「だから確かめようよ」
「どうやって?」
「スカイプ。ボイスチャット持ちかければ声でわかるじゃん」
「そこまでするつもりはないよ。それにボイスチェンジャーだってあるしさ」
実際に俺も動画配信の際には使っているし、声で性別はわかるまい。
「ボイスチェンジャーは使わないと思うよ」
「どうして?」
「ねぎさんは兄ぃと違って配信してないから、そういう発想に至るかがまず怪しい。発想に至ったとしても、もしボイスチェンジャー使ってるのがノイズとかでばれたら印象悪くなるって考える」
「そういうものかね」
「そういうもの、普通のネトゲ友達ならまだしも相方だしね。自分に置き換えて考えてごらんよ」
「確かに俺もねぎ相手にボイスチェンジャー使おうとは思わないけど……」
そう言われれば納得せざるをえない。
「でしょ? だからやろやろ。もしねぎさんが女性だったら、晴れて兄ぃ専属メイド二代目候補誕生なんだしさ」
「仮にそうだったとしても、世の中そんなにうまくいくかよ」
「いくいく。そうなれば兄ぃは幸せ、兄ぃの幸せはうちの幸せ」
皆実が嬉々として話す。しかし兄ぃ思いに聞こえる台詞は口先だけ。引っかき回して面白おかしく楽しみたい本音が表情から丸わかりだ。
「バカバカしい」
僅かばかりの白飯を口に入れ、幾度となく噛みしめる。たったこれだけしかないのだから、とことん味わわないと。
──食後はマッシュにIN。
本日はレアアイテムが釣れるイベントが催されている。ねぎと合流して湖で釣りをしながらチャットしていたところ、襖の向こうから皆実が声を掛けてきた。
「兄ぃ、風呂に湯を張ったから入って」
おう、と答えて部屋を出る。すると皆実が腰を屈めつつ、へりくだる様に浴室まで先導を始めた。
「ささっ、どうぞどうぞ」
「一体なんなんだよ」
皆実が浴室を開けるとラベンダーの香りがふわり漂ってきた。アロマか。浴室には各種指圧&マッサージグッズが並べられていた。浴槽にはアヒルまで浮かんでいる。
「兄ぃに日頃の疲れを癒してもらいたくてさ。これはお水。飲みながら入浴するとダイエットに効果あるよ。これは防水タブレット。動画もマンガも楽しみ放題だからね」
皆実は得意満面で両手を広げる。しかしこれはどれだけ自慢されてもいい。兄ぃ思いなのは口先だけ、などと思ってすまなかった。
「皆実、ありがと。兄ぃは最高の妹を持ったよ」
「泣かなくていいから。さあさあ、入って入って。ゆ~っくりと浸かってね」




