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13/04/08(2) 横浜オフィス:キモイ

 夕方に帰庁。部屋にはシノ一人だけ。お茶をすすりながらニュースを見ている。

「シ~ノ~ちゃ~~ん~」

 観音が床を蹴り上げダッシュで飛びつく。シノが視線をこちらに向けた時には時遅し、その細い体がへし折られそうな程に力一杯抱きしめられていた。

 まさか本当にやるとは……この女はバカだ。

「ああ、シノちゃんの胸ってふくよかでむにむにしてて最高です~。癒されます~」

 観音が顔をシノの胸に埋めてすりすりしている。まさに旭。長身ゆえ余計に迫力。

 シノがぽかんとする。しかし我に返ったか、吐き捨てる様に一言放った。

「キモイ」

 完全に呆れている。目を細めて見下した様はバカにしている以外の何物でもない。

 観音が胸から顔を離して立ち上がった。その顔面は蒼白。ふらふらと歩く。あ、転んだ。しゃがみ込んだ。そのまま顔を埋めて丸まった。

「シノ、どうするんだよ。観音さんいじけちゃったじゃないか」

「え、でも、だって」

 シノは当然だと言わんばかりに、俺と観音へ交互に視線を往復させながら戸惑う。

「観音さん、直しの件を気にしててさ。それをフォローしようと飛びついたわけ」

「ああ、そうだったんだ」

「あんな所でいじけられると、邪魔だし、うざいし、何とかしろ」

 観音がしゃがみこんだのはよりによって冷蔵庫の前。ほっとくと開けられないじゃないか。シノは頷いてから、観音のところに歩いていく。

「観音さん、今日帰りにお茶しませんか。私、ケーキ奢っちゃいますから」

 観音が小さな声でぼそりと呟く。

「ケーキだけじゃ嫌だ。アイスとクレープもつけて欲しい」

「はいはい、アイスとクレープもつけますよ。さあお席に戻りましょうね」

「うん、えっぐ、えっぐ」

 シノは泣きじゃくる観音の手を引き、彼女の席まで連れて行く。

「はい、よしよし。今コーヒー入れますからね。大人しくいい子いい子して下さいね」

「うん……」

「はい、どうぞ。お仕事疲れたでしょう、肩揉んであげますからね」

 観音はぽけーっと至福の表情、ってバカか。あなたに上司のプライドはないのか。

 でも気まずい雰囲気はなくなったな。これは観音の計算だった事にしてあげよう。


                    ※※※


 帰宅後は夕食を済ませてからマッシュにIN。いつも通りにねぎとのチャット。

〈みつき:そろそろ、入れてもいいんじゃね?〉

〈ねぎまぐろ:私は嫌です〉

〈みつき:でも入れてみると案外いいかもよ? その内よくなってくるって〉

〈ねぎまぐろ:入れちゃうと何かが変わってしまいそうで〉

 話題は俺達のギルド「漆黒の羽」の新規メンバー募集。

 俺達は前のギルドをやめてから新しくギルドを作った。それ以来二人だけで続けてきたが、二人ともプレイヤーとしてスキルアップを果たしたし、ここらでギルドも次の段階に進めようと提案したのだ。

〈みつき:やっぱり人数がいた方が便利な時もあるしさ〉

〈ねぎまぐろ:二人だけだからいいんですよ。私はみつきさんだけがいればいい〉

 ──へっ?

〈みつき:それってどういう意味だ?〉

〈ねぎまぐろ:いや……深い意味ないですけど……〉

 ねぎの台詞に抵抗を覚える。

 ねぎって男だよな。これまで一緒にいるだけで楽しかったから特に意識する事も聞く事もなかったけど、当然の様に男だと思っていた……まあ、一旦置いとこう。

〈みつき:実はさ、もしかすると仕事が忙しくなるかもしれないんだ。そうするとIN時間減るかもしれないから、ねぎが退屈しちゃうんじゃないかって思ってさ〉

 今後の展開次第では庁内ニート卒業。そうなると今まで通りには遊べないだろう。

〈ねぎまぐろ:私は別に独りでも遊べますから気にしなくていいですよ〉

〈みつき:いつもINしたら即座に俺にチャットを打ち込んでくる寂しがり屋が何を言ってる。みなみだって入れるし、知らない人ばかりにはならないからさ〉

 人見知りの上に寂しがりって、どれだけ面倒くさい性格してるんだよ。

〈ねぎまぐろ:何があっても「相方」でいてくれるって約束してくれます?〉

〈みつき:ん? ああ、もちろん。それは当然だろ〉

〈ねぎまぐろ:うん、それなら新規ギルメン募集の件も考えてみます〉

 何だかなあ、いちいち引っかかる。折りを見て皆実に相談してみよう。


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