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11/12/19    本庁オフィス:牛丼の大盛つゆだくだく!

11/12/19 月 14: 00


 マルセ本国の最高指導者が逝去した。それに伴い〝報告書〟がプリンタから大量に打ち出されている。

 報告書とは、現場の入手した情報が記された文書。本来その一部は俺にも配布されるはずだが、机の上はガランとしている。

 段原補佐に仕事を取り上げられたからだ。

 夏の一件以降、段原補佐は俺からの決裁文書全てに判子をつかず、自らの印鑑欄に×印を入れて差し戻す様になった。これは「補佐止め」と呼ばれる。この横暴としか言いようのない補佐止めは、俺どころか課全体の業務にまで支障を来した。

 これを受け、西条管理官は俺達の仲裁に入った。しかし段原補佐は「弥生君の文書に不備があるから判子を押せません」と建前を講じた。

 お役所仕事では「建前」が最大の正義である。建前は「言い訳」と言い換えてもいい。建前さえ正当なら、例えその行動が間違っていても言い分が通る。

 当事者間ではイジメだが、補佐止め自体は段原補佐の正当な職務行為。西条管理官はそれ以上何も言えなくなってしまった。然して俺が担当するはずの報告書は、段原補佐に直接回されることとなった。

 もっとも無茶な我が儘を通した以上はその報いも受ける。

 言い分が通るのと、それがどう評価されるかは話が別だ。段原補佐は確実に飛ばされるだろうし、本人もその覚悟のはず。事実、西条管理官からは「来年三月まで我慢しろ」と言われている。

 ──隣の席から、聞くだけでも苛立つ甲高い声。

「ついにマルコ様の手作りクッキー手に入れちゃったよ~」

「本当ですか? あれ、オークションで暴騰して三〇万円以上しちゃってるでしょ」

「マルコ様のためなら三〇万円くらい安いよ。普段だって握手会の券手に入れるためにCD何枚買ってると思ってるのさ」

 妻も娘もいる五〇も越えたオヤジがバカじゃねえのか。

「それでそのクッキー食べちゃうんですか?」

「まっさかあ。真空パック加工済だし御守りにするよ。ネックレスにすればいつでもどこでもマルコ様と一緒じゃん」

 うえっ、気持ち悪い。

 我慢しろと言われても、大嫌いな奴の隣で仕事もせず座っているだけなのは気が滅入る。ましてやネズミ野郎がはしゃいでいるのは目にしたくない。

 よし、地下へ行こう。よっこらせっと。

 最近体が重いなあ。それもそうか、体重は八〇㎏。七月から五ヶ月で一五㎏も増えた。身長が一七五㎝にしては重いよな……。


 エレベーターで地下に下りて本屋で立ち読み。

 すっかりこれが日課になってしまった。本日はゲーム情報誌。役所の書店ながら幅広いジャンルの本があるのはありがたい。

 日課を終えたので一階へ上がり、庁舎の外へ。

 有楽町駅まで歩き、ガード下にある牛丼屋に入る。

「牛丼の大盛つゆだくだく!」

 注文が届く。すぐさま丼を掴み、流し込むようにかきこむ。

「大盛おかわり!」「大盛おかわり!」「大盛おかわり!」「大盛おかわり!」

 ……まったく。食べでもしないとやってられるか!


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