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13/02/21(2) 地下鉄電車内:あと一〇〇㎏痩せてから出直してきて欲しい人にそんなこと言われたくないです~

「弥生さん~」

「うん」

「弥生さんてば~」

「うんうん」

「デブ~」

「うんうんうん」

 結局あてもないまま、現在は市営地下鉄の中。

 シノに相談しようと思ったが外出していた。携帯の電源を切ってるから恐らくマルコウ。しばらくは連絡つかなさそうだ。

 ──電車が地上に出る。どんよりとした曇り空が余計に気分を滅入らせる。

 何かいい手がないものかなあ。

 中国やロシアは領事館員や留学生の客がいてなんぼ。あとは各種団体めぐりだけど、まるで勘所が掴めない。仮に調べて訪ねたところで話の聞きようがないし、その国特有の礼儀やマナーすら知らない。それこそトラブルを引き起こしに行く様なものだ。

 国際テロはモスクを回るんだったか。宗教絡むのは嫌だ。一歩しくじれば抗議どころか訴訟沙汰。そんな分野は迂闊に手を出したくない。以前にマルケイのイスラム教徒を調査したデータが流出して大騒ぎになったのもあるし。

「弥生さんってば~」

「いたた、耳を引っ張るな」

 しかも耳元でがなりやがって。

「生返事ばかりしてるからです~」

 ああ、ずっと呼んでたのか。

「すまん」

 謝ってから、旭の耳を引っ張り返す。小さいから実に摘まみやすい。

「いたた、耳を引っ張らないでください~」

(もっと小声で話せ。誰が聞き耳立ててるかわからないから)

 小声どころか、往来では口をつぐむのが本来は基本だ。

 旭がしおれながら、ひそひそ声で囁いてくる。

(ごめんなさい~。あのですね~)

「怒ってない。仕事と関係ないなら普通に話せ」

「ランチはどうするんですか~?」

「ランチ?」

 そう言えば食べてなかった。思案に暮れてて、そこまで気が回らなかった。

「終点のあざみ野まで行くのなら、人気のインド料理店はいかがでしょう~。一度行ってみたかったんです~」

「ああ、あそこな。構わんぞ」

 旭が住んでいるのは同じ田園都市線の溝の口駅。だから俺の住むあざみ野駅の店にも割と詳しい。時々沿線情報の交換もしてるし、その点に限れば旭とは仲がいい。

 ただ構わないと言っても、それ以前に店へ入れるかどうかが問題。何せ、いつも満席の人気店。カレー食べるのに予約するのも面倒だから、実は俺も行ったことがない。

 ──ん? カレー?

 そうだ。新人時代に手伝わされた、あの仕事がある。

「旭、ちょっと俺の家に寄るぞ」

「え~?」

「その不満げな顔はなんだよ。どうせあざみ野でランチするんだからいいだろう」

 旭がじとっと睨んでくる。

「いえ、弥生さんって独り暮らしでしょう~。何考えてるんですか~?」

 ああそうか、こいつだって性別女。常識的に警戒するか。

「今日は妹がいるから安心しろ。仕事に必要な資料を揃えたいだけだ」

「それならいいです~」

「そんな心配しなくても、お前には一切合切興味ない。あと二〇㎝背が伸びてから出直してこい」

「あと一〇〇㎏痩せてから出直してきて欲しい人に言われたくないです~」

「一〇〇㎏もねーよ!」

「ふんっ、です~」


 あざみ野駅についた時点で、念のため電話を入れて皆実の在宅を確認した。

 帰宅。ドアを開けて中に入る。

「兄ぃ、おかえ──」

 皆実が和室から顔を出す。その瞬間、旭は皆実に飛びかかった。

「あ~、このくりくりお目々がたまりません~。とても弥生さんの妹とは思えません~。寄せては返す引き締まった躰の弾力がたまりません~」

 兄ぃとしては妹の肢体の実況なぞ聞きたくない。

「この人何! いやあああ、やめてえええええ! 助けて兄ぃいいいいいいい!」

 旭は皆実を畳の上に押し倒した。皆実は手足をばたばたさせながら必死に抵抗している。しかし力尽きるのは時間の問題だろう。

 すまないが兄ぃは忙しい。仕事の準備を終えるまで旭のお守りを頼む。

 ぐーぐるさんにキーワードで相談を繰り返す。出てきた答えをプリントアウト。

 このくらいでいいかな。終わったので和室を覗く。

 あれから何があったのか、皆実は目を回して失神していた。旭は恍惚の表情を浮かべ、ぐだっと皆実の上に乗っかっている。まったくもう……旭の肩を揺する。

「旭、出るぞ」

「ふわぁい~」


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