第四章 真実ライイング(2)
「狂言、だと?」
彼は意味が呑み込めずに思わず口を開いた。
「茶番ってことだ。……この試合に勝利すれば、奈岸南の嘘部が存続できるっていうのは大士戸と奈岸南のOBで作り上げた、嘘っぱちなんだよ」
しんとした空間に伸太朗の声が響く。あまりにも突拍子のない発言に、彼はそれ以上何も言えなくなった。
(な、何だよ、それ……流石に嘘だろ……)
「簡単に説明しようか。……来楽奈、俺はお前に嘘部なんて下らない部活をやめて欲しかったんだ。いや、部活だけじゃない。お前の異常な嘘に対する執着──、それを根こそぎ払拭させてやろうと思った。そのためにはどうしたらいいか……、嘘を吐かれるしかないだろう? 残忍な嘘を吐かれて、嘘に絶望をするしかない。だから、俺はこの計画を立てたんだ。この親善試合をセッティングして──嘘部が存続できるという、でかい嘘をな」
「…………」
来楽奈は無表情で伸太朗の話を聞いている。瑠子は完全に呑まれていて、わなわなとした様子で伸太朗を凝視している。
(……嘘に対する執着は……あの日に断ち切れたはずだ。今、来楽奈は嘘が好きな少女ではなくって、嘘部の一員としてこの場に臨んでいるはず……もし、元のままの来楽奈のままでここに臨んでいたら……)
今の伸太朗の言葉は深く来楽奈の心を抉っただろう。
(でも、兄貴はそのことを知らない……まだ嘘に執着心を持ってると思っていたら……)
伸太朗の話は続く。
「現実的な話をすれば納得するだろう。考えてみろ、たかだか親善試合に勝った程度で公式記録として残ると思うか? そんなことは有りえない。それは単純な活動の一環であって、公式記録とは呼べないだろう。……つまり、君等が勝とうが負けようが、奈岸南高校嘘部は廃部になるんだよ、六月三十日付でな!」
伸太朗がそう言い切った瞬間、彼はディスプレイで来楽奈の数値が上昇したのを見た。鋼のような平常心を持つ彼女が唐突にぶれた。兄の言葉に動揺しているのだ。
「そ、そんなの嘘だ! おい、大宮本気にするなよ!」
彼は来楽奈に言った。彼女は驚いたように彼のことを見たが、すぐに目を伏せる。
「同意できないはずだ。お前はそのことに薄々と気づいていたんだろう。本当は、嘘部は廃部への道しか残されてないってことをな」
伸太朗が見透かしたように言う。来楽奈は歯噛みするように目を細めると、口を開く。
「おかしいと思ったのはこの試合の形式が、今までうちの嘘部でやっていたそれと全く同じだって聞いた時よ。おかしいもの……、大士戸高校がルールを決めるって言っていたのに、結局うちの部活と変わらない形式だなんて……」
「それは、我々のバックにそちらのOBが方がついていたからだ。特に、そちらの保月氏にはよく協力してもらった」
彼は思わず保月の方を振り返った。保月はいつもと変わらぬ人のよさそうな笑みを浮かべて何も言わない。
「来楽奈、他にもあるだろう? 例えば……、そちらの顧問の黒凪先生のこと、とかな」
「…………やっぱり、先生、嘘を吐いてたの?」
来楽奈は沈んだ声を出した。同時にその言葉は彼の記憶を掘り起こす。黒凪の言葉に、違和感を抱いたあの時の記憶──。
(そうなんだ、あれは……、『頑張って勝ってこの部活をなくならないように』って言葉……あの部分が、不自然だったんだ……)
人は嘘を吐くときに、視線がどこかに泳ぎ、不安げに手が何かを弄り、落ち着きがなくなる。確か、黒凪に入部届を出しに行った時も、そこに該当する発言の時、黒凪は目を泳がせていた。
「そうとも、黒凪先生も協力者だ。この計画で一番の肝となる、『親善試合でも、勝てば公式記録として認められる』という嘘を吐いてもらっていた。俺が彼女にたまに会いに行っていたのは、この『嘘』を実行する打ち合わせをしていたからだ。まぁ、それが偶然一人の危機を救う要員になったのは皮肉だな」
「……」
「お前は、周囲の誰からも騙されていたのに、目を輝かせて今日という日を信じて嘘を吐いてきた。どうだ、嘘に叩きのめされる気分は」
「……最低な気分よ」
来楽奈はその劣悪な気分を再確認するように、言った。自分の青春を捧げてきた部活を、結局救うことができずに、ただ兄の掌で踊らされて終わる。最低、最悪としか言えない気分。それを味合わせるためにわざと、怪しい部分を残していたのだろう。薄々と、勘付かせるために。
予想通り、嘘部存続の話は嘘だった。彼女は、一人その事実を受け入れて、絶望に沈んでいく──。
「それは違う!」
彼は叫んだ。来楽奈の表情が悲痛なものに変わっていくのを見ていられなくて、何の根拠もなく叫んだ。
──いや、根拠はある。
違和感。たった、それだけ。
「あんたが計画を立てたって? じゃあ、最初にどうやってこっちの嘘部の関係者にコンタクトを取ったんだ。……あんたとは何の接点もないはずだぞ」
彼の指摘にも伸太朗はほとんど動じた様子を見せずに言った。
「何かと思えば……そんなの簡単だ。俺が行動を開始したのは去年の十一月のこと。来楽奈が同学年の生徒に嘘を吐きまくっていた時期だ。危機感を抱いた俺は、この計画を思いついてそれを黒凪先生に持ち込んで、今回の件を了承してくれた。そこから準備を進めていくのに、OBと知り合うのは必然のことだろう」
(クソ、嘘だらけじゃねーか! 違和感だらけで逆に違和感がねえよ)
「でも──、っ!」
それでも言い返そうとした彼の目の前に、掌が差し出された。彼は言葉ごと息も呑み込んで、その手の主を見る。それは、諦念の表情を浮かべた来楽奈だった。
「お前……何を……」
「もう嘘部は手遅れなのよ……? もうこれ以上……、何を言っても何も変わらないわ」
「いや、そ、それは違う……、こいつは嘘を吐いてる……」
「でも……! もう、嘘部が廃部になるのは変わらない! もう、嘘とか関係なしに! 黒凪先生が嘘を吐いてたのは……あんたもわかってるんでしょ? この試合の勝敗なんて関係なしに……嘘部は、廃部なの……」
(ぐっ…………)
そこは否定できなかった。黒凪は嘘を吐いていた。それは、もう間違い無いと彼は思っている。何故なら、伸太朗の『黒凪先生も協力者だ』という発言には違和感を抱かなかったからだ。
伸太朗はメガネの向こう側から眼を鋭く光らせて言う。
「その通りだ。もう、どう足掻いてもそちらの嘘部は終わりだ。……それで、この試合はどうする? 一応、親善試合は正式に進行しているが──まだ、続ける気はあるか?」
「……もう……、良いわ」
「棄権するということか?」
「……そうよ。それで……いいわよね」
来楽奈は彼と瑠子の方を確認するように見やった。瑠子は何がなんだか分からなくなっているようで、がくがくと頷いている。だが、彼は頷くわけにはいかなかった。伸太朗は嘘を吐いている。それがわかっているから、このまま黙って伸太朗の罠にはまっているわけにもいかない。
「大宮、ちょっと待て」
「で、でも……」
(……奴の言ってることを仮に正しいとすると、この試合を整えたのはすべて奴の指図ということになる。『奴が、すべてを指図していた』……。ここを軸にしていれば、奴の言っていることの矛盾点が暴けるはずだ……)
「……」
深呼吸した。ここで、頷いてしまったらその時点で試合が終わる。続行してもしなくても変わらない勝負なら、終わってしまっても構わない。だが──、それではもっと大きな何かが終わる気がする。
(奴がすべて指図していた……としたら、どこか不自然な点があったはずだ。どんな計画にもイレギュラーはある。スパンの長い計画なら尚更だ。……不自然なところ……、不自然な場所……、不自然な……タイミング?)
彼の脳裏に閃くところがあって、思わず振り返ってしまった。視線の先には保月が居る。いつものような、人のよさそうな笑み──、まるで彼に笑いかけているようだ。
(『君が嘘部を救ってくれると信じて今の風景を見せたんだ』。……クッソ、今更分かったよ、保月さん)
彼はまっすぐに伸太朗を見据えて言った。
「なあ、最後に幾つか質問させてくれ。あんたがこの計画を立てたんだとすると、協力者への指示は全部自分で出してたんだな?」
「そう言っても差し支えはないだろう」
「ということは……ルール変更もあんたが決めたのか?」
伸太朗は動じた様子を見せずに、あっけらかんとして答える。
「そういうことになる」
「何故……あんなルール変更をした?」
「そちらのほうが面白いだろう。勝利をより強く求めるようになって、嘘の駆け引きも更に洗練される」
(違和感まみれだ……自信満々な体裁なのに、よくぞまあこんなことをできる……)
「……結局意味のない試合なのにか?」
「俺は嘘を徹底的に吐く主義なんだ。ルール変更があれば試合が近づいているという雰囲気が出る」
「……そのルールを思いついて、変更の伝達をしたのは──いつだ?」
彼の質問に、伸太朗は変わらない調子で答えた。
「一昨日だ。君も来楽奈の口から聞いたはずだぞ」
(掴んだッ! 今のセリフだ!)
伸太朗から湧き出ていた嘘という違和感のしっぽを、彼は掴んだ。引っ張れば、あっという間に積み上げた嘘を瓦解させることのできる、矛盾という尻尾を!
彼は手札を持っていない方の手で伸太朗を指さして言い放った。
「それは違うぞ! あんたがそのルールを一昨日伝達したというのは嘘だ!」
「……何を言う?」
伸太朗はそこで初めて眉根を寄せた。その反応は、彼にとって確かな手応えだった。
「俺があんたに不良から助けてもらった翌日に、保月先輩が部活に来たんだ。来楽奈は部活に来なかったから知らないだろうがな。あの時、保月先輩は黒凪先生に用があったんだ。──とある情報を渡すっていう用がな」
「……その、情報とは?」
「他でもない、ルール変更通知だ。保月先輩はその旨が書かれている書類が入った封筒を黒凪先生に預けていた。つまり、あんたが一昨日決めたって言ったルール変更は、実は一昨日よりも前からなされていたんだ!」
「……くっ、なんだと……」
伸太朗は目を瞠って言う。彼はそんな伸太朗の様子を冷静に見ていた。
(……封筒って言葉に反応したな。ということは、つまり──)
「その反応だと、あんたがそのルール変更を知ったのは、本当に一昨日なみたいだな。……例の封筒に入った書類を読んで知ったのか?」
「…………」
「黒凪先生は保月先輩から情報を受け取っても、誰にも渡さずあんたからの連絡を待っていたんだろう。そうして、一昨日にあんたは恐らく黒凪先生に確認を取ったはずだ。『ルール変更の通達が来たかどうか』ってな。それで黒凪先生はやっとあんたの確認が取れたから、大宮を呼び出してルール変更のことを教えた……そういうことだったんだな」
「え、ええええっと……、そ、それでどうなるの?」
瑠子がすっかり混乱した様子で訊ねてきた。彼にはその答えがもう出ている。言葉の矛先を伸太朗に向けて、言った。
「つまり、ルール変更を指図した人間が、この偽りの親善試合のすべてを計画したはずの大宮伸太朗の上位にいるってことだ。──必然的に、この親善試合をセッティングしたのも、その上位の人間、或いは組織ってことになる」
「そ、それって……」
来楽奈が声を上げたので、彼は彼女の方に顔を向ける。来楽奈の眼には再び希望の色が蘇っていた。その希望に応えるように、彼は強く頷いた。
「まだ、試合は終わっちゃいない。この試合に勝ち抜けば、嘘部が残る可能性はある!」
「じゃ、じゃあ……さっきまでの兄貴の言葉は……」
「……棄権させるための、策略だったんだよ」
「策略……」
来楽奈が声を漏らす。そこで伸太朗は忌々しげに呟いた。
「そんな箇所から看破されたのは意外だったが……、その通り、この試合に乗じて仕組んだ嘘だ。それは認めよう」
そして、表情を変え口の端を吊り上げて言った。
「だがな、ディスプレイを見てみろ」
奈岸南の嘘部員たちは伸太朗の言にハッとして、脇に置かれていたディスプレイに視線を向けた。そこに刻まれている膨大な数値──、伸太朗の嘘に振り回され続けた末路がそこに表示されていた。
「本当は今のタイミングで棄権をさせることが目的だったが、このパターンも悪くはない。もう、この差はひっくり返せまい」
差は合計で300近くある。仮にすべてのババ抜き勝負で勝てたとしても、90ポイントしか加算されないので全く足りない。思わず彼は来楽奈と顔を見合わせる。また、諦めたような顔をしていたらどうしようかと思ったが、──逆だった。
燃えていた。この差をひっくり返そうとする闘志が、瞳に宿っていた。
「何……、あんな諦めムードだった状況をひっくり返したのに、この程度に差でビビってるの?」
「……んなわけあるか。おい、瑠子、お前も大丈夫だよな?」
「え、えええ……が、頑張るよ……うん、頑張る!」
──奈岸南高校嘘部は、団結した。ここに来て、ようやく勝負が始まったのだ。
(ルール変更を指図した連中が一体何なのかってのが気になるが、……あの野郎がここまで必死こいて勝とうとしてるんだ、きっと何かがある!)
「す、凄いなあ。俺なんて役目もなく終わると思ったのに……、えーっとじゃあ、自分から引いてって良いっすか?」
そこで橘涼護が沈黙を破って提案した。その場の全員が頷いたので、橘は隣の伸太朗の方に手を伸ばした。先ほど自分で卓に叩きつけた手札をまた拾い集め、裏面を橘の方へ見せる。ここに至ってようやくまともなババ抜きが始まったのだ。とてつもないハンデを乗せて、だが。
淡々とゲームが進んでいく。彼は二回連続で引いたカードでペアを作れて手札を減らすことが出来た。
(……駄目だ、こんなんじゃ差が縮まらない)
ババ抜きはシンプルな分、大人数でやると単調なものにならざるを得ない。しかも、こんな風にチーム同士が固まっていては尚更だ。
(もしかして、この橘ってヤツ、並び替えを提案させないために速攻で自分から始めることを提案したのか……?)
そうなのだとしたら、相手はただならない相手だ。想像していたのよりも、ずっと。
「上がりよ」
来楽奈が最初に上がった。彼の隣に伸太朗が来ることになる。
彼は伸太朗に自分の手札を差し出す。ババはまだ回ってきていないので、駆け引きも何もない。声を出す機会を見出すことができず、歯がゆい思いでカードを引いては差し出す。気味が悪いほど順調に手札が減っていく。
(……コイツら、ジョーカーを止めてるんだ)
彼は確信した。仲間内で示し合わせて、ジョーカーを引かないようにしているのだ。面白みのないゲームにして、『アンチライヤー』の数値の変動をできるだけ少なくしようとしている、逃げの作戦──。
(いくらハッタリを使ったところで、すぐに嘘だとバレるから意味がない……くそ、ゲームが終わるのを黙って待つしかないのかよ……)
結局そのまま、大した動きもないままに橘、彼、瑠子の順で上がってその回は終了した。
「えーっと、じゃあ負けた大士戸高校の方に数値30を加算します」
保月がそう言って、ディスプレイの裏側に回る。しばらくすると、音もなく大士戸側に30点が加えられた。まだまだ全然足りない。もっと、もっとアクションを起こさなければいけない。
保月はトランプを集めると、入念にシャッフルをし始めた。その間、実質休憩時間のようになる。
「ちょっと提案なんだけど」
そこですかさず、来楽奈が口を開いた。視線が来楽奈の方に集まる。
「並び替えをしましょう。この並び順だと駆け引きのしようがないわ。奈岸南と大士戸のメンバーが一人おきになるように座れば、もっと面白くなると思わない?」
「あー、確かにそっすね! いや、さっきはそこまで気が回らなくてすみませんね」
来楽奈の提案に橘が真っ先に賛同した。あまりに白々しいが、誰もそれを咎めること無く次のゲームの準備に入る。
最終的に来楽奈、伸太朗、彼、郡山、瑠子、橘という並び順に決まって着席した。
「じゃあ、二戦目ですね。頑張ってください」
保月はカードを配り終えると、そんな風に言って卓から離れた。彼は自分の手札を確認して、ペアのカードを一セット捨てる。ジョーカーはない。
(一戦目はほぼ無駄に終わっちまったが……ここからはそうはさせない)
「……じゃあ、さっき最初に上がったから私から始めても良い?」
「構わない。さあ、引け」
再び隣り合わせになった大宮兄妹から、ターンが始まる。彼は伸太朗に自分の手札を渡し、郡山から一枚取る場所に位置している。
伸太朗は相変わらずの鋭い眼光で彼の手札を睨むと、一枚持っていく。彼は身体の向きを変えて郡山の方を見た。この寡黙な少女は黙って手札を差し出す。
「……」
その無言の圧力に気圧され彼も無言になりながら、その手札のうちの一枚をつまんで引っ張った。が、取れない。郡山が指先に強い力を入れているので、取れないのだ。
(ガ、ガキかよ……)
彼もムキになってその一枚を強引に引っ張った。だが郡山はなかなか手放そうとしない。十数秒そんな駆け引きを繰り広げて、ようやくその一枚を取ることが出来た。
(ったく、苦労かけさせやがって……って、え……)
苦労して引いたカードには目を楕円形にして笑う道化師の姿がプリントされていた。
(ババかよ、畜生!)
──そのやり取りのお陰で彼の数値は上昇する。彼はディスプレイを見たくなかった。
(さっさとこのババを、このインテリにくれてやりたいが……どうすれば良い?)
何かを思いつく前に、伸太朗がカードを引く番が来てしまった。ところが伸太朗はあっさりと彼の手札からジョーカーを持って行ってしまった。
(……ラッキー)
とはいえ、流石に伸太朗は動揺した素振りを見せず、また数値の上昇も見られなかった。
そのまま数巡し、まず最初に郡山が上がった。それの影響で彼も二番手として手札をすべて消化することができた。
手持ち無沙汰になった彼は、ディスプレイを見やる。奈岸南と大士戸との差は一向に縮まる気配が見られない。実際には、先ほどの300から290と微妙に縮まっているのだが、これだけ差が大きいとそれほど嬉しいものではない。
(やっぱ……、どデカイことをしないと、ダメだよな……)
彼はディスプレイの数値をよく見て、分析してみた。ババ抜きが開始された時点での差は300程度だったが、その内訳としてはこちらの動揺値が三人合わせてざっと500、そして論破した時の動揺が作用したのだろう、相手の動揺値は三人合わせて200程度だった。つまり、こちらは一人あたりだいたい165、あっちは一人あたりだいたい65、ということになる。
(……まあ平均して一人約100くらいか。そんでもって、300の差を埋めるには……三人をめちゃくちゃビックリさせる必要がある、か)
その時、ディスプレイの値が変化した。差が280ほどに減る。卓の方を見ると、どうやら来楽奈が橘に対して何らかのアクションを起こしたらしいが、見ていなかったのでよく分からない。
(……後で訊いてみるか。そんなことよりも……、えっと、何かデカイことをするにしても、味方が驚いてても意味が無いんだよな)
彼の頭の中では、もう次の最終回で一発逆転をすることでいっぱいになった。
(嘘……真っ赤な嘘で相手の三人だけが全員驚くような嘘……。アクション、派手な演出で、相手の三人だけが驚くようなこと……んんん…………)
「ちょっと」
「ん? ああ、どうしたんだよ」
気がついたら、隣に来楽奈が立っていて彼を見下ろしていた。
「どうしたじゃなくて……、もう次のゲームになるからまた席替えするの。だから、そこをどいて」
「あー、はいはい、そうだったそうだった……」
彼はそさくさと移動して、さっきまで瑠子が座っていた席に腰を下ろす。これで並びは伸太朗、来楽奈、郡山、彼、橘、瑠子となる。
(大宮来楽奈……か)
よくシャッフルされたカードが保月の手によって配られていく。そのさなか、彼はぼんやりと思い出したことがあった。
『ねえ、どうして……あんたはここまでしてくれるの?』
『……言えない。でも、後で言う。絶対に。その時までに、もっと分かりやすい言葉にして、言う。約束する』
いつの日かした、約束の応酬。彼はすぐさま思考を巡らせはじめた。
(──……大宮兄妹は、仲が良い。いがみ合ってるようにも見えるし、さっき兄貴の方はあんな大掛かりな嘘で妹を陥れようとしていたが……それも、妹のことを思って、なんだったんだよな……? 少なくとも、俺が昨日見た兄妹のやり取りは、仲がいいものだったぞ。少なくとも兄は妹のことを思ってる)
彼は来楽奈と伸太朗を見比べながら考える。それから、視線を郡山と橘にシフトさせた。
(……多分、こいつらは大宮兄に賛同してここまでついてきているはずだ。ということは、事情をある程度知っているはずだ……、少なくとも兄が妹のことをよく考えてる、くらいにはな。ってことは……)
彼は瑠子の方に顔を向けた。最初よりも落ち着いた様子で保月のカードを配る手つきを眺めている。
(こいつは──なんとか意思が伝達できれば、動揺させずに……)
それからディスプレイの方を見やると、240ほどになっていた。どうやら、さっきのゲームも勝ちを収めたらしい。
(……あっちの陣営三人、と、こっちは大宮一人。三ひく一は二……、200! こ、これで微妙に誤差が出れば……行ける!)




