第五話(帰り道)
いつものように、家に帰って宿題するのが嫌という建前を使って、
二つ空いた席を挟んで佐久間君と森永さんが異世界話をしているのを聞いていた。
もっと聞いてたいけど不自然だから帰る事にした。
だって予習復習まで終わってるのに帰らなきゃ変だろう(汗)
可愛らしくコテンと首を傾げつつ森永さんが
「もし異世界人が全員同じ顔だったら見分けつくかな?」
そして、佐久間君が口元に手を当て
「慣れたら表情動作で分かると思うが、最初は仕方ないから服とかリボンとかでプレゼントしてみるか」
そんな話をしているのを最後に
「じゃあ、また明日。暗くなるから2人とも気をつけて帰りなよ」
そう言って廊下側の一番後ろの自分の席から立ち上がって帰ろうとすると。
「うん、大久保君も気をつけてね!!また明日」
まぶしい笑顔で大きく手を振る森永さん。
「ありがとう、また明日」
控えめに手を振って穏やかな目をしてそう言ってくれた佐久間君。
一応3年間クラス一緒だったので挨拶ぐらいはするし、
連絡関係でたまに2人とちょろっと話す。
異世界の話は決して自分達からは言い出さない2人なので、
日常会話だけなら何事もない。
まあ2人だけでずっと話してるので割り込む隙はほぼない為
「えっ!?あの2人異世界以外の話も出来るんだ」
とめちゃくちゃ失礼な事を悪気なく言ったのは2人の同中の山谷君。
一年の時に2人の事教えてくれて以来よく話す様になって友達になったのだが、
言葉の選択に酷い時があるので誤解されてしまいがちだ。
でも、山谷君が驚いてる意味が分からない。
挨拶は皆にしてるし、それで普通に返して、
「今日はいい天気だね」
とか
「あっ雨降ってるね」
「暑いから、水分補給しかりしたほうがいいよ」
「寒いね…大丈夫?手冷たそうだけど…」
「おお、雪降ってきたね」
みたいな感じでっていうか天気の話しかしてないな…いや先生が呼んでたよとか言った記憶も。
まあ、それだけなんだけど…
「いや、何かそういう会話もした事ないな…発想がなかった」
発想って…そんな大それたことでもないが。
まあ今は山谷君も皆もこれくらいの会話は2人とするようになってるので気にしないでいいか。
そんなことを思い出しながら自転車で家に帰る途中、
消しゴム無くなりそうだったんだとコンビニで自転車を停めた。
そしてコンビニに入ったら
「あれー久保君じゃんwww何、何?遅いじゃん、また残って宿題してきたの?」
と近藤君が話しかけてきた。
あっちなみに俺の苗字は大久保なんだけど、仲良い友達は何故か「大」を省略する。
近藤君は冷やかし事件以来佐久間君はともかく森永さんとは今でも冷戦状態が続いている。
「夏ならまだ何とかなるが、冬には近づけるな凍死する」
と山谷君には真顔で言われた。
あっ、でも、夏でも寒過ぎてタオルを巻いて武内君が
「寒い、バスケして温まってくる」
と言っていた。
バスケ好きだなっと武内君にほっこりさせられなかったらやばかった。
近藤君も森永さん達も好き好んで接触はしないが同じ高校だ。
すれ違う時とかあるし合同授業とかある。
なるべく接触させないようにしていたのはどうやら先生方も一緒だったようで、
近藤君とあの2人は3年間クラス一緒にならなかった。
まあ5クラスあるので偶然かもしれないが誰かしら手心加えたはずだと思っている。
「久保君~消しゴム買うなら俺ついでに買うよwww」
「えっいいよ悪いよ」
「気にしないでいいって、前に消しゴム無くしたら久保君くれたじゃんwwwちょうどお返しできるよ」
それにしても、近藤君とはこんな風に話すようになるとは思わなかったな。
あの冷やかしがあって苦手意識があったのだが…偶然近所で出会い、実は家が近いと判明。
それから、よく話すようになり遊ぶようになって友達になっていた。
近藤君は何かちょっとチャラそうな見た目と話し方をしてる為、軟派に見えるが現実主義で将来を見据えていてしっかりしている。
wwwって話し方も慣れれば愛嬌だし。中々整った顔立ちなので女の子にキャーキャー言われてるし。
そういえば、俺の友達って整ってんの多いな…
地味な顔立ちでも親からもらった大事な顔だから文句は言わないけど。
「はい消しゴムwww」
レジで買ってきたのを早速渡してくれた。
「ありがとう」
近藤君は義理堅いな…良いやつなんだよ。
だから、いつも思っていたけど、なんで近藤君はあんな冷やかしをしたんだろう?
確かに近藤君はパッと見はそんな真面目に見えないけど、実際は真面目だし、無闇に人を傷つけるような人じゃない。
佐久間君と森永さんの異世界に行きたいという話は現実主義の彼からして気に障るのは確からしいが、
わざわざ喧嘩売って馬鹿にする事はしない。
水と油みたいな3人なので関わったら反発することは目に見えてたのに。
そして思いついた答えは
「本当に異世界に行ってきたんじゃないか」
というもの。