第十二話(嗚呼・・・)
目の前にはきらきらした瞳の森永さん
横を向くと興味深そうな佐久間君
どうしてこうなった。
いや、遡ると朝、登校したとこから話そうか。
教室に入り既に佐久間君と森永さんが居た。
この2人はいつも一番乗りで学校に登校している。
確か6時半には既にいるとか。
うちの高校の始業時刻は8時半、でも先生達も6時半には来ていないので、
周辺で色々とやっているらしい。
園芸部と共同の畑で野菜を栽培したりしているので、
それの世話や、運動部と一緒に朝練をしたり。
でも早起きだな2人とも。
俺はそれよりは遅くでも周りの生徒が後10分すれば来る、
それくらいの時間に登校している。
「おはよう」
「「おはよう」」
佐久間君と森永さんが綺麗にハモりながら答えてくれた。
「さて昨日のまとめね」
「ああ、異世界の住人がすべて同じ顔だったら」
廊下側の一番後ろで掃除用具の入ったロッカーの直ぐ近くの席へ座り、
鞄から教科書や筆記用具を取り出しながら耳を傾ける。
「うん、見分ける方法だけど慣れるまではリボン等のアイテムをプレゼント」
「他には名札をつけてもらうとかだな」
「女の子なら髪型とか三つ編みとかもいいかも」
「まあ、そういうの嫌がられたら断念するしかないが」
「最終的には過ごした時間で分かれるくらいまで親しくなれたらいいよね」
「常日頃の観察眼だな」
「ああ、確かに観察が一番無難だね」
うん、なんだかんだで行動パターンでなんとなく分かる。
よくこちらを気に掛けてくれて気づくと傍にいるのがリーダーで、
それを見守りながら片手を顔に添えていたのが奥さん。
小さい子達は4人で固まっていたけど、行動がバラバラで早めに分かった。
他の大人たちも慣れてきたら大丈夫だったし。
「「えっ?」」
んっ?
あれ今…
「おはよー!!」
勢いよく駆けて教室の教壇近くの扉を開けて来たのはバスケ部部長の武内君。
朝の自主練習を終えて来たようだ。
はは…ナイスタイミング!
なんか今、口走った気がするけど、うん、ノーカウントで。
「おっおはよー」
少しどもりつつ、いつもより声大きめで挨拶。
「あぅ…おはよう」
しょげながら机に顔を伏せる森永さん。
「…おはよう」
なんか佐久間君は視線をこちらに一度向けてきたけど、
素知らぬ振りをさせてもらう。
「?」
キョトンとする武内君。
後ろの俺の席までやってきて小さな声で
「俺、何かタイミング悪かった?」
こちらも小声で
「いやそんな事ないよ」
むしろ凄く助かったよ。
朝はそれからクラスメイト達がやってきてそのまま流れた。
途中2時間目の数学で無意識に
「先生…カツラずれてます」
と爆弾を落としたらしいけど。
お昼に武内君と中学時代、佐久間君、森永さんと2年間同じクラスだったことがあると山谷君と話すまで声に出していたことに気づいていなかった。
なんでも、授業中に指されて黒板に向かう時にふと言っていたらしい。
あまりにも自然に言ったのと、ずれてる事にみんな気づいてたから、ついつい幻聴だと思ったそうだ。
先生も周りが普通の対応だったし、俺が何のリアクションもしないので、
そのまま幻聴だということにしたのではないか山谷君が分析してくれた。
「俺も最初あまりに普通に久保君がスルーするから授業終わってこっそり山谷に確認したよ」
「そうそう、その時に聞かれて幻聴じゃなかったんだーって分かった」
思わず両手で顔を隠した。
怒られなくて良かったけど、すいませんでした。
謝りにいくことによりばらしにいくことなので何も言うまい。
「でも、一番驚いたのは中村さんの事だよねー」
暢気に武内君はタコウインナーを食べて言う。
「今日の久保君は凄いな勇者だな」
山谷君は笑顔に何かを含ませて言う。
「えっ…俺、何言ったの」
中村さんとは少し地味だけど真面目で可愛い図書委員の眼鏡を掛けた女子だ。
密かにファンが多いが、何となく手を出せないそんな感じ。
「「中村さんって良い子だよね、そして、可愛い、うん、可愛い」」
「とぼけちゃってーこのー」
とぼけてないよ山谷君、とぼけてないよ。
「大事なことだから2回言ったんだね、分かる分かる」
武内君、違う。
いや大事だから2回言うってのはそうだけど…違うんだ。
「…」
3時間目終了後に中村さんが授業のノート集めるように頼まれてたんだ。
それで、ノート回収してる時に一人一人にありがとうって言って集めててそう思った。
そんな事考えながら中村さんにノートを渡したら、
持ってたノート全部落としてしまって急にどうしたんだって思いつつ一緒に拾った。
その時中村さん顔が真っ赤で何か言いたそうにしてたのって…。
顔赤いけど大丈夫とか聞いたら、か細い声で大丈夫って言ってすぐ他の子の所に行ったんだよ。
原因俺か…
ええい、他のクラスメイトも集まってきて俺をからかうな。
今日は早く帰ろう。
そうしよう。
放課後、掃除が終わって直ぐ帰る準備を始めた。
5,6時間目に英語と古典。
その二つがやたら宿題が多く、いつもなら教室に残るんだが、帰る。
真っ直ぐ下駄箱に向かう所で、中村さん発見。
くるっとUターンして教室に戻り何食わぬ顔で宿題をはじめた。
宿題ひとつ終わると、もう、いいや。
このままいつも通り予習復習も全部終わらせる事にしよう。
せめてこの時に帰っておけば…。
全部終わりそうって所で佐久間君と森永さんが教室に戻ってきた。
今日は2人とも料理部に行っていたようだ。
「異世界料理ってどんなのがあるかな?」
そんな話をして色々レシピ作ってたから試したんだろうな。
「さて、今日の感想は森永」
「料理はおいしく出来たけど、やっぱ地球の味にしかならないね」
地球の味って…まあでも味か…
「ああ、やはり地球の食材だと創作料理にしかならない」
味…そんな変わったものなかったな。
野菜のスープ、サラダ、それで卵はもちろんなかったけど、
パンとかケーキみたいなもの作ってもらった。
卵なくても出来るんだな。
「僕らでは異世界の味なんて分からないもんね、例え異世界の味でも判断できないし」
「まあ、色々な食材が捌けるようになったし、薬草の知識も出来た」
「それを活用出来たら御の字だね」
薬草は似たようなものあったな、ヨモギとかアロエらしきもの。
ぱっと見透明だったけど、触ったりすると形とか触った感じ似てた。
でも林檎ぽっいのと梨っぽいのは切るまで分からなかった。
「だが…生きた動物を捌くのは…」
「佐久間ってそういうの苦手だよね、蛙の解剖の時もめっちゃ涙目」
「必要に応じれば出来るが…出来るが…」
「一般の人は専門の業者さんに任せてしまってるからね」
「いざとなれば誰しも出来る事なんだろうが」
「現代っ子だからね僕達」
「捌けなくとも野菜中心で生きていけるけどね」
あっ
「確かに、肉食べなくても別に栄養足りないとかなかった」
「おおくbむが…さくま?」
「しずかに…っ…こほん、もともと菜食主義、ベジタリアンと呼ばれる人達がいるからな、なっ森永」
「そっそうだね佐久間!僕達も一時期試してみたしね」
「ああ、代謝が良くなった為か体重も落ちたな」
「そうだね肌も綺麗になったかも」
「だが、久しぶりに肉類を食べるとき胃もたれしたな」
あれ?普通に昨日も今日も食べたけどな?
「俺は胃もたれしてないよ」
「大丈夫!僕もしなかったよー佐久間は結構早く食べるからしたんだよ」
「ああ、早いと消化出来ないし、久しぶりだとビックリしちゃうって事か」
「そういう事だろう…大久保君も結構食べるのはやいと思うが」
「俺は早いほうだけど良く噛む癖付いてるからじゃないかな」
「大久保君を見習いなよー」
「今は一口20は噛んでいる。…森永もう大丈夫だ」
何が大丈夫なんだろう?
佐久間君が俺をじっと見た。
森永さんもこちらを見て…って!?
「えへ、大久保君が話しに加わるなんて…僕、嬉しいよ!!」
「ああ、大久保君なら何時でも歓迎する」
嗚呼・・・しまった。