第十話(バイバイ)
リャーンに来て2ヶ月目。
今日帰れることになっている。
戻る方法はシンプルで、初めにリャーンにきた所、俺の場合は村外れの野原。
そこに立ち、夕日を見ながらぼっーと立ってれば良いって言われたんだ。
立ってるだけでいいのか、何か儀式とか難しい事したほうがいいのではないか、と思ったのだが、
そもそもリャーンに来た時も突っ立ていたというか…事故に遭いそうになって動けなかったというか…だったし。
最初は衝撃か何かが原因かと考えたが、ぶつかっていたら今五体満足ではないよな。
軽傷だとしてもなにかしら傷はあるはずなので、立ってるだけでいいのかな。
もし…もし此処にまた戻って来れる可能性があるとしたら、
キーワードはあのタコの滑り台のある公園の道路・6月の夕方・そして車の何かが一致すればもしかして。
そしたら、一つやりたいことがある。
(久保)
(久保さん)
はっとして振り向くとリーダーと奥さんが手を握っていた。
手を握られる事に慣れすぎたせいか気づかなかった。
なんか当たり前のような感じでもう一心同体…いや言い過ぎたけどそれくらいになっている。
(お別れ…だな)
リーダが泣きそうな目で見上げてくる。
別れはリーダーと奥さんだけ立ち会う事になっていた。
有難いことに他のみんなや子供たちも見送りたそうにしてくれていたが、
異世界の者が来た時と似た状態で送り返すのが昔からの慣わしであるらしく、
リーダと奥さんはギリギリ見送っても大丈夫だろうということで見送ってくれる事になったんだ。
「そうですね…その…今まで、ほっんとうに…お世話になりました…」
息が苦しくなってきた。
「2人の、おかげで、なんとか生活出来ました。他のみんなも凄く親切で優しくて…」
心細いし、最初は心読まれるって事で恥ずかしいし何だか居たたまれなくて、
今も恥ずかしいしやっぱり不安定になるけど、リーダー達と一緒に生活出来て、楽しくて。
「おれ、リーダー達にあえて、すごくよかったって」
そう思った。
(久保さん…)
(っく)
リーダと奥さんに抱きつかれた。
(私達も、久保さんに会えて良かったですわ。今までの旅人とはこんなに仲良く出来たことはありませんでした)
奥さんが泣きそうにそしてどこか嬉しげに。
(私達を拒絶しないで、最後まで拒絶されないことは数少ないことです)
そんなことはないと思う。
此処の世界の人はみんな優しくて、とても綺麗な心で…
それに佐久間君や森永さんが来たら…
(でも、今此処にいて私達を拒絶しなかったのは久保だ)
リーダの金の瞳から涙がぽろぽろ溢れて、場違いにも綺麗だと思った。
(何が綺麗だ、この馬鹿)
「あっいやその」
ごめんなさい。
でも、こんなに泣いてもらえるなんて果報者だな。
ついつい自惚れてしまう。
友達としてこんなに想われて…
(馬鹿、ばか、ばっ…か…!!)
ものすごく罵倒された。
(もう、久保さんったら)
奥さんは困った子ね、という風に頬に手を当て息をついた。
(久保!!)
リーダーが勢いよく俺の目を見て睨みつけた。
怒らせてしまったかな。
こんな風に睨まれたことが多々あるけれど未だに原因がわからない。
(分からないか、そうか。なら覚えておきなさい)
一呼吸して再び睨まれたが、ちょっと顔が赤くなっていた。
(久保のことが、好きだ)
好き…好きってその友情…
ギロっと音がするんじゃないかっていうくらい睨まれた。
あっはい違いますよね友情じゃなくて…
友情じゃない?
つまり
「えっえっ!!!!!!!!!!!!好き!?」
まさかLOVEですか、LIKEでなく。
(本当に…気づいていなかったのか久保)
脱力気味にリーダーが言う。
「えっ?えっ?いや、だって」
(お前は…あんなにアピールしていたろうに)
(そうですよね、普通は仕事に慣れたら朝から晩まで毎日会いに行って、ぴたっとくっついてませんわ)
「それは心配してくれてたんじゃ、それに奥さんも一緒に来てたし」
(でも、普通に久保さんと手を繋ぐのはいつもリーダーでしたでしょ)
「リーダが奥さんに触らせたくないんだろうってやきもちか何かかなと」
(まあ、やきもちですわね。久保さんが自分以外とくっついていると機嫌が悪くなるのですよ)
確かに奥さん以外と手を繋いでも睨まれたような。
俺が嫌われてるのかと思っていた。
でも、リーダはその男の役割だって言っていたからそのそういう風に考えたことがなかったといいますか。
(確かに私は役割的に男の方だといったが、別に女じゃないとは言っていないぞ)
(最近は女性らしい身体つきにもなりましたわね、心境の変化で身体なんて変わるのですわ)
ああ確かに丸みが出たというか…って…ごめんなさい。
軽くチョップ頂きました。
(まったく…それでその、私のことどう思うんだ?)
「あっいやその急でびっくりして…リーダーのことは凄くいい人で、頼りになるし」
みんなに対してだが、可愛いなと思う気持ちもある。
でも、恋とかじゃなくて。
「ごめんなさい。リーダーの気持ちは凄く嬉しかったけど、その」
それに俺はもう
(いや、私も最後に言いたかっただけだ、残って欲しいとか結ばれたいとかそういうのでは…ない)
(ええ、言いたかっただけなのですよ。そうそう、私も貴方のこと好きですよ)
「えっえ!!!!!!」
(LIKEの方で)
あっはい。
恥ずかしい。
クスクス奥さんが笑って、リーダーも少し笑っていた。
そしてリーダーが近づいて俺の両頬を触り
(久保、大好きだ)
額にキスされた。
そのときの笑顔が凄く綺麗で、なんだかものすごく顔が熱くなってきて下を向くと地面がアスファルトだった。
慌てて前を向くとそこには誰もいなく、通いなれた道が見えた。
周りを向くとタコの滑り台のある公園。
電柱、自販機。
木造の家、レンガで出来た家、アパート。
「ああ、帰ってきたんだ」
そう呟くと目頭が熱くなり、鼻がツンとしてきた。
大の男が情けない。
そう思うのだけれど、あまりにあっけなくて。
白昼夢にしては長すぎた。




