しかえし
「相談したいことがあるんだ。聞いてくれないか?」
部活終わりの放課後。駅近くのファミレスに来ていた。
友達から相談を受けることなんてまずないから、いささか緊張していた。最近の彼の顔は以前よりやつれていて、部の仲間もしんぱいしていたから、なおさらだ。
「まずは、事の成り行きから説明しようと思う」席に座るやいなや、彼は話し出した。
「俺に双子の兄がいるのは知ってるな」
僕はうなずく。
兄の方も一緒の部活動に所属しているので、もちろん知っている。
「兄貴に彼女が出来たことも知ってるな」
これも、知っていた。部のマネージャーだから自然と噂がながれてきた。
彼の話を要約してみると、つまりはこうだ。俺の方が先に彼女のことを好きになったのにズルい。告白の準備をしていたのに、奴はそれを見越して、先に告白しやがった。いつも割を食うのは俺の方だ云々。
どうやら、長年の恨みや悩みが鬱積して爆発したようだ。しかし肝心の本題が見えてこない。
しゃべり終えてから、黙ったままだったが、いきなり宣言した。
「俺の×××をちょんぎってくれ」
いきなり何を言い出すんだこいつは。頭がおかしくなったのか。公衆の面前で。
僕の怪訝そうな顔を見て、不安に思ったのか、彼は
「おい、覚えてないのか? 俺たち双子のこと」と言った。
そう言われて思い出した。
一卵性双生児。遠隔感知能力。
三か月前。練習中の不注意で弟の方にボールが当たったと思ったら、兄の方が痛がっていて、あるはず方に傷がなく、無いはず方に傷があり、血が流れていた。
つまりは、そういうことだった。
だがいったい、なぜお前のあれを切る話になるのか僕にはわからはい。彼は滔々とまた語り始めた。
「さっきメールが来て、今日は家には帰らないつもりだから、親をごまかしておけ、と書いてあった。そして二人とも今日は部活にきてなかった。分かるだろ? しかえしてやるんだ。だから……頼むよ」
言い終えた後にポケットから鋏を取り出して、頭を下げてきた。
僕はしぶしぶ了解して、トイレの個室に二人で入った。
……個室なのに二人。この状況でもう……何か恥ずかしいのに今から……
やはり止めよう。そう思い立ち話を切り出そうとしたら、もうベルトはずし終えてるじゃないか。気が早いぞ。
「さぁ思い切りやってくれ」
いわゆる、あれを露出して、じりじり近づいてくる。
僕は手に持った鋏とあれを交互に見やって決意した。
「き、汚らしい粗末な物を向けるな、この変態」
突き飛ばそうとして、勢い余って、蹴り上げてしまった。
その隙に一目散に逃げ出した。
男子トイレの前でもう少し考えるべきだった。
家に着いたら温かいお風呂に浸かってすぐに寝た。
結果として、彼の頼みには答えたことになったらしい。
兄の方はふられてしまったらしい。
まぁ良かったということにしよう。
…………最近、背後から妙な視線を感じるが気のせいだろう。