二話目 遺箱
−−ねえ、ホントにこんな辺境に在るの?
−−辺境だったのは数十年前まで。
今は立派な先進国になってる。大体何だ、オレの情報を疑うのか?
−−質問に質問で返すのは感心しない−−うん、だってキミだモン。
−−お前なぁ・・・まあ、いいさ。
オレはもっと西に向かう。お前はこの辺を拠点に探索してくれ。
−−りょーかい!
僕の家族は一言で言えば変人だらけだ。古代の浪漫なんて言って、ちょくちょく休暇を取っては人骨をお土産に持ってくる父。
自称さ迷える魂とオトモダチの、霊媒士の母。
魔法が使えるようになった! そう書き置きを残して、魔法使いの修行にいったらしい姉。
唯一僕以外の家族でオカルトに染まっていない奴もいるが、そいつの頭の中に常識のニ文字は無い。
どいつもこいつも世間一般から脱線したあげくに大破していやがる。あげく、僕の家はこの町じゃ知らない奴はモグリ、といわれる程の資産家だったりする。
おかげでエジプトのミイラやら霊狐の毛の腕紐やら金をどぶに棄てることに歯止めをかけられない。
しかしながらメイドさん(決して僕の趣味ではない。むしろ父の趣味)いわく、わが家の家計簿は何故か、祖父の代から常に黒字とのこと。
それをまたミイラのおかげだ、霊狐のおかげだと言ってはすぐ買い漁ってくる。
こんな環境で正常に育った僕の頭を褒めてやりたいね。
「暇だな・・・・・・」
朝起きてからおおよそ十時間後。
特に部活にも入ってない僕は、ホームルームが終わると同時に家路に着いた。実を言えば、授業中に居眠りしていた罰として、嫌がらせとも取れる程のプリント類を押し付けられた。
が、一時間くらいで解き終わってしまった。
たかだか十枚程度じゃ嫌がらせどころか、暇つぶしにもならないんだが。
「・・・・・・やっぱりこれしかないか」
そう言って、さっきから手の中で玩んでいた小箱を机に置いた。
確か幼稚園を卒園する少し前に、うちのクソ爺がさんざん見せびらかしたあげく
「ちょうだい? 誰がお前なんぞにやるか!」
と罵倒されたのがこれを見た一番古い記憶だったはず。
そんなに大切な物なら僕に見せないで欲しかったね。
「全く、なんであの爺はこんな物を遣したんだ」
限りなく黒に近い藍色をしたそれは、表面はボロボロでほとんど何の装飾も無い。
蓋の中央に球形のどこまでも透き通った蒼い宝石が埋め込まれているが、非常に無機質で実に爺らしい。
そう、これは僕の祖父の遺品の一つ。
遺品ということはすなわち持ち主が旅立ったことを示すわけで。
わが家は二年前から三人家族になっている。(プラス双子メイドさん二人)
というか、実を言えば実はこれだけしか遺されてなかったりする。
父さんや母さん、あと双子のメイドさん。
あげくエセ魔法少女と化した、あの姉にさえもっと価値のある物を遺したくせに、僕にはこれだけ。父さんの話では、最期の時にこれだけは僕に渡して欲しいって言ったらしい。
「どうせだったらもう少しましな物を遺せって」
このあからさまに怪しいブラックボックスには、実は何かが入っているらしい。生前の爺の言葉を信じれば、の話だが。
しかしながら未だ封印が解かれたことは無く、初めこそどこかの研究所に預けたりしたらしいが、今では立派に僕の部屋のインテリアに成り下がっている。
ふぅ・・・・・・
何度目になるか分からない溜め息と共に箱を投げ上げ、今度は逆の手でキャッチする。
そしてまた同じことをして、再度逆の手でキャッチ。
なんだか止められなくなってしまった。
・・・・・・やっぱ暇人だな僕。
あまりにすることのない自分に再度溜め息をつき、僕はもう一度箱を投げ上げた。