1-2-8 富める少女エヴァ
エヴァンジェリン・クロムウェル、人呼んでエヴァ。彼女は絢爛たる魔法都市の中心部で育った。
そこは企業連合が支配する繁栄の象徴であり、すべてが整えられた世界だった。彼女の家は連合でも特に影響力を持つ名門一族で、広大な屋敷と手入れの行き届いた庭園、そして最新鋭の魔法設備を備えた研究塔が隣接していた。
幼い頃から、エヴァには“期待”がのしかかっていた。両親は彼女に惜しみなく投資し、最高の教育と最良の教師を与えた。魔法の基本理論から応用技術、政治の手法や経済構造に至るまで、学ぶべきことは山ほどあった。特に彼女が才能を示したのは、精密な計算と構造理解を要する「基礎制御魔法」だった。エネルギーを最小限で最適に操るその技術は、彼女の性格ともよく合っていた。
「あなたは私たちの誇り。いずれクロムウェル家の顔として立ち、連合の未来を導いていくのよ」と母は言った。
だが、エヴァは心の奥底で疑問を抱いていた。
自分の進む道は、本当に家を背負う未来なのか。それとも、誰かの計画に従うだけの人生なのか──。
最適な解を導くことと、正しい選択をすることは、常に一致するとは限らない。その差異に気づいたのは、かなり早い時期だった。
「それでも、計算ではなく、納得できる結論を選び続ける」
そんな折、女王選定戦の開催が正式に告知された。選ばれし少女たちが、十二の伝説の魔法デバイスを巡って競い合い、その中から次代の女王が選ばれるという。この知らせは連合の幹部層でも話題となり、各家の後継者候補が戦いに送り出されることになった。
「当然、あなたも出るわよね?」母のその一言が、エヴァの中にあった迷いに火をつけた。
「ええ、出るわ。けれど、私は家のためじゃない。自分の力を、私自身の力を証明するために行くの」
エヴァは、デバイスの一つ「天秤の鎖」を目指すことを決めた。それは均衡と裁定を司る鎖であり、基礎制御魔法の精密さと統率力を最大限に活かせるとされるデバイスだった。強い意志と繊細な操作が求められるこのデバイスは、彼女の技術と性格に最も適していた。
「私の力を試す場が、ようやく来たのね」
それは決して、女王という地位のためだけではない。家族の期待に応えることでもない。エヴァは確かに、自分の力がどこまで通用するのかを見たかった。甘やかされた世界の中で育った自分が、試されるに値するか──それを誰よりも、自分が知りたかった。
エヴァは豪奢な屋敷を後にし、戦いの地へと旅立った。風に揺れるスカートの裾、指先に宿る魔力の微細な振動。彼女の心は静かに燃えていた。
「私は選ばれるわ。この力は、誰のものでもない。私自身の証明のために使う」
彼女はそう誓いながら、女王選定戦の幕が上がる場へと歩を進めた。
その選択が、やがて自らの手を止めることになると、まだ知らないままに。
このように、カリナとエヴァの道は、同じ企業連合の支援を受けていたが、全く異なるものだった。
カリナは、泥だらけの手で必死に勝利を掴み取ろうとし、エヴァは自分に課された責任と期待に押しつぶされそうになりながらも、その中で自らの存在意義を探していた。
ある日、カリナはエヴァの存在を知る。彼女の噂は貧民街でも広まっていた。
「エヴァンジェリンか……連合の一流エリートだろ?金持ちの娘なんて私と違って何でも手に入るんだろうな」カリナは少し嫉妬混じりに言ったが、心の中では、エヴァに対する対抗心が燃え上がっていた。
一方、エヴァもカリナの存在を知っていた。連合の支援を受けている者の中でも、カリナのような「持たざる者」が選ばれるのは珍しいことだった。「カリナ…どんな人なんだろう?」エヴァは内心興味を持っていたが、自分との違いに戸惑いも感じていた。
カリナとエヴァは、それぞれの想いを胸に、女王選定戦に挑む。カリナは、家族のため、貧しい生活から抜け出すために全力で挑む覚悟を決めていた。「この手で未来を掴み取るんだ!」と彼女は決意する。
一方でエヴァは、自らの力を試し、家族の期待を超えた存在になることを目指していた。「私の実力を証明して、誰にも負けないと示してやる!」
富を持つ者、持たざる者の関係。それぞれが異なる背景を背負いながら、同じ舞台で運命の対決に向かって歩んでいく。
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