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第二夜 偉大な妖怪・バクさん

童話風は諦めました。

平和だと思っていましたか。平和ですよ。

視点《宵》


『貴方が亡くなって898年128日

バクさんとの生活が幾度となく過ぎ、空が回った回数が四万を超えた。

まだ、完全な夢は作れない。

今日もバクさんからは作った夢を「不味い」と言われてしまった。「本当の夢の味はもっと繊細なんだ」とも。私の作った夢は味がドロドロしているらしい。こんなのじゃダメだ。

ああ、あと何回失敗したら貴方と眠れるんだろう。成功の未来がこんなにも遠いだなんて思いもしなかった。早く会いたい。

今日も貴方だけを愛してる。いつかまた貴方に逢えますように。』


あの日から毎日欠かさず習慣づけている日記は、私を今日も正常に動かしてくれる。

時間を数えるのをやめてしまったら直ぐに壊れてしまう。数えてさえいれば、目に見えることで途方もないここでの生活にも終わりが見えてくる気がするのだから。数えるのをやめられない。

ペンを置き、手帳をしまう。それは何冊目か数えるには少しだけ面倒な程多くなってしまった。


「……溜まってきたなぁ。」


そう、呟く。ふと部屋の扉が開いた。半分開いた扉からバクさんがひょっこりと顔を出す。


「ヨイ……まだ起きてんのか?」


「もう直ぐ私も就寝しますよ。」


電気が付いていたから不思議に思ったのだろうか。起こしてしまって申し訳なく思う。


「ほら、こんな時間です。部屋でおやすみなさい。」


バクさんが部屋に戻るように促す。バクさんの方も眠たいのか素直に頷いてくれた。


「わかった。……そうだ、ヨイ。」


「どうかしましたか?」


一体なんだろう。そう思い首を傾げるとバクさんは得意気に鼻を鳴らす。


「明日、とっておきのやつを見せてやる!じゃあ、おやすみ!」


そう宣言するや否や小走りで自分の部屋へと戻ってしまった。


「……楽しみにしていますね。」


届かない独り言をこぼしてそのまま私はベッドに眠りについた。それなりにはこの生活を気に入っていた。


気だるい頭を刺すように光が目に入ってくる。朝が来た。今日も、夢から覚めてしまった。


「……あぁ。」


起きたくないなぁ。朝がたまらなく嫌いだ。

寂しい夜に悲しむのは慣れてしまったけど、朝にはいつなっても慣れない。


だって、あの人がいないから。

私よりも朝に強くて、寝坊しがちな私をいつも笑いながら起こしてくれた人。目つきの悪い顔で柔らかく笑いながら「おはよう」と言ってくれたのに。

今はいないのだから朝というものは一日の中で最も身近な地獄だと思わずにはいられない。


そういえば、なぜカーテンが開いているんだろう。いつもは目覚ましの後で起きるはずなのに。今日は陽の光で起きた。

先程まで開けるのに億劫だった目が疑問と共に開いた。


「…….お!漸く起きたか?……おはよう、ヨイ。」


少し低い声。悪戯っぽく笑う瞳。綺麗に上がる口角。肉食獣のようにギザギザした歯。


「……翔……?」


あの人が隣にいた。


「……?どうしたんだ、ヨイ。びっくりしたか?」


違う。あの人じゃない。あの人は私を下の名前で呼ぶから。『宵』はあの人と分け合った名前だ。


「……バクさん、ですか?……どうしたんです。その姿。」


「ふーん!凄いだろ!?オレは妖怪の中でも古参も古参!偉大な妖怪は変化の術が使えるんだ!!」


喋るとまんまバクさんだった。褒めて欲しいとでも言いたげにアピールしてくるバクさんは、まるで子供のようで、安心する。


「バクさんは、器用ですね。」


「ハッ!そうだろ!まぁでも変化できる人間は長い間見てた人間に限るから、ヨイの机にあった写真の男にしたぞ!!」


その姿はそういうことなのか。バクさんはたまたまあの人の姿を借りただけ。大した意図はないらしい。


「……でもどうして急に人の姿に?」


「おお、お前はそれを聞くんだな。ヨイ。いいか、心して聞け。」


今まで普通に過ごしていたのだから気になる。いったい何故?


「実はだな……とてもカッコよくて凛々しい元の姿だとな。」


「ん?……まぁ、はい。」


マスコットみたいで可愛らしいの間違いじゃないのだろうか。


「すっっごく、不便だと気づいた。この店全部の造りが人型用だ。」


「……まぁ、私が作りましたからね。全部が私に合うようにしたので。」


理由も大したことはないようだった。


【6:00】業務開始

今日もいつも通りに業務を行う。掃除をして、開店をして……


「……あだっ!……〜っ!」


バクさんは人間の体に慣れていないのか今日はよく頭をぶつけていた。


「……大丈夫ですか?」


「……ヘーキだ。偉大な妖怪はこんなことで痛がらないからな……!」


今は人の姿ですけどね。

やっぱりバクさんはバクさんだ。



【12:00】昼休憩

「そういえば、その姿だと普通のご飯は食べられるんですか?」


ふと気になったので聞いてみた。


「食えるは食えるが……夢の方が栄養が取れる。食ったとしても味は感じないな。」


「そうですか。」


少し勿体無いな。空の上でも食べれるものはあるのに。


【13:30】業務再開

「おい!おーい!ヨイ、ちょっと見ろ!!」


ちょっと五月蝿いくらいにバクさんから呼ばれる。一体なんだろう。


「はいはい、なんです?」


「この体めちゃめちゃ夢の調合と紙に文字書くのがしやすいぞ!」


「……よかったですね。」


いや、そんなことで呼び出されても困るんですが。


「ああ!」


……バクさんが楽しそうならいいか。


【22:00】業務終了

「ヨイ!終わった!!飯!」


「単語で話さない!子供ですか貴方は……。」


そう言いつつも夢を用意している私はバクさんに甘いのかもしれない。


「はい。」


バクさんの前に夢の小瓶を割らない程度に置く。バクさんは小瓶を手に取ると栓を開けて中身を飲み物のように口に入れる。


「……どうですか。」


夢を飲み込むとバクさんは私を見る。とても真剣な顔で。


「……うん。不味い!!」


後で口直し用の本物の夢を要求された。

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