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引きこもり伯爵令嬢〜私の担当編集は公爵家令息(猫)でした〜  作者: おまめ


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2/2

後編

お手柔らかにお願いします汗

原稿回収を終えて屋敷を出たシリルは、馬車に乗り込まず、ふと庭園の方へ足を向けた。


――ほんの少しだけ。

会うわけじゃない。声をかけるわけでもない。

ただ…昨日のお礼を伝えそびれたままなのが、妙に胸に引っかかっているだけだ。


庭の生け垣の陰に身を潜め、そっと息を整える。


「……変化。」


淡い光が揺れ、彼の身体はするりと縮み、白銀の猫へと姿を変えた。

体調も昨日よりずっと良く、魔力の揺れも少ない。


軽い足取りでレア――レアリア・フェリスの作業部屋の方へ向かう。

高い窓辺。そこには昼下がりの光に照らされて、彼女がいつもの机に向かい、原稿を並べていた。


猫の姿のまま垣根の影から覗き込むと、シリルの胸がじんわり熱くなる。



自分でも驚くほど柔らかい気持ちが広がる。


その時レアがふいに顔を上げ、独り言のようにぽつりと呟いた。


「……元気だといいけど。あの子。」


シリルの耳がピクリと動く。


「昨日、すごくふらふらしてたし……無事に帰れたならいいのだけど。」


レアは心配そうに眉を寄せ、ハンカチにそっと触れた。


胸がぎゅっと締めつけられた。


(……こんなに、心配してくれていたのか)


名乗るどころか、猫だとも言えない。

でも、どうしても彼女の気持ちに返事がしたくて。


シリルは静かに窓辺へ近づき、

――ちいさく、ひと声鳴いた。


「……にゃ。」


レアが目を丸くし窓の外を見る。


「……あっ。昨日の……!」


驚きと喜びの混じった表情に、シリルの尻尾がふわっと揺れた。


レアはそっと寄ってきて窓を少しだけ開ける。


「無事だったのね……よかった。本当に……」


その声が優しくて、暖かくて。

シリルは思わず爪を引っ込め、窓際に小さく座り込んだ。


――近づきすぎないように。

――触れてしまえば、心が暴走しそうだから。


でも、こうして側にいるだけでよかった。


レアは微笑んで、そっと言った。


「昨日は……ううん、今日も来てくれて、ありがとう。」


シリルの胸の奥がふつふつと熱を帯びる。


(……ありがとうを言いたいのは、俺のほうなのに。)


彼はほんの一瞬だけ、レアにだけ分かるように、ゆっくり瞬きをした。


――猫がする“信頼のサイン”。


レアの頬がふわりと緩む。


「可愛い……」


その一言に、シリルの耳が真っ赤になったのは言うまでもない。



顔を隠すように足早に去って行ったのだった。




***






白猫を助けた日から数ヶ月――。

《ルナ=インク》としての執筆生活は、相変わらず屋敷の書斎で静かに進んでいた。


だが、その日常に少しずつ彩りを添える存在がいた。

公爵家令息を隠した“シリル=編集者”だ。



***




「原稿、届きましたよ」


ある日の午前、扉の向こうで静かに声がした。

机の上には、手書き原稿の束。封筒に入った状態で置かれる。

差し出すと、シリルは丁寧に受け取り、軽くお辞儀をした。


「レア嬢の筆致、やはり温かいですね。読みやすくて、つい読みふけってしまいました」


自然な褒め言葉。

だけど、ただの“編集者の褒め言葉”じゃない、心の奥に届く何かがあった。

胸の奥がぎゅっと熱くなる。


「ありがとうございます……! でも、まだ未熟で……」


私が恐縮して言うと、彼は軽く笑みを浮かべて、少し首を傾げた。


「未熟だなんて、そんなことはありません。毎回、進歩が見えます」


その一言で、ほんの少し自信が湧く。

文章のやり取りだけで、誰かが自分のことを見てくれている感じ――

それがこんなにも心地いいなんて、思わなかった。



***


午後には、書斎での“お茶会”も日常の一部になっていた。


「今日のお茶は、ローズヒップブレンドです」

「わぁ、いい香り……。作業の合間にぴったりですね」


メイドが置いていった小さなティーカップを手に取り、ほっと息をつく。

シリルも同じ香りを嗅ぎながら、静かに微笑んだ。


「原稿の読みやすさを保つために、書斎の照明や机の配置も少しだけ調整してみました」

「えっ、そこまで……?」


彼の細やかな気遣いに、また胸がぎゅっとなる。

「ありがとうございます……! でも、そこまでしてもらうなんて……」

思わず顔が熱くなる。

彼はただ微笑むだけで、何も言わない。

その静かな優しさが、ずるいくらい心に響いた。



***



手紙や原稿を通してのやり取りも、ちょっとしたドキドキの連続だった。


「この部分の表現、少し言い回しを変えてみてはどうでしょうか」

「なるほど……。でも、シリルさんはこういうところも素敵だって言ってくれるんですよね?」


私が冗談交じりに訊くと、彼は少し考え込むように目を細めた後、真剣に答えた。


「はい、素直に素敵だと思います。そこがレア嬢の魅力でもありますから」


その瞬間、思わず手が止まる。

「……うぅ、また胸がキュンって……」

心臓が少し速くなるのを、自分で止められなかった。


***



数ヶ月経った今、原稿のやり取りも、お茶会も、書斎でのやり取りも、すべてが日常になった。


でも、どこかで――

「この人、ただの編集者じゃない……」

と、私の胸はそっとざわつく。


手紙や文章の端々に見え隠れする気遣い、そしてさりげない褒め言葉。

毎日、少しずつ、知らないうちに心を揺さぶられている自分がいた。





ある日の午後、庭に面した書斎で原稿の手直しをしていると、窓の外に白銀の猫が現れた。

――昨日も、今日も、あの子は来てくれる。

つい、小さな声で話しかけてしまう。


「ねえ、猫ちゃん……シリルさんって、私のことどう思ってるのかな……」


「に、にゃ〜」


なんだかもじもじと恥ずかしがっているような仕草でこちらをみている。


「本当、猫ちゃんは可愛いね。それにシリルさんにおめめがそっくりね。」


猫は、じっと彼に似た琥珀色の瞳で私を見つめ、そっと尻尾を巻きつけてくる。

その柔らかな体温と、温かい視線に、心の奥がほっとほどけた。



***




そんなある日、父から呼ばれた。

応接室に座る伯爵の横顔は、いつもより真剣だった。


「レア……君に話しておくべきことがある」


――婚約の話だ。


「公爵家の方なんだが、君もきっと喜ぶと思う。ただ、レアの気持ちを大事にして欲しい。もし、嫌だと思うなら断ってもいいとあちらも仰っているからね。とりあえず、会ってみてくれないか?」


「はい…お父様」



話が終わるとお父様は頭を撫でて退室した。


1人になり部屋の静かさに、心臓がぎゅっとなった。こんな私に打診が来るなんて思っていなかったので、嬉しい気持ちもあったけれど、胸の奥で小さな不安がちらつく。


なぜだか、彼を思い出してしまうのだ。


琥珀色の瞳を持つ彼、シリルのことを。

ここにきて漸く彼を想っている気付かされる。




(やっぱり。私は、シリルさんのことが……)





ある午後――。

窓から柔らかい光が差し込む書斎で、私は原稿の束を机に広げていた。

だが、心の中には少しもやもやした気持ちがあった。


「……シリルさんに、ちょっと相談したいことがあるのに……」


そう呟きながら、私はそっと窓の外を見た。

庭の生け垣の陰――そこに、淡い光が揺れ、あの白銀の猫が座っている。



小さく窓を開け、声をかける。


「……猫ちゃん、ちょっと……相談してもいいかな?」


猫の耳がぴくっと動き、琥珀色の瞳がこちらをじっと見つめる。

その視線だけで、心が少し落ち着く。


「……にゃ」


静かな返事に、思わず微笑んでしまう。

私は机に座り直し、原稿に視線を落とす。


「実は……父から婚約の話を聞いたんです。まだ正式に決まったわけじゃないけど……」

小さな声で言うと、猫はそっと私の肩に頭をこすりつけてきた。


「……困るの、かな?」

猫の瞳を見ながら、思わず自分の気持ちを吐き出す。

「だって……私の心には、シリルさんがいるのに……」


猫のしっぽがゆっくり揺れる。

その動きだけで、なんだか力をもらえる気がする。


「……猫ちゃん、私……どうしたらいいか分からない」


猫は小さく鳴き、窓辺に座ったまま、じっとこちらを見つめる。


「ごめんね。急にこんな話。でも誰かに聞いて欲しかったの」

思わず頬を押さえる。

猫はただ、じっと見つめてくれるだけで、私の心をそっと包んでくれる。


「……ありがとう」

ぽつりと呟いた私の言葉に、猫はまた小さく“にゃ”と返す。

まるで、「君の気持ち、分かってるよ」と言われているみたいだった。




――うん。とりあえず、相手方には失礼にならない様に会ってからお断りしよう。それから……シリルさんに…




***





数日後――。

婚約前の初めての正式な対面の日がやってきた。

緊張で手が少し震える。

執事に案内され、広間の扉の向こうに立つと――


「こんにちは、レア嬢。この姿では初めまして…かな?。」


その声に、心臓が一気に跳ねる。

――編集者として、知っているあの声、あの琥珀色の瞳。

まさか、シリルが婚約者だなんて。


「は、はい……よろしくお願いします……!」

声が少し震える。

でも目の前の彼は、私を真っ直ぐに見つめ、微笑む。


「レア嬢、僕は――君と人生を共に歩みたい」


胸がぎゅっとなる。

その瞳は、あの編集者としてのシリルと同じ温かさ。

そして、言葉ははっきりと私の心に届いた。


「……はい、私も、シリルさんと一緒に……」

小さく息を整え、言葉を返す。

心の奥で、ずっと待っていた想いが弾けた。


シリルは少し歩み寄り、手を差し出す。

「君を大切にすることを、ここに誓います」


私はその手を握る。

体の奥から温かさが広がり、自然と笑みがこぼれる。


「……はい、お願いします」



2人は幸せに満ちた笑顔で笑い合った。










***















数日後―――


書斎でカリカリという音を響かせ、レアは執筆に勤しんでいる。

その横でシリルは原稿を確認しながら彼女を見ていた。


「ふぅ。」

と、息を吐きながら腕を伸ばしたり首を回したりするのを確認しながらシリルは立ち上がり、レアに近寄る。

そして、シリルはそっとレアの耳に顔を寄せる。


「実はね、あの時のお礼を言ってなかったんだ。」


「あの時……?」


レアのきょとんとした顔に微笑みながらレアの手にハンカチを乗せる。


「あの時、助けて手当てしてくれてありがとう。」




レアは手にあるものを見て、その琥珀色の瞳を見た。

その瞬間、すべてがつながった様に思えた。




外には光が満ち、書斎の窓の向こうで揺れる庭木の影に、

白銀の猫の姿が重なるように見えた。




――もう!!猫ちゃんに沢山相談しちゃったのよーー!!とレアの叫びが書斎から響いて聞こえたのは言うまでもない。











――物語の結末も、きっとこんなふうに、穏やかで、幸せに満ちているのだろう。


お、終わりました、、、

また乱文な物語になってしまった、、、。

徐々に徐々にページ数の多いものに挑戦したい

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