再会、そして炎は再び
世界の平和は、一度守れば終わりではない。
そして英雄は、若い者だけが名乗るものでもない。
ただ、守りたいものがある者が英雄となる──。
街外れの畑で、朝日が野菜の葉を照らしていた。
ダンはいつも通り、収穫した野菜を木箱に詰めていた。
農家としての生活は、穏やかで、ささやかで、しかし何より大切な時間だった。
「ダンさん、おはよう。今日も立派だねぇ。」
「ありがとうよ。うちの畑を好きって言ってくれるなら、それだけで十分だ。」
そんな日常に、突然変化は訪れた。
「失礼します。あなたがダンさんで間違いありませんか?」
旅装束の青年――ノルンが姿を現した。
「エンバードのギルドから参りました。
――ダンさん、もう一度冒険者に戻っていただきたいのです。」
ダンは静かに目を伏せる。
引退した時に置いた剣の重さを思い出すように。
「悪いが、もう戦いは終わった。この暮らしで十分だ。」
しかしノルンは首を振った。
「“悪”が再び動き出しています。このままでは街が、人々が呑まれます。」
その言葉に、胸の奥で何かが呼び起こされた。
かつての仲間達。
共に戦い、笑い、傷つき、世界を救った五人。
水の剣士
自然の魔法使い《リナ》
光の弓使い《ブレット》
癒しの僧侶
そして、炎の剣豪
「……仲間が必要だ。」
「問題ありません。すでに皆にも声をかけています。エンバードで再会を。」
ダンは畑に別れを告げ、再び旅路に立った。
――数日後、ギルドの扉を開く。
「よぉダン。相変わらず日焼けしてんな。」
「また一緒に戦えると思うと、ちょっと嬉しいかも。」
「おっさん同士、まだやれるだろ?」
「おかえり、ダン。」
それだけで胸が熱くなった。
しかしその時、街が揺れた。
「魔物が街を襲っている!!」
炎が剣に宿る。
水が刃を流れ、風が草木を揺らし、光が矢を描き、祈りが仲間を包んだ。
身体は覚えていた。
心は、まだ燃えていた。
「行くぞ!!」
炎の斬撃が魔物を薙ぎ払い、街は守られた。
夜、ささやかな宴。
昔話と笑顔。
そして、あの一言。
「またやってみないか? 冒険を。」
ダンは杯を見つめ、静かに答えた。
「……ああ。やろう。」
五人は再び、世界へ歩き出す。
守りたいものがある限り、剣は錆びつかない。
次回、第2話。最初のクエストへ旅立ちます。




