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灰燼の契約  作者: 天城 朱雀
第一部

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9/30

再会

王都アルディア。

白塔の鐘が、正午を告げていた。

光の都はいつも通り、祈りと秩序に満ちている。

だがその光は、どこか冷たく感じられた。


聖光教の医療派遣団の一人、セナは塔の中庭に立っていた。

十年ぶりの帰還だった。


塔の外壁に指を触れる。

ひんやりとした白石。

かつてここで見た光は、もっと柔らかかった気がする。

今はただ――眩しいだけだった。


「……あの頃の光と何かが違う。」


治癒師として地方を巡り、戦傷者と貧民の世話をしてきた十年。

多くの命を見送り、多くの祈りを聞いた。

そして、その祈りはいつも理不尽に蹂躙される。


そして今、王都に戻って感じるのは、

“祈りは人を救わない”という静かな確信だった。


塔の下層にある冒険者ギルド本部。

任務報告のため訪れたセナは、書類を整えながら受付の奥に視線を向けた。


ざわめき。

職員や冒険者たちが一斉にささやく。


「……見ろ、あれが“灰の剣”だ。」

「また帰ってきたのか……。誰も戻らない森から。」


セナはそれを聞いた瞬間、手の動きを止めた。

鼓動がひとつ、音を立てる。


“灰の剣”――その異名を持つ男。

噂だけは何度も耳にした。

神に祈らず、誰とも語らず、ただ剣で生きる男。


そして、彼の名。


「……ラゼル。」


振り向いた先に、立っていた。

十年前、飢えた少年だった彼が、いまは黒い外套に剣を背負い、その眼には、炎ではなく“冷たい静寂”が宿っていた。


一瞬、時が止まった。

周囲の喧騒が遠のく。

ただ、視線だけが交わった。


ラゼルは歩み寄ることも、言葉を探すこともせず、ただ静かに言った。


「覚えていたか。」


セナは小さく頷いた。

「……忘れるわけないでしょ。」


ラゼルの口元がわずかに動く。

笑みのようにも見えた。


「そうか。」


二人の間に沈黙が流れた。

長い、十年分の沈黙。

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