再会
王都アルディア。
白塔の鐘が、正午を告げていた。
光の都はいつも通り、祈りと秩序に満ちている。
だがその光は、どこか冷たく感じられた。
聖光教の医療派遣団の一人、セナは塔の中庭に立っていた。
十年ぶりの帰還だった。
塔の外壁に指を触れる。
ひんやりとした白石。
かつてここで見た光は、もっと柔らかかった気がする。
今はただ――眩しいだけだった。
「……あの頃の光と何かが違う。」
治癒師として地方を巡り、戦傷者と貧民の世話をしてきた十年。
多くの命を見送り、多くの祈りを聞いた。
そして、その祈りはいつも理不尽に蹂躙される。
そして今、王都に戻って感じるのは、
“祈りは人を救わない”という静かな確信だった。
塔の下層にある冒険者ギルド本部。
任務報告のため訪れたセナは、書類を整えながら受付の奥に視線を向けた。
ざわめき。
職員や冒険者たちが一斉にささやく。
「……見ろ、あれが“灰の剣”だ。」
「また帰ってきたのか……。誰も戻らない森から。」
セナはそれを聞いた瞬間、手の動きを止めた。
鼓動がひとつ、音を立てる。
“灰の剣”――その異名を持つ男。
噂だけは何度も耳にした。
神に祈らず、誰とも語らず、ただ剣で生きる男。
そして、彼の名。
「……ラゼル。」
振り向いた先に、立っていた。
十年前、飢えた少年だった彼が、いまは黒い外套に剣を背負い、その眼には、炎ではなく“冷たい静寂”が宿っていた。
一瞬、時が止まった。
周囲の喧騒が遠のく。
ただ、視線だけが交わった。
ラゼルは歩み寄ることも、言葉を探すこともせず、ただ静かに言った。
「覚えていたか。」
セナは小さく頷いた。
「……忘れるわけないでしょ。」
ラゼルの口元がわずかに動く。
笑みのようにも見えた。
「そうか。」
二人の間に沈黙が流れた。
長い、十年分の沈黙。




