目覚め
目を開けたとき、少年は石造りの廃屋に横たわっていた。
体が重く、あちこちに鈍痛が響く。
瓦礫と埃が積もり、崩れた天井の隙間から日が射していた。
空気は乾いている。そして、冷たい。
口の中には砂の味がした。
――ここは、どこだ。
言葉に出したが、声が出なかった。
記憶がない。
自分の名も、何をしていたのかも思い出せない。
少年は体を起こし、周囲の状況を観察していた。
腹が鳴った。
痛みよりも先に来たのは、強烈な飢えだった。
それだけが現実だった。
出入り口らしき壊れた扉を開き、外へ。
丘の上にある廃屋。
少年はそこにいた。
麓には外壁に囲まれた白い街が見えた。
その中心には城、その横にある巨大な塔が光を反射し、まるで天を貫いていた。
声にならない声で呟いた。
「……あそこへ行くしかない。」
痛みに耐え、足を引きずりながら街を目指して歩く。
だが、近づくほどに光は濁っていった。
中心部の白く明るい光の街とは対照的に、
壁の外周部は汚く、雑多な建物が多い。
路地には、痩せた子供たちと物乞いが溢れ、
酒と腐肉と香油の匂いが混ざっていた。
街に入る門の前には列ができていた。
商人、巡礼、兵士。
皆が胸で印を切り、神への祈りの言葉を唱えている。
少年はそれを見て、意味もわからず立ち尽くした。
「信仰証かギルド証はあるか?」
衛兵が声をかけた。
少年は黙って首を横に振る。
衛兵「……持っていないのか?」
少年「……多分。」
衛兵は呆れたように肩をすくめ、
「なら、通行税だ」と言って手を出した。
少年は何も持っていなかった。
衛兵はため息をつき、
「哀れな巡礼だな。あの路地を抜けろ、下町に行け」と指差した。
そこには、光が届かぬ影の街が広がっていた。
路地に向かう途中、通りの壁に掲げられた布告が目についた。
『転生を語る者、死罪。』
『神に選ばれし者のみ、救われる。』
ラゼルはそれを理解できなかった。
“転生”――その言葉が胸の奥で引っかかる。
「神に選ばれし者、か。」
考え始めた直後、背後から声がした。
「おい!ボウズ!ケガしてるじゃねぇか。」
声の主は、分厚い胸板をした男だった。
右腕の袖は空しく垂れ、左手に短い槍を携えている。
男「ここで何してんだ?こんな場所、子供が来るとこじゃねぇ。」
少年「門を通してもらえなくて、下町に行けって言われた。」
話している最中、少年の腹が鳴った。
男はしばらく少年を見つめ、それから鼻で笑った。
「……ふうん。カネも証もねぇってことか?
まあいい。腹、減ってんだろ?こい! 俺はジーク。ここの冒険者だ。」




