表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰燼の契約  作者: 天城 朱雀
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/30

記す者

翌夜。


ギルド本部の医務室には、薬草と消毒薬の匂いが漂っていた。

セナは机に向かい、治療記録の整理をしていた。

窓の外では白塔が夜風に霞み、その影が静かに部屋を横切る。


「……また徹夜か。相変わらず真面目ね。」


振り向くと、扉のそばに一人の女が立っていた。

短く切った栗色の髪、鋭い目。 冒険者の革装束を着こなしながらも、肩に僅かな疲れを宿している。


「……リオナ。」

セナの声が少しだけ柔らかくなった。


「久しぶりね。地方の派遣から戻ってきたって聞いたわ。」

「ええ。あなたも相変わらずね。 王都は変わらないけど……空気が少し重くなった気がする。」


リオナは机の上の書類を指で叩いた。

「最近、妙な依頼記録が多いの。 討伐報告のないまま、任務だけが“完了”になってる。」


セナが眉をひそめる。

「報告の改竄……?」


「多分ね。」リオナは声を落とした。


「それに――失踪した冒険者たちの名簿、一部が“異端調査”の項目に転送されてた。」


「異端……聖光教の管轄じゃない。」


「そう。ギルドは知らぬふりをしてる。でも、あの白塔の上層が何かを始めてる。 “転生者狩り”の噂、あなたも聞いたでしょう?」


セナは一瞬、息を止めた。

(……転生者)


胸の奥で、なぜかラゼルの顔が浮かぶ。


「リオナ、それ……どこまで掴んでるの?」

「証拠はまだ。でも、記録室に残された古い印章のある帳簿みたいなものがあって。

古代契約語で“記す者”って刻まれてた。 誰かが今も“何か”を追記してるみたい。」


セナは視線を落とし、静かに頷いた。

「気をつけて。……あなた、危ない橋を渡ってる。」


リオナは軽く笑った。

「今さらよ。」


それだけ言って、扉へ向かう。

「またね、セナ。……あの少年に、よろしく。」


「え?」

「“灰の剣”――あの子、気になってるんでしょ?」


セナは返す言葉を失った。

リオナは振り向かずに片手を上げ、廊下へと消えていった。


残された静寂の中、セナは机の上のランプを見つめた。

炎が揺れ、光がわずかに滲む。


(あの人も、何かを背負ってる……。)


その夜、塔の上で鐘がひとつ鳴った。

遠くの光が瞬き、白い都の奥で、静かに歯車が動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ