5/5話『先生と俺、最後の秘密』
放課後。西日が差し込む廊下は、やけにキラキラしてて眩しい。
いつもならただ通り過ぎるだけの場所が、今日はやけに胸を締めつけてくる。
そんな中、俺はぼんやりと立ち尽くしていた。さっき、教室を出たときに見た先生の横顔——それはもう、誰が見ても分かるくらい切なそうで。
「これ以上……二人きりで会うのはやめましょう」
「――え?」
「翔太君はあの後輩の子と付き合った方がいいわ。そもそも教師である私が貴方にちょっかいなんて出すべきじゃなかったのよ……」
その言葉は優しい声で、でも刃のように鋭く胸に刺さった。
ポツリと呟いて、俺の視線から逃げるようにスタスタと歩いていく後ろ姿。
揺れる髪の間からちらりと見えたうなじが妙に色っぽくて、それがさらに胸を締めつけた。
「……追いかけてこないで」
背中越しの声に、一歩踏み出した足が止まった。
喉が締めつけられて、声が出ない。
(ああ、先生、ほんとに距離置こうとしてるんだ……でも、そんなの絶対に嫌だ)
分かってた。
頭では。でも心がぜんっぜん追いつかない!
俺だけが知っている先生の秘密——あの電車で見せる色っぽい笑顔、唇に塗られたツヤ感あるグロス、耳元でささやく声の温度。
酔っぱらって肩に頭を預けてきた時の柔らかさと、髪から香った甘いバニラ系の香水。どれも全部、俺だけの“特別”だと思ってたのに!
終わるなんて、絶対イヤだ!
それに俺、まだ何も伝えられてない。
せめて気持ち、全部言わなきゃ——!
心臓がバクバクして、喉がカラカラになる。
でも今ここで動かなきゃ、もう二度と後悔するって分かってた。
(もう、どうにでもなれ!)
気付けば、全力疾走!
校舎裏への細道を駆け抜けて——その先に、小さな背中を見つけた。
夕暮れに染まるそのシルエットが、まるで映画のワンシーンみたいで息を呑む。
「せ、せんせいっ!」
呼び止めた声が裏返ったけど、もうどうでもいい!
振り向いた先生の表情は、びっくり顔からスッと寂しげに変わって——
「これまでのことは、もう忘れて。普通に過ごしましょう?」
なんて、サラッと言って逃げようとしたけど、はいストップ!
先生の腕をガシッと掴んだ。
驚いた先生がこちらを見上げたとき、その瞳に浮かぶ不安と迷いが痛いほど伝わってきた。微かに濡れた唇が揺れているのを、俺は見逃さなかった。
「俺は……俺はっ!」
言葉が詰まって、涙で視界がにじむ。全部言いたいのに、言葉が足りない。でも、これだけは伝える——。
「先生じゃないと、イヤなんですっ!!」
——もう、恥ずかしさとかプライドとか全部吹っ飛んでた。
今だけは、本気でぶつかると決めたんだ!
先生は驚いたまま立ち尽くしていたけど、すぐに視線を逸らして言葉を吐き出した。
「私は教師で、あなたは生徒……。これは越えちゃいけない線なのよ」
その声はかすかに震えていて、吐息が混じって妙に艶っぽかった。
だけど俺は離さない。
むしろ力を込めて、先生の腕を握りしめた。
「最初はただヤバイ先生だと思ってた。でも今は、電車で見せたあの姿……どんな姿の先生も、全部ひっくるめて大好きなんです! 本気です!」
先生の瞳が大きく揺れる。
頬が赤く染まり、息が少し上擦っている。
唇が小さく震えて、何かを言おうと迷っている顔。
その表情すら可愛くて、大人なのに少女みたいに見えた。
「……バカね」
小さな声でそう呟いたかと思ったら、先生の腕がふわりと俺を包んできた。
柔らかくて温かくて、胸に押し当てられた瞬間、ふわっと香る甘い香水とほんのりお酒の残り香。
抱きしめ返された瞬間、涙が込み上げてきて息が詰まりそうになった。
「私も……本当はね。どこかでずっと求めてたのかもしれない。でも、それが怖かったの」
震える声でそう告白したあと、先生は恥ずかしそうに俯きながらも、顔を上げて小さく笑った。
「大人なのに、理性を保てなくなる自分が……怖かったのよ。でも、もう少しくらいなら……甘えてもいいかな?」
俺はただぎゅっと先生を抱きしめ返して、その涙交じりの声と、温もりと香りを胸にしっかり刻み込んだ。
◆
夜の駅ホーム。
改札を抜けた先で、先生がちょっぴり恥ずかしそうに笑いながら俺の方を見上げてきた。スカートの裾が風に揺れて、思わずドキリとする光景。
「……実はね、一度制服デートってやってみたかったの」
目の前にいるのは、いつもは地味子先生呼ばわりされてる人じゃなくて、セーラー服姿でキラキラしてる“とんでもなく綺麗なお姉さん”。
はい、俺の脳内キャパがまた超えました。
「どうして制服なんて持ってたんですか?」
「んー、私もこの高校の卒業生だし。いつか着ようと思って学校のロッカーに入れておいたんだ」
本当にこの人は……!!
そんなことがバレたら、学校にいられなく……って今さらか。他にももっとヤバイことばかりしているし。
「だからって今のタイミングじゃなくても……」
「ふふっ、別にいいでしょ? 今日は特別な日なんだから」
その笑顔にドキドキしながら、先生がそっと俺の手を取ってきた。うわ、柔らかい! 細い指が絡んできて、心臓が跳ねまくり。
周りから「え、あれカップル?」なんて声も聞こえてきて、恥ずかしさで爆発しそう。でも先生は平然と微笑んでて、逆にズルい。
(もう……隠さなくてもいいんじゃね?)
そんな開き直りが芽生える中、俺もぎゅっと手を握り返した。
「はい、これ」
先生がそっとカバンの中から取り出したのは、リボンで包まれた小さな箱。緊張した表情で俺に差し出すその仕草が可愛くてドキドキした。
「これ……ずっと渡そうと思って用意してたの。お別れしようと思って、捨てるために持って来ていたんだけど……」
開けてみたら、お揃いのシルバーブレスレットがキラリと輝いていた。先生がそっと俺の手首に触れて、自分でつけてくれる時の指先の温もりが伝わってきてドキドキした。
「秘密の合図にしようね? お互いだけが分かる印……」
先生の手元からふわりと香る甘い香水にくらくらしながら、俺はそっとブレスレットを取り出した。細かい細工が施されていて、シンプルだけど高級感がある。
「これ……先生が選んでくれたんですか?」
「うん。翔太くんのこと考えながら、どれが似合うかなって悩んだんだよ?」
そんな言葉を聞いたら、心臓が爆発しそうになる。
俺はぎこちなく手首に通してみせた。先生も同じように、自分の細い手首にブレスレットをつけて、二人で顔を見合わせて笑う。
「これで……繋がったね」
先生が小さな声で呟く。
「今度、これつけてデートしよっか?」
顔が赤く染まっていて、俺はもう何も言葉が出てこなかった。
――その時、ホームの反対側に見慣れた小さな影があった。
(美咲……?)
制服姿の彼女がじっとこちらを見つめていて、唇が小さく動いた。
「負けないんだから……」
その言葉を胸に刻んで、俺はもう一度先生の手をぎゅっと握りしめた。
電車が到着するベルの音。二人で乗り込む車内は思ったより混んでいて、自然と体が寄り添う。
頬にかかる先生の髪、耳に触れる吐息、そして腕に伝わる柔らかな温もり。さらに胸元の柔らかさが近くに感じられて、香水の甘い香りが鼻をくすぐり、全身が熱くなるような感覚に包まれた。
そして先生がそっと俺の耳元で、
「このあと、私の家に来る?」
とささやき、さらに顔が熱くなった。
(こんな幸せ……いいのかな? いや、きっとこれからもっと——)
——先生と俺の秘密は、まだまだ続く。
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これにて、完結となります!
当初はもっと短い短編にしようかとも思ったのですが、オトナなお姉さんを書くのが楽しくて、ついついいろんなイベントを書いてしまいました。
普段は違うジャンルを書いているのですが、エッチなラブコメも良いですね!
新作の構想もあるので、公開した際は覗いてやってください。
そして最後にお願いがあります!
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(追記)
新作はじめました!
『太ももがエロい銀髪お嬢様と始める同居生活~超貧乏な俺がクラスのアイドルを飼うことになった理由~』
https://ncode.syosetu.com/n2599ko/
すまんな、作者は胸よりも脚フェチなんだ……