1/5話『地味子先生は、痴女!?』
地味で平凡。
俺はそんなモブ男子高校生だった。
でも、本音を言えば——。
『たまには、ちょっと刺激が欲しい』
『できれば、ラブコメみたいなエロいハプニングを』
なんてアホなことを願ったのがすべての原因だった。
◆
貰い事故で足を怪我して、自転車通学から電車通学に変更を余儀なくされた朝。
「すでに激混みなんですけど……きっつ」
改札を抜け、すでに汗だくで人波に揉まれながらホームに立つ俺。正直もうこの時点で帰りたいと心の中で愚痴っていると——。
(……あれ?)
電車を待つ列の先に、ひときわ目立つ女性が立っていることに気づいた。
ハイヒールに引き締まった脚。タイトなワンピースに、流れるような巻き髪。
露出度高めで、通り過ぎるサラリーマンたちが二度見するほどの美人。
「え、モデル? いや、女優……?」
でも、その横顔。どこかで……いや、すごく見覚えがある。
俺の目が彼女のホクロを捉えた瞬間、心臓が跳ねた。
——右の口元近くにある、小さなホクロ。無意識に眼鏡を触るクセ。
「……嘘だろ……まさか」
電車が滑り込んでくる音とともに、俺の脳内はパニック状態。鼓動が速まり、手のひらにじんわり汗が滲む。
“地味子先生”と呼ばれてる、担任の山田玲子先生——!?”
いやいやいや! 先生は地味で大人しめな白衣姿の生物教師だろ!?
でも、特徴が完全一致なんだが!?
電車の扉が開き、押されるように車内へと流される。
「あっ、ちょっ!?」
マズイ、同じ車両に乗っちまった。
電車のドアが閉まる音がやけに重く響いた。
俺はギュウギュウの満員電車に押し込まれ、あっという間に身動きが取れなくなった。
でも、それよりヤバいことが目の前に立っていた。
「山田先生……ですよね?」
思わず口走った俺の声が震えていた。だって目の前にいるのは、どう見てもあの“地味子先生”なのに、超絶美人仕様。
先生はふわりと笑って、目を一瞬泳がせながら「違うけど?」と小首をかしげた。その視線が一瞬だけ逃げるように動き、頬にわずかに赤みを浮かべて誤魔化そうとしている。なんだこれ、破壊力バグってる!
「そっくりさんじゃないかな~?」
とわざとらしく視線を逸らして笑みを浮かべ、指先で髪をくるくる弄びながら
「やっぱ誤魔化されないよね? 学校から遠い駅だし、平気だと思ったんだけどなぁ……」
なんて呟く。
その仕草と耳元で低く甘い声を囁かれて、心臓どころか脳みそまでショートしそうだった。
「せ、せんせい……!? ほんとに……!?」
「あはっ、そんなに緊張しなくてもいいのに。……でも今はセンセイ呼びはだーめ♡」
目尻を下げて小悪魔スマイル。やばい、もう心臓止まる寸前。
「ねぇ、黙っててくれるよね? このこと……二人だけの、ヒミツ♡」
次の瞬間、電車が急停車。
「うわぁっ!」
思わず前に倒れ込み、柔らかさと甘い香りに包まれる。頭が真っ白になって心臓が耳元でドクンドクンと鳴る。
これは事故、事故だよな!?
でも体が勝手に反応してる自分、正直で許してくれ!
「……ふふっ、電車って揺れるとドキドキするね」
耳元に熱い吐息。息が止まる。
ていうか別のモノが揺れていて、目のやりどころに困るんですが!?
「内緒にしてくれたら何かご褒美、あげちゃおうかな?」
もう無理だ。心拍数が限界突破。
『これってホントに現実か!? 誰か夢オチって言ってくれ!』
酸欠で目の前が霞んでいく俺を横目に、先生は最後にあの小悪魔ウィンクをして「また学校でね」と電車を降りて行った。
——車内で聞いたんだけど、先生は“普段は絶対に見せられない自分”を解放するのが趣味らしい。遠くの駅で派手な服を着て、大人の顔を演じる。それが彼女なりのストレス解消で、スリルなんだってさ。
でもさ、よりによって俺が遭遇するとか……神様、悪ノリしすぎだろ!?
放心状態のまま電車を降りた。学校に向かう足取りは妙にふわふわしている。授業が始まっても心臓は未だにバクバクしていて、頭の中はぐるぐる混乱しっぱなしだ。
そうして二限目の予鈴が鳴り、教室のドアから入ってきたのはいつもの“地味子先生”。
白衣をまとい、きっちり結んだ髪、化粧っ気のない顔。そんな女性が静かに黒板にチョークを走らせ始めた。
さっきの大胆な姿とのギャップに頭が混乱してクラッとする。
「こうしてヒトはホルモンの働きで体内の機能を保っています――」
『……嘘だろ、同じ人……だよな?』
朝の電車内で見た、あの妖艶で挑発的な女性が、今目の前で淡々と授業している先生と同一人物だなんて信じがたい。
「ここ、試験に出るからしっかりノート取っておくこと」
冷静な声が響くたび、俺の脳内ではあの艶っぽい囁き声が何度もリフレインしてくる。
そっと視線を上げると、先生と目が合った。
その瞬間、彼女は教壇の上でほんのり口角を上げて「ふふっ」と小さく笑った。わざとらしくない自然な笑顔が逆に破壊力抜群で、心臓が跳ねる。
『やっぱり……同一人物!!』
「翔太、顔真っ赤じゃん! 風邪か?」
隣の席の友達が肘でツンと突いてくる。俺は慌てて「な、なんでもないって!」と声が裏返ったまま答える。視線を必死にノートに落とすけど、ペンを握る手はブルブル震えてて、書いた文字はもはや暗号だ。
授業終了後。
教科書をしまおうとした、その瞬間——
「バラさないでくれてありがとね?」
耳元で甘く囁かれて、全身がビクンと跳ねた。
振り返ると、白衣姿で真面目顔のはずの先生が、一瞬だけあの小悪魔モードに切り替わる。
「でもノートはしっかりとるのよ?」
指先で髪をくるくる弄びながら、イタズラっぽくウィンク。そして、そのままクルリと踵を返して去っていく。
『動揺してたのも、全部バレてるっ!?』
頭を冷やす間もなく、放課後、駅のホームへ向かう途中、またあの声が背後から飛んできた。
「偶然だね、翔太くん。一緒に帰っちゃう?」
振り返ると、そこにいたのは昼間の地味子先生じゃなく、別人のように華やかな山田先生。美脚が映えるミニスカートに、キラリと光るアクセ。
「せ、先生!?」
「んー? 今は玲子って呼んで♡」
イタズラっぽくウインクされて、思わず心臓がバクバク。流れるような自然さで電車に誘われ、隣に座る。
電車内、隣に座った先生が、こっそり耳元で囁いてくる。
「秘密ってさ……ちょっと背徳的でドキドキするでしょ?」
思わず肩が跳ねる俺を見て、先生はさらに畳みかけるように甘い声で続けた。
「それにね……秘密は誰かと共有すると、もっともっと興奮するんだよ?」
そういって俺の太ももに、先生の白いムチムチの脚が触れる。そこから熱が伝わって、俺の顔が真っ赤を通り越して湯気出そう。もはや理性崩壊寸前。
(モブにエロいお姉さんは、刺激が強すぎる……!)
そうして最寄りの駅に到着するまで、俺は山田先生に翻弄され続けるのであった。
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ギャップある女教師って良いですよね。
ちなみに山田先生は、私が通っていた高校時代の生物教師がモデルです。
京都弁で気の強い先生でしたが、ガチ恋した生徒から愛の告白をされたときに、顔を真っ赤にして照れていたのを今でも覚えています。
完結まで投稿予定です。
中編でそこまで長くならない予定なので、是非ともブクマしてお楽しみください!
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