カスミソウ
梅雨が明けた7月。
蒸し暑い気温の中、花乃 日向は文化祭準備のために土曜日なのに学校に向かっている。
「おはよー、志穂。佳澄と静は?」
公園で待ち合わせたはずなのに志穂しかいない。
鹿野 志穂、彼女は中学からの同級生、待ち合わせ時間に遅刻してきた日向を待っていた。
「もう…日向遅い。2人とも先に行っちゃったよ」
志穂は呆れた顔で日向を見る。
「あはは...ごめん。オールでドラマ一気見しちゃった。走っていこっか」
日向が走り出した少し後ろを志穂が追いかけている。
「ちょっと…日向っ…待ってよ…」
学校に着くと正門前で佳澄と静が待っていた。
「ひ〜な〜た〜!遅れるなら連絡くらいしなさいよ!」
佳純が大声を出しながら日向に向かってずんずんと歩いてくる。
「佳純落ち着いて。朝からそんな大声出したら迷惑でしょ」
静も佳澄を注意しながら日向の元に来た。
「でも佳澄に同感。日向の遅刻癖はいつ治るのやら」
2人は、新島 佳澄と村山 静、高校から仲良くなった。
「日…向…」
志穂が遅れてやってきた。志穂はあまり体力がない、疲れ果てて座ってしまった。
「ちょっと!志穂!大丈夫?」
そう言うと、佳澄は志穂をおんぶした。
「ありがと...佳澄ぃ…」
4人は文化祭準備のために教室へ向かった。
4人が教室に着くと、既に準備は始まっていた。
「遅いぞ!女子!」
クラス委員長の飯野 樹が声を出す。
「どうせ日向が遅刻したんだろ」
と橿原 紫音が笑いながら言う。
「いや〜ごめんごめん!私、今日めっちゃ頑張るから許して!」
日向が笑いながら謝ってると、志穂が
「あれ?夜久君と水嶋君は?」
「あ〜2人ならダンボール取りに行ってるよ」
樹が忙しそうに答える。
「それよりも早く手伝って」
日向たちは準備を始め出した。
しばらくして
「ダンボール取ってきたぞ」
ダンボールを取りに行っていた夜久 碧来と水嶋 瀬良が帰ってきた。樹にダンボールを渡すと2人とも準備を手伝い始めた。12時を過ぎると、紫音が
「おーい、休憩しようぜ」
と言ったので、それぞれが昼食を取り、休憩に入る。
「瀬良、飲み物買いに行こうぜ」
そう言って碧来は瀬良を連れて教室を出た。紫音が碧来の姿が見えなくなったのを確認して日向に問いかけた。
「碧来と日向って幼なじみなんだろ?話してるとこ全然見ないけど仲良いのか?」
日向は少し考えるような間を置き、笑顔で答えた。
「幼なじみだよ。でも中学生になったくらいから喋らなくなっちゃって、小学生の頃はたくさん遊んだんだけどね。碧来の両親、小学生の頃に事故で亡くなっちゃって…。多分その頃から少しずつ距離ができちゃったのかな〜」
「碧来のこと、どう思ってるの?」
「こら!紫音、あんたってやつは!」
佳澄が紫音の頭を叩く。
「え?碧来のこと??ん〜…喋らなくなってからも碧来のことは気になって見ちゃうんだよね。だって幼なじみだし、ふふ」
静と志穂と樹は目を合わせて呟いた。
「それって好きなんじゃ…」
碧来と瀬良は飲み物を買いに体育館の方へと向かっていた。瀬良は碧来に聞く。
「碧って日向と幼なじみなんでしょ。日向のことどう思ってんのさ」
「日向?幼なじみ、ただそれだけだよ…もう喋ってないし向こうだってそう思ってるはず」
「ふ〜ん好きとかじゃないんだ」
碧来は顔が真っ赤になってく。
「碧、冗談だよ」
「笑えねーよ…」
碧来はため息をつく。瀬良は何かを感じ取ったような表情で碧来を見つめていた。
昼休憩も終わり、準備に夢中になっていた日向達は外が暗くなっていたのに気が付かなかった。時計の針は20時を指していた。樹が最初に気づき、作業の終了を告げた。
「気がついたらこんな時間だ。みんな、今日はもう終わりにしよう」
みんなが一斉に片付け始める。日向がダンボールを片そうと持ち上げようとした時に同じダンボールを碧来が掴んでいた。
「碧来…私片すよ?」
「いいよ、重いし」
碧来が日向からダンボールを奪うように取って運んでいった。その様子を他の6人は見てお互いに目を合わせながらニヤニヤしていた。
「待って、碧!」
瀬良が追いかけていく。
「碧〜、ただの幼なじみなのに優しいじゃん」
碧来は下を向きながら
「男なんだから重いものを持つのは当然だろ…」
そのまま足早に歩いていった。
片付けも終わり、みんなで正門に向かった。
「あれ?門の前になんかある?」
志穂が不思議そうに見ている前には遊園地があった。夢を見ているのかとみんな目を擦ったり、樹と紫音なんかは叩きあったりしていた。
「夢じゃない!?」
日向達は少し考えたあととりあえず遊園地に入ることにした。
「待って!学校が無くなってる!」
後ろで佳澄の大きい声がした。みんなが振り向くと、後ろにあったはずの正門が無くなっている。
「とりあえずここから出る方法を探そう」
樹が言ったすぐ後に
「学校がなくなったって入口はここだったんだから出られるんじゃね」
そう言って紫音が出ようとしたが見えない壁があるようだった。
「なんか見えない壁があって出られねーよ!」
「つまり、私たちはこの遊園地に閉じ込められたってことね」
「静〜なんでそんなに落ち着いてるの!外も真っ暗なのに」
志穂が今にも泣きそうな声で言う。
「碧?どうしたの?」
瀬良が碧来の何かを考えてる様子に気づいて問いかける。
「いや…何でもない」
「よしここは2人1組4手に別れて辺りを探索してみよう、女子だけじゃ危ないから男女で1組でいいか?」
樹が提案する。みんなその提案に賛成し、静と樹、佳澄と紫音、志穂と瀬良、日向と碧来の組に別れて探索を始めた。日向と碧来は無言のまま探索していたが、碧来が先に口を開いた。
「日向…」
「!?どうしたの?」
日向はびっくりして声が裏返った。
「俺と組んだの嫌じゃないか?」
「嫌じゃないよ…逆に碧来はどうなの?」
碧来は自らこの会話を始めたのに日向の返答に驚いて固まってしまった。
「あはは…やっぱり私と2人きりは気まずいよね。志穂と変わってくる!」
日向が立ち上がって歩き出そうとしたとき、日向の手を碧来が掴む。
「嫌…なんかじゃない」
碧来は下を向きながら言う。
「あ...そうなんだ...私勘違いしちゃったね…」
そう言って2人はまた無言になった。気まずい雰囲気が流れながら探索をしていると、
「おーい、君たち何してるんですか?」
と声が聞こえた。2人が振り向くとそこには歳をとった男がこちらに向かって手を振っていた。
2人が警戒していると、男は
「そんなに警戒しないでください。私は怪しい者じゃありませんよ」
と言ったが、2人は声を揃えて
「十分怪しい!」
と言った。2人は目を合わせて照れる。
「あら、青いですねぇ」
2人はぐっと男を睨む。
「一体あんたは誰なんだ」
碧来が男に聞いた。
「私ですか??誰なんでしょうね?私にも分からないんです。ただ君たち2人に私は必要だと思いますよ」
男はそう言って2人の頭をポンと撫でる。
「なんだそれ…」
碧来は手を振り払ってため息をつく。でもなんだか懐かしい匂いがした。それは日向も同じようだった。
2人は男と一緒にまた探索を始める。男は沢山話しかけてくる。
「君たちは幼なじみなんですよね」
「どうして会話しないんですか?」
「君たちは仲が悪いんですか?」
男の問いかけに碧来はイライラして声をあげようとしたとき、日向の方が先に口を開いた。
「碧来?私ね、碧来のことずっと見てたんだ。小学生の頃、沢山遊んだよね。中学生になってからほとんど会話しなくなったけど、それでも私は碧来のこと気になってたんだよ。もちろん今も…。碧来は?」
碧来は唇を噛みながら考えてから口を開いた。
「お…俺は…母さんと父さんが死んでから、お前のことを避け始めた。だって日向との楽しい思い出には母さんと父さんも一緒だったから…。一緒にいたら母さん達を思い出すんじゃないかって…。勝手に避けてたんだ」
日向の頬が濡れていく。
「でも間違ってた。避けるんじゃなくて日向に話せばよかったんだ。辛いって、寂しいって。俺は母さん達との思い出を…日向との思い出をなくそうとしてたんだ。日向だって辛かったはずなのにいつも日向を見る度にこいつは頑張ってるのにって思ってた。避けててごめん…」
碧来の目にも涙が浮かんでいた。
「2人とも顔を上げて、楽しい思い出を思い出して前を向いて進みなさい。思い出は忘れることはあっても無くなることはない。心の中に残って思い出せるから【思い出】というのです。2人とも思い出しましたか?ここがどこなのか」
2人が顔を上げると男はいなくなっていた。
「碧来、ここって…」
2人は遊園地の真ん中にある観覧車にいた。その瞬間、碧来の中にあった疑問が晴れた。
「日向!この観覧車のゴンドラの下、確か…」
2人がゴンドラの下を見ると石で削ったようなひらがなで【あおき ひなた】と書いてあった。日向も思い出したようで2人は顔を合わせて
「カスミソウ!」
と叫んだ。その声は遊園地に響き渡ったようで他を探索していた志穂達が集まってきた。
「日向〜!碧来くん〜!何か分かったの?」
日向は碧来と目を合わせて頷いて言った。
「ここ前に閉園になった遊園地カスミソウだよ!」
紫音が首をかしげて言う。
「カスミソウ?そんな遊園地あったか?」
「ここはそんなに有名な遊園地じゃなかったんだ。俺たちが小学生のときに閉園になった遊園地だ」
他のみんなはポカンとしている。
「なんで2人は分かるの?」
と瀬良が聞く。
「俺たちは小学生の頃、よくこの遊園地に連れてきてもらってた。今まで忘れてたけど、ここは俺たちの楽しい思い出の場所なんだ!」
碧来が笑顔で日向の方を見る。
日向も嬉しそうな表情を浮かべている。
次の瞬間、日向の表情が変わる。
「碧来!ここから出られるかも!」
「日向!俺も同じこと考えてた!」
2人は声を揃えて言う。
「ジェットコースター!」
また他のみんなはポカンとしている。
「ジェットコースター??」
再び紫音が首を傾げて言う。
「ジェットコースター付近の壁の下に穴が空いててそこからこっそり忍び込んでたんだよ!行こう!碧来!みんな!」
碧来は笑顔で日向の顔を見る。碧来が日向の前に手を差し出す。日向はその手を嬉しそうに握る。
「お前らそんな仲良かったか?」
「こら紫音!」
今回は佳澄だけじゃなくて志穂も静も樹も瀬良も声を合わせて言う。日向と碧来に先導されてジェットコースターに行くと壁の下に小さな穴が空いている。
「穴の外!学校が見える!」
穴を覗いた日向が言う。みんなが穴を抜けて外へ出る。日向と碧来は手を繋ぎながら観覧車の方を見る。
「日向、今からでも間に合うかな」
「うん」
「俺、日向と一緒にいたい」
「私もだよ、碧来」
2人は穴を抜けて外に出た。外に出ると学校の正門に立っていた。どこを見ても遊園地はない。時間を見ると20時半を回っていた。8人は帰路に着いた。
文化祭当日、日向は碧来と一緒に回っていた。
「日向、これから沢山楽しい思い出増やしていこう。ずっとずっとそばにいて欲しい」
「碧来、もう一人で抱え込まないでね。私たちは2人で1つなんだから」
2人が通る体育館通路の横にはカスミソウが並んで咲いている。
初めて物語を作ってみました。是非、読んでみてください。