その3
「まあ、本当は良くないんだろうが……職権濫用ってやつだ」
そう言うとサマーは電話をかけだした。
「もしもし、真月三尉か? 本官だ。今すぐ指定する場所に来てくれ。え? なんの命令かって? ……まあバツの悪い話だが私用だよ。おおっと拒否するなよ!これは上官命令だと思って行動しろ!」
しばらくすると、サマーが電話をかけた相手らしき男性がベルを鳴らした。
「いらっしゃい真月三尉。説明はメッセージを見たな? ここにいるのが本日の主役、鞍作荒騎死だ」
「ああ、どうもですどうもです。全く、今日は非番だってのに、渡辺二尉ったら強引なんだから」
「し、失礼します……この度は私のためにわざわざ自衛隊医の方に来てもらうなんて……」
「まあ事情が事情ですしな。とにかく患部を見せてみて」
俺は言われるままに口を開いてみせた。
「ああー……これは、やっちゃってますな。中切歯が2本とも。なんで結婚式当日の朝にお菓子なんて食べちゃったんですか?」
「それは……その……こんな簡単に取れるものだとは思ってなくて……」
「もともと取れやすいって歯医者から言われてませんでした? それにしても、これは専門じゃない医者が一人いたところでどうにもならない。まずは設備がないと」
「駐屯所に行くか?」
サマーが声をかけた。
「まあそれが一番でしょうな。普通ならそんな簡単に入れはしませんが、渡辺二尉が声をかけるならなんとかなるでしょう」
「決まりだな。それでは急ごう。時間は何よりも貴重だ!」
P.M. 0:23
俺たちは自衛隊市ヶ谷駐屯所に向かった。