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元コンサル女子の異世界商売~ステータス画面とAIで商売繁盛!~  作者: 雪凪
カイゼンとイノベーション

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2-29 幹部会議(1)王都移転の行方

副会長登場!キリがいいところまでと思うと、文字数が増えてしまいました(_ _*)





みんなが先々週の大臣視察の特別ボーナスで盛り上がっているのに、私は重い足取りで、レオン会長の執務室に向かっている。


(何で幹部会議に私が参加しなきゃいけないのよ)


『アイリス様、レオン会長からの命令ですから』


大臣視察は大成功に終わった。商会の案内に満足した大臣は、夜の会食でもずっとご機嫌だったそうだし、翌日の事務官たちとの意見交換もうまくいった。大臣は個人的に、名刺の追加やおしぼりの大量発注をしていったし、事務官の方々お土産に大量購入していった。


(大体さぁ、幹部会議なら、もっと凄い人を呼べばよくない?)


『ですが、印象測定システムによると、周りから「凄い人」と思われているのはアイリス様ですよ』


(印象測定システム? 何でも数値化しちゃうのね、テオって)


思わず笑ってしまって、通りすがりの従業員に不思議そうな顔をされてしまった。


『商品開発室長の凄い人印象を100とすると、レオン会長は1,783ですが、アイリス様は4,238になります』


(何その、ドラ〇ンボールのスカウターみたいなの。絶対にテオの贔屓が入ってるじゃない)


テオとのおしゃべりのおかげで、憂鬱な気持ちが少し晴れてきた。




執務室の中に入ると、顔なじみの面々が揃っていた。王都から来ているエトラ支店長は窓際の応接セットに座り、いつもの通りおしゃれで上品な佇まいだ。レオン会長の学友で、昔は、「彼氏ならレオン・シルヴァークレスト、結婚するならエトラ・ソリス」って言われていたらしい。私もその意見には賛成だ。いつも落ち着いて悠然としているが、意外に腹黒で野心的なところもあって、さすが王都貴族界隈で生き抜いていく人だという感じ。


副会長のザイール・ヴァンダロア氏は、真っ赤な髪をした東のアザランス帝国のさらに東のエスタヴェリア出身のチャラいお兄さんだ。これで3回目の顔合わせだけど、いつも昔からの知り合いのような態度を取ってくる不思議な人。私が入室すると、にやりと笑って手を振った。


「よぉ、アイリス。今日も可愛いじゃん。その髪型、帝国風の編み込みか。似合ってるぜ。後で、商品契約の翻訳を頼むよ。ライニキア語とヴィルヴィラ語だ」


軽く会釈をするだけで、その言葉には反応しないようにする。ザイール副会長は一年の大半を買い付けに回っているけど、私の語学力スキルだけどを、私の知識やアイデアよりも評価している。人懐っこい笑顔で、なんか憎めないキャラクターだ。外国の流行や最新情報に詳しいので、商品開発のアドバイスとバーターで翻訳を手伝っている。


トバイアス・レジャー事務長は、机に向かって書類をめくっていた。決算の時期になると、自動計算スキルでお手伝いしているので私にはいつも優しく接してくれる。そして、私の開発商品やアイデアが商会の売上げを倍増させているので、私の意見をとても尊重してくれるが、同時に売れすぎて商会を混乱させることもあるので警戒もされてもいる。あ、気持ちよさそうにおしぼりで顔を拭き始めた……おしぼりが大のお気に入りらしい。


「おはようございます、アイリスさん。本日も忙しい中、呼び出して申し訳ありませんね」


いつもの丁寧な口調で挨拶してくれた。


レオン会長は窓際に立ち、港の方を眺めていた。私が入室すると、振り返って温かな笑顔を見せてくれる。


「アイリス来たか! よし揃ったな。さあ、幹部会議を始めようじゃないか」


会議室のテーブルに私が着席すると、ザイール副会長が最初に口を開いた。


「で、マジで王都に移転すんの? 買い付けルート、組み直さなきゃなんねーんだけど」


彼はニカッと笑顔で私の方を見た。


「まぁアイリスに頼めば、一瞬で移動ルートは作ってくれっけどな?」


そりゃ、地図スキルとタスク管理で最短ルートの計算なんて秒だけどさ。


『アイリス様、またザイール副会長のルート選定に半日は付き合わされそうですね……』


(私の事をルート計算ができる翻訳機と思ってるよね、あの人は)


トバイアス事務長が真面目な表情で言った。


「レオン会長、現在、商会内だけで社員は100人を超えております。これに、職人や取引先の下請け、そしてその家族まで含めますと、関係者の数は1,000人を優に越します。移転はソルディト経済に多大な影響を与えることになりますね」


エトラ支店長が静かに意見を述べる。


「ソルディトの影響も気になりますが、正直に申し上げて、ソルディトの本店をそのまま王都へ持っていくなら、単なる庶民向けの商会にしかなりません。一流の商会を目指すのであれば、貴族対応は避けて通れませんので、その辺りの詳細を検討する必要が」


私は、自分も何か言うべきか迷った。でも……。


『アイリス様、沈黙は金です』


(最近、テオは諺にハマってるね……いろはカルタのせい?)


しばらくの沈黙の後、窓から港を眺めていたレオン会長が振り返った。


「よし、決めた。移転はしない」


はっきりとした口調だった。


「王都は内陸すぎる。この港町の活気があってこそのシルヴァークレスト商会だ」


「まぁな。外国からの買い付け商品から始まった商会だしな。最近は、他のことで名が売れてっけどさ」


副会長が、私を見てニヤニヤしている。目をそらさずに、強気で見返した。いいじゃん、福袋のおかげで在庫が減って買い付けも少しラクになったでしょ。感謝してよね。


レオン会長は続ける。


「だがな、大臣の言葉だから、王都支店の拡張計画は前倒しで進めるしかないだろう。王都は文具・名刺専門店のままにして、先に帝国に支店を作る予定だったんだがな」


「「「えっ! 聞いてませんけど!?」」」


私とザイール副会長とトバイアス事務長の声が重なった。エトラ事務長だけが「ほう」と静かに反応している。レオン会長は、いたずらが成功した子どものようにニヤッと笑った。


「実はな、この前、帝国から天気予報システムの相談に来た役人がいただろう? そいつが偶然、昔の知り合いでな。で、帝国で支店を出してほしいっていう話になったんだよ。ちょどいい。どうすべきか、みんなの意見を聞かせてくれないか?」


事務長は完全に頭を抱えている。副会長は自分には関係ないという顔。エトラ支店長は腕を組んで目をつぶっている。私は突然の提案に、ふと思い出した前世のコンサルで新規出店する時の企画案を、深く考えずにつぶやいた。そう、つぶやいてしまった。


「んー、支店はリスク高いかも……じゃあ、フランチャイズ? うちの労力は削減できる。ローカライズは相手に任せられる……失敗しても最小限の被害ですむかなぁ」


「フランチャイズ? それは何だ?」


レオン会長の目がキラキラに輝いた。幻の尻尾もグルグル回っている。


(やらかしました。はい、反省しない子、アイリスです。テオ先生、助けてください)


『アイリス様、覆水盆に返らずです。前世の出店企画の資料を展開します。単語はこの世界の人にわかりやすい言葉に変換します』


「つまりですね……」


私は空中に展開され画面を見ながらゆっくりと言葉を選ぶ。あごの下に手を当てて、考え込んでる風を装いながら、企画資料の概要にサッと目を通す。


「本部が商品やサービス、経営ノウハウを提供して、加盟店がそれを使って店舗を運営し、売上の何割かを本部へロイヤリティとして支払うシステムです。本部は出店の初期費用を抑えられますし、加盟店も確立されたブランドと経営ノウハウや有名商品を活用できるメリットがあります」


「なるほど。面白い考え方だな。つまり、お互いにリスクを抑えて、支店を出せるってわけか。これは使えるぞ。国内でも支店の要望は聞くしな」


レオン会長は理解も決断も早い。私は紙に簡単なフローを書いて詳しく説明した。事務長がサラサラと何かの計算を始め、エトラ支店長が静かに口を開いた。


「信用の問題が重要ですね。シルヴァークレスト商会のブランドを使うわけですから、商会の評判を落とすような運営をされては困ります」


「その通りなんです。きちんと審査して信用できる人にフランチャイズをしてもらわないと、シルヴァークレスト商会のブランド力が崩れます。また、生産や輸送、現地職人の確保など、加盟店との間で、厳しい条件設定をした契約も必要になります」


ザイール副会長が立ち上がり、窓の外を眺めながら言った。


「帝国支店はヤバいな。帝国の商人たちとの関係も変わっちまう。今、帝国じゃシルヴァークレスト商会の評判がめっちゃ上がってんだぜ? アイリスのおかげでな」


「私ですか?」


「おいおい、知らねーの? 天気予報のシステムと、あの新しい名刺カードだけでも、一部ではめっちゃ注目されてんだよ」


「王都支店でも、帝国の方の高級名刺の注文件数はかなりの数ですよ」


「名刺なんて帝国でもすぐに印刷できるのに、なぜうちで注文するんですかね?」


疑問に思って聞くと、ザイール副会長がまたニヤリと笑う。


「アイリスがやったブランディングってヤツが、帝国でも話題になってんだよ。でー、その最新流行のシルヴァークレスト商会で名刺を作るっていうのが金持ちのステイタスになってんのさ」


「王都支店で作られる方は、名刺の隅に 『SVC』 つまりシルヴァークレストと印刷してくれという注文もありますからね。紺地に銀色でロゴを入れた名刺の帯締めは、名刺より大切に扱われているようですよ」


びっくりだ。うん、これだけ帝国でもブランディングが浸透しているなら、フランチャイズはいけるかもしれない。


「アイリスの 『フランチャイズ』 ってアイデア、いいと思うぜ。でもな、契約書はめっちゃ細かく作んねーと危ねぇ。特に帝国じゃ、商標権の考え方が違う。商標を先に取られちまったら終わりだからな」


真面目な顔で話すザイール副会長に、エトラ支店長が興味深そうに身を乗り出す。


「具体的には、どういった点に気をつければ?」


「まず、商標は各国で取んなきゃダメ。特に帝国は早いもの勝ちだから、今すぐだな。次に、ブランドの管理。こないだ、帝国のバーで 『シルヴァークレスト・カクテル』 なんてのが出てたぜ? うちは酒売ってねーのにな」


「そんなことが?」 レオン会長が眉をひそめる。


「まぁ、すぐに裏から手を回して止めさせたけどよ。でも、今後もそういう可能性があるわけじゃん? だから契約書に 『商品開発は本部の許可制』 とか、細かく決めとかないとマジでヤバいわけ」


『アイリス様、副会長の経験に基づく具体的な貴重な提案ですね』


(うん。商標登録はすぐにでも始めないと……テオ、リストを用意しておいて)


ザイール副会長は、頭の後ろで手を組んで、楽しそうに足をブラブラしている。


「つーか、アイリス。お前、面白ぇよな。いっつも新しいアイデア出してくんの。まさか、別大陸の知識でもあんのか?」


「えっ!?」


冗談めかした軽い口調だったけど、私の背筋は凍る。


『アイリス様、落ち着いてください。ザイール副会長は実家が占い師です。そういったスピリチュアルな考えを受け継いでいるのかもしれません』


「あ、あはは。占い師のお父様から、そういった透視の才能を受け継いでいるんですか?」


「おぉ、知ってんの? まぁな、俺には 『商人の眼』 スキルはあるけどよ。お前にも何か特別な商売の才能でもあんじゃね?」


「私は薬草・薬関係の 『緑知の指』 しか持っていませんよ」


「ここにスキル持ちが2人もいるのか」と呟く事務長の声が聞こえた。


「そっか、そのスキルの技能で天気予報を当ててるんだっけ? その天気予報も、帝国の商人たちの間で、めっちゃ評判いいんだよ。おかげでスムーズにまとまった商談もあるほどだ。そう言えば、レオン。アザランス帝国の気象台が、シルヴァークレストで開発中の予報システムを参考にして、新しい観測装置を作ってるって噂だぜ?」


ザイール副会長がレオン会長の方を向いて話すと、会長も真剣な表情になる。


「ほう。この前来たヤツはそこまでは話して無かったんだがな」


「天気予報は、でっけぇ価値があんだよ。海路だけじゃなくてさ、砂漠越えの東方貿易ルートは、一度嵐に巻き込まれたら逃げ場がなくて全滅するからよ。それを観測システムで正確に予報できるってなったら、商人はいくらでも飛びつくだろうな」


チャラいけど、さすが副会長。情報がすごい。チャラいけど。


「今度、帝都で開かれる 『東方貿易会議』 ってのがあんだけど、そこでシルヴァークレスト商会の名前が出るかもしれねーんだぜ? うちの天気予報と名刺交換のシステムが、貿易の新しい形として注目されてっから」


「ザイール、詳細がわかり次第、事務室まで知らせてください。急に問い合わせが来ても対応に困ります」


トバイアス事務長が、猛烈な勢いでメモを続けながら、顔も上げずに副会長に言っている。そこの関係は呼び捨てなんだ。


「だからさ、フランチャイズで帝国支店ってのは、今の注目されているタイミングならピッタリかもしれねーな。今までは、外国で買い付けた商品をこっちで売るって商売だったけどよ、これからはうちの商品を東方で、いや世界中で売りまくってやれるぜ、レオン」


トバイアス事務長が、ペン止めて頷いている。エトラ支店長も賛成のようだ。レオン会長がグッと拳を握りしめて立ち上がる。


「よし、決めた。移転はしない。その代わり、帝国で最初のフランチャイズを展開しよう」


え? そんな重要な決定、すぐに決めちゃうの? まぁ、コンサルとしては資料作りが無くてラクだけどさ。


『アイリス様、ザイール副会長の言葉には説得力がありました。それに、前世のフランチャイズの知識を活かせば、成功率は78.4%ございます』


(それって、高いのか低いのかわかんない成功率なんだけど……)


「じゃ、アイリス。フランチャイズの契約書、作ってくんない? オヤジが 『契約書は若い女性に任せろ』 って言ってたし」


「はぁ!?」


思わず大きな声が出てしまった。契約書の草案は作るつもりでいたからいいけどさ……絶対に占いはウソでしょ!!


事務長は早速、紙とペンを用意している。テオがデータベースから、契約書のひな形を次々と展開させている。エトラ支店長は「王都支店も、いずれフランチャイズ化して、私がオーナーに」なんて黒く呟いている。ザイール副会長はペテン師のようにニヤついている。


振り向いたレオン会長が、爽やかな笑顔で続けた。


「さて、アイリスの王都出店計画書の詳細を検討したい。みんな、その分厚い資料には目を通してきてくれたな?」


会議はまだまだ続くみたい。ふぅ、レモンティー飲みたいな。




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