第一歩目(敵)
目を開けると俺は森の中にいた。
女神様と話していた時の着の身着のまま、いや、新たにもらった宝具である一冊の本をもっていた。
一見するとただの森だが、木や植物は今まで見たことのあるものとは全く異なる形・色をしており時々、聞こえてくる鳥や動物であろうものの鳴き声も聞いたことのない不思議な声をしている。
「まじで異世界に来たっぽいな……」
とりあえず、森にいても仕方ないので街を目指すべく俺は動き出した。
「あ~あ、女神様も森とかじゃなくて街に降ろしてくれればよかったのにな~
てか、この本どうやって使うんだろ。」
宝具としてもらったのはいいものの、使い方が全く分からない。
どうやら、ステータスは最強格の俺。
しかし、魔法の使い方やらなんやらは全くわかっていないためどうすればいいのやら。
そんな事を考えながら歩いていると、草薮の方からガサッ っと物音が聞こえた。
「うぉっ!?まさか……モンスターか!」
草薮の方に身体を向け警戒態勢をとる。
異世界に来て最初の戦い、ということになるだろう。
「さぁ……スライムだかゴブリンだかなんでもいい!かかって来やがれ!!」
しかし、草薮から出てきたのはただの兎だった。
「……うさぎかよ…んだよ、せっかくモンスターだと思ったのに……」
兎を狩っても別に良いのだが…せっかくの異世界初戦はモンスターを倒したい。
この兎は見逃すとするか……
「お前を狩っても何にもならねぇしな……ほら、あっち行け。」
そう言うと兎は俺の方を一見し、ピンッ と耳を立て忙しなくまた別の草薮の方へと去っていった。
「はぁ……モンスターと戦ってみてぇな…」
そんな事を言いながらまた、街を探すべく歩き始めた。
〜〜〜
「はぁ……はぁ……この森、どこまで続いてんだよ…」
もう、かれこれ1時間近く森の中をさまよっている。
街に行く、と言っても場所は分かるわけないのでとりあえず、一定の方向に向かって進み続けていた。
「これ、もしかして 森の奥の方に向かって進んでた…?いやでも、もしかしたら出口はもうすぐそこかもしれないし……あぁ!!どうすればいいんだよ!!………はっ!?待てよ……この本…なにかに使えるかも…!」
そう思い立ちとりあえず、本を開いて中を見てみると……
「あ!!これ地図書いてあるじゃん!最初からこれ見とけば良かった…」
貰った時に数ページは見たのだがそこには何も書いていなかった。
しかし、その先に地図のようなものが書いてあるページを発見した。
「……でも、地図見つけたとこで今どこにいるか分からねぇしな…結局、意味ねぇじゃねぇかよ……」
まぁ、そうなる。
「あーとりあえず他のページも見てみるか……んーと…これって……あれ、これまさか…」
地図のページの後ろを読んでいると日本語で「魔法・魔術」
と、書いてある表紙を見つけた。
その先のページには魔法や魔術の名前と使い方、注意事項、唱え方がズラっと書いてあった。
「これだよこれ!なんで、女神様は教えてくれなかったんだよ。えっと今すぐ使えそうなのは……」
そんな事を考えているとまた、草薮の方から物音がした。
しかし、物音自体は先程の兎より小さかった。
「あぁ?また、うさぎか?」
思った通り、兎がぴょんと出てきた。
なんなら、サイズは先程のよりも小さく弱々しかった。
「はぁ…結局、うさぎかよ……」
また、見逃そうと思い無視しているとその兎は俺の足元まで来てちょこんと座った。
「なんか用か?……まぁ、こうみると可愛いもんだな…」
そう思い少し撫でようかと右手を差し伸べた。
「なんだ…可愛いじゃないか……」
自ら頬を擦り寄せ撫でられに来た。
ただ、少し違和感を覚えた。動物にしてはかなり冷たい。異世界だからそういうものなのだろうか……
「撫でるのはこのくらいにして、本の続きを読むか…」
そう思い手を離そうとすると、なんと手に兎がくっついて来た。
それも、接着剤で停められたかのように不自然にだ。
「えっ…何こいつ……ってえぇ!?」
不思議がりながら兎をまじまじと見てみるとなんと、俺の手が兎の頭にずぶずぶと取り込まれてるではないですか。
「お前、うさぎじゃねぇだろ!!」
そう言うと兎は徐々に原型を崩し始め少しづつ水色のスライムのように……というかスライムに変化して行った。
「くそ!擬態するタイプのスライムか……これはこれで異世界っぽい!じゃねぇよ!!なんか、手ピリピリするし、やばいんじゃあねぇか!!」
兎に擬態したスライムとの戦いが始まった。
「手振っても取れねぇしな……とりあえず、本に書いてあった魔法は……どれ使えばいいんだ…?」
宝具の本は読んだばかりなので内容は全く頭に入っていない。きっと、スライムに有効な魔法とかもあるのだろうが分からないのでとりあえず片っ端から魔法を撃ちまくるしかないようだ。
「こんなことならちゃんと読んどくんだったな……とりあえず……」
俺の目に付いたのはページの1番右上にあった魔法、「火の玉」だった。
撃ち方は撃ちたい方の手を開き対象の方向に向け手のひらから火の玉が出るイメージをしながら呪文(火の玉)と、叫ぶらしい。
「喰らえ!火の玉!!」
そう叫びながらスライムの着いた右手をかざし叫ぶと、急に手のひらが熱くなり丸い火の玉が飛びててきた。
それに伴ってスライムも手から離れ地面に落ちた。
「おお!すげぇ!!マジで魔法が使えるじゃねぇか!!!
よし……少し早い気もするがトドメといきますか!!」
スライムにトドメを指すべく本を見てみると先程の火の玉の所に星が1つ書いてあるのを見つけた。
「この星のマーク……そういえば最初に書いてあったな……確か、魔法のレベルみたいなもんだっけ?」
少しページを戻って見てみると
「魔法のレベルは星の数で表しています。
星の数が多いほど強い魔法です。
魔力ランクにより使える魔法が限られており……」
と、書いてある。
俺の魔力ランクはSS、ここに書いてあるものなら全部撃てる。
「よっしゃ……それなら…これに決めた!」
俺は光魔法と、書かれたページの星5魔法を撃つことにした。撃ち方は手を空に向け魔法の名前を叫ぶこと。叫ぶ前に詠唱を入れると効果が上がるらしいがどうせならかっこいい詠唱を決めたいし今回はスキップすることにした。
「この一撃で沈めてやる!!喰らえ!
”神の怒り”!!!」
右手を天に掲げそう叫ぶと、先程まで青空だった空が暗転し黒い雲に覆われた。それに続き雷が鳴りだしどこか厳かな空気が漂い始めた。
そう思っていた矢先、急に右手から何かが空へ向かって吸われていく感覚に襲われた。
それと同時に逃げようとしていたスライムの周りに赤色の魔法陣のようなものが現れスライムの動きを封じ込んだ。
次の瞬間、スライムに向かって空から雷が降り注いだ。
「うわっ!?」
けたたましい雷の音と光に驚きながらもスライムの方に目をやると、スライムの姿は無くそこには半径1m程のクレーターのようなものが出来ていた。
「い、一撃かよ……星5魔法強すぎんだろ…」
すると、どこからか声が聞こえた。
<経験値獲得を確認。レベルアップ成功。宝具使用制限第1段階解除。宝具機能が追加されます。次レベルアップまで残り7経験値。>
「だ、誰だ!?てか、レベルアップ?」
すると、本が淡く光だし最初のページが開いた。
そこには、何も書いていなかったページに説明文のようなものが書かれていた。
「えっと……宝具”聖典”の使用方法。急にこんなの書かれて…さっきのレベルアップと関係してるのか……?」
中身を要約してみると主に書いてあったのは、宝具の使い方、魔法の唱え方、アシスト機能、レベルアップによる特典についてだった。
「……てことは、さっきの声ってこの’アシスト機能’ってやつか…?まぁ、何にしろ敵を倒せたし良しとするか。」
難しいことを考えるのが苦手なので特に深く考えず道を進むことにした。
「……にしても、天候戻らないな…ほんとに天気悪くなったのか。」
先程、神の怒りを撃った時天候が急変したのだがそれが未だ戻っていないのが少し引っかかる。
すると、嫌な予感は当たり、遠くから雷鳴が聞こえた。
「雷落ちたか?……でも、まさかな…」
次はかなり近くに雷が落ちたのが見えた。
「うそだろ……これまさか、まだ続くの!?」
そう思い、魔法が書いてあるページに戻り神の怒りについてちゃんと読んでみると。
「神の怒りは、ある一定の範囲内にいるモンスター相手に無差別に攻撃を行う魔法。使用者の魔力用により発動範囲及び効果持続時間が決まる。……魔力ランクSSであれば半径1kmの範囲に250発分の雷を落とす………嘘だろ…この辺のモンスター全員狩るんじゃないか…」
<経験値獲得を確認。経験値獲得を確認。経験値獲得を確認。レベルアップ成功。スキルポイント上昇。経験値獲得を確認。経験値獲得を確認。経験値獲得を確認。レベルアップ成功。ステータス、スキルポイント上昇。経験値獲得を確認。経験値獲得を………>
「やばいやばいやばい……!!早く止めないとここら辺の生態系を変えてしまう!!」
どうやら、俺の使った魔法はスライム相手に使うような魔法ではなくそれこそ奥の手で使うようなものを軽々しく撃ってしまったようだ。
次からはちゃんと説明を読むとしよう…
つづく
宮原 翔 宝具 ”聖典”