捕獲玉
魔物の卵の殻を使ったら捕獲玉を作れるらしい。
魔物の卵?
「魔物って勝手に湧いてくるよな? 卵の殻ってあるのか?」
「一応、卵の殻をドロップする魔物もいるわよ……よし、終わったわ」
姫がスマホで何かを入力して頷く。
「なにしたんだ?」
「市場に出回ってる魔物の卵の殻を全部買い占めるように明石に指示を出したわ。一応薬の素材にもなるから少しは出回ってるのよ」
「そうだな。自分で探さなくても市場に出回っているものを――ん?」
もしかして――
ミルクに電話したが、まだ授業中で家に帰っていないのか電話に出ないので、メッセージを残す。
母さんがそうめんを茹でてくれたので、軽い昼食。
クロとシロと散歩に行き、帰ってきた。
そして暫くしてミルクがやってきた。
「泰良、持ってきたよ、魔物の卵の殻」
ミルクが魔物の卵の殻をテーブルに置く。
十個くらいあるかな?
やっぱりあったか。
牛蔵さんには、聖女の霊薬を送る代わりに、家の倉庫にあるものは自由にしていいと言われている。
その牛蔵さんも、いまはニューヨークのダンジョンで仕事があるので直ぐに日本には帰れないらしいけれど。
もしかしたら、そこに魔物の卵の殻があるかもしれないとミルクに電話したのだ。
「それで、これで何を作るの?」
「捕獲玉ってアイテムを水野さんに作ってもらうんだ」
と俺は捕獲玉の説明をした。
すると、ミルクにも呆れられた。
どうやら全部俺の幸運値が悪いと思っているようだ。
「心外な――これは水野さんの手柄だぞ」
「私のせいにされたら困るかな? たぶん、全部壱野くんの仕業……御業? だと思う」
「ほら、水野さんも困ってるじゃないか」
困らせているのは俺なのだが、ここは押しきる。
「てことで、水野先生、どうぞ捕獲玉を作ってください」
俺は卵の殻を手に取る。
鑑定してみたところ、ウェアラビットの卵の殻らしい……ウサギは卵から生まれないはずだが魔物は別なのか?
「先生はやめてほしいんだけど……うん。初めてで緊張するけどやってみるよ」
水野さんはそう言って卵の殻を手に取ると、何かを念じる。
すると、卵の殻が光の膜に覆われた。
これは――
「えっと、どのくらいかかるの?」
「わからない……一時間くらい……かな?」
「そう」
一瞬でできるわけじゃないのか。
そういえば、簡易調合もそんな感じだった。
アヤメがやってきた。
何をしているのかと尋ねて、さっきと同じ説明をする。
また俺のせいにされた。
誰も俺を庇ってくれるつもりはないらしい。
幸運ってなんだっけ?
そして――
「完成したよ!」
「え? これが?」
予想していた形と全然違う。
大きさはウミガメの卵くらいの大きさで、触ってみたら少し柔らかい。
捕獲玉というから、ポ〇モンのアレみたいなものかと思ったけれどむしろ、桃太郎が持っていそうな黍団子みたいだ。
魔道具っていうよりは薬に近いのだろうか?
鑑定させてもらう。
【捕獲玉(獣):獣系の魔物に食べさせるとテイムすることができる。テイムした魔物はダンポンに預けることができる】
さらに詳細鑑定をする。
【捕獲玉(獣):魔物が弱ってるほどテイムできる確率が上がる。ダンジョンの外に連れ出すことはできない】
獣系の魔物のみか。
確実にテイムできるわけではないらしい。
まだ一個しか作っていないので確証は持てないが、卵の種類と捕獲玉の種類がリンクしているのかもしれない。
「ダンジョンの中でしか使えないのね。本当によかったわ」
「そこはクロとは違うんだな。あいつはダンジョンの外にも出ることができるし」
「押野さん、何がよかったんですか?」
アヤメが尋ねる。
「もしもダンジョンの外に魔物を出すことができるなら、軍事利用ができたでしょ? あとは黒のダンジョンで捕獲した魔物を白のダンジョンに運んで倒した場合、テイムできるかどうか実験する必要があるけれど――」
軍事利用――そういえばテイム方法を話したときも同じようなことを言っていたな。
魔物の力はそれだけ強力だ。
水野さんが作った捕獲玉が戦争に使われるのは避けられたというわけか。
「それで、姫ちゃん! これ、いくらくらいで売れそう? 10000円以上になるかな?」
それは水野さんにとって大事なことだった。
捕獲玉を作るのに1時間かかった。
時給2000円が彼女にとっての希望価格らしい。
「そうね……最初はかなりふっかけてもいくらでも買い取ってくれそうだけど……最終的には一個50万円くらいかしら? 確実にテイムできるわけじゃないから消耗品扱いになりそうだし。もちろん、種類によるし、需要が落ち着くまではもっと高値で売る予定ね。その前にダンジョン局に登録して、モニター販売する必要があるわ」
「ってことは……え? いまので10万円っ!?」
「いいえ、いまは高値だって言ってるでしょ? とりあえず初回は私たちで使ってみるけど、報酬は100万円でいいかしら?」
「ひ、姫ちゃん。100万円って」
「安いかしら?」
「高すぎるよ! 私のコンビニのアルバイトの給料のほぼ一年分だよ!」
「でも、これ以上安くできないわよ? 大丈夫、税金関係は真衣はEPO法人の会員だからかなり優遇されているから」
そっちの心配はしていないと思うぞ?
というか、俺も安いと思った。
魔道具ってとにかくバカ高い。
魔法の水筒だってそのくらいの値段だし。
「実際のところ、捕獲玉の話を聞いて1億払っても買いたいって人はいると思うぞ? 魔物のテイムなんて子どもの頃からの夢だって人もいるだろうし」
「泰良の言う通りだけど、これから真衣に捕獲玉を量産してもらうとすると、いま1億円で買ったのに半年後に500万まで値段が下がっていた! なんてなったら最初は納得して購入した金額だったとしても後から文句を言ってくる人もいるでしょ? 卵の殻は珍しいけれど、決して手に入らないってものじゃないんだから。特に――」
と姫が俺を見る。
あぁ、俺の幸運値があれば、あとは対応する魔物を倒せばドロップしまくるってわけだ。
しかも一度目的の魔物のいる階層にたどり着けば、あとはPDで楽に狩りに行ける。
「そうだな。いまのところ一個500万が妥当か」
「妥当じゃないよっ!」
水野さんが混乱している。
明石さん経由でお金はその場で振り込まれた。
そして、水野さんは俺の部屋で、ミルクが持ってきた卵の殻から捕獲玉を造り始めている。
真面目なのだ。
「ところで、泰良。お母さんから許しは貰ったの?」
「ああ、バッチリだ。ようやくPDに入れる」
俺はミルクにそう言うと四人で庭に移動してPDを設置する。
地下に続く階段を見て、ミルクたちは安堵の表情を浮かべた。
「階段が見える……ちゃんと結婚してる状態なんだ」
「本当だね、安心したよ」
「これって離婚したらやっぱり見えなくなるのかしら? 離婚したいわけじゃないわよっ!」
姫が慌てて訂正するけれど、それは言われなくてもわかっている。
彼女はそういう細かいところが結構気になる質なのだ。
実際はどうなんだろう?
それを確かめるために離婚はしたくないから確かめることはできない。
最初に姫が入っていく。
次に入っていったのはミルクやアヤメではなくクロだった。
シロもついていこうとするが中に入る事はできない。
ダークネスウルフのクロと違って、シロは普通の白い子犬だからな。
「シロは留守番よろしくな――」
「くぅん」
寂しそうにしているシロはあとで思いっきり甘やかしてやろう。