主催者
テーブルの上には様々な装備品が並んでいる。
中には身代わりの腕輪もあった。
「本来なら調整を含めてもっと早く渡したかったのだが、つい先ほど届いたばかりでな。サイズは問題ないと思う」
と上松大臣は前置きをしたうえで装備品の説明をする。
最初は個別の服と武器だ。
「押野さんの装備だ。特忍の忍装束と風魔のクナイを用意した。衣装は君のサイズに合わせて作らせた」
「僅か一日でダンジョン装備のオーダーメイドは破格ね。ありがたくいただくわ」
「壱野くんの装備だが、まず剣は布都斯魂剣のレプリカを用意した」
ん? 俺が今持っている剣と同じものか?
でも、見た目が違うが。
「泰良、布都斯魂剣と布都御魂は別物だよ。天羽々斬と言ったらわかる?」
ミルクが横でフォローを入れる。
「ん? 聞いたことがあるような……ないような?」
つまりわからない。
「スサノオが八岐大蛇を倒したときに使った神剣だよ」
「てっきり草薙の剣くらい用意してくれるかと思ったわ。日本という国が保有する最強の剣なのに」
姫が少し残念そうに言う。
「こちらも打診はしてみたのだが、たとえレプリカであっても国家が三種の神器を個人に渡すことはできないと言われてね。たとえ貸与であってもだ」
剣についてはわかった。
それより気になるのはこの服だ。
見たところ裏地が赤で少し派手な感じだが、どうも気になる。
服に外套を合わせているというより、外套に服を合わせている気がする。
服を鑑定してみても特に効果は表示されないが、外套は違った。
【闇火鼠の外套:魔界に生息する火鼠の皮を使った外套。火と闇の力を防ぐ効果を持つ】
おぉ、なんか凄いな。
凄いんだが、赤と黒の鼠って聞くと、あの世界的なネズミキャラクターのイメージが……いや、考えないでおこう。
「火属性と闇属性に耐性のある装備だ。黒のダンジョンには闇属性の魔物が多いからな。前衛で女性を守る君にはもってこいの装備だろう」
「ありがとうございます」
うん、ちょっと気に入った。
「次に東さんとミルクちゃんの――失礼。牧野さんの装備だ」
「上松のおじさま、いつも通りで構いませんよ」
「そう言ってもらえると嬉しいが、立場もあるのでね。君たちには杖と衣を用意した」
と言って杖とローブを出す。
その効果を聞くもアヤメの場合はいまの杖とローブの方が良さそうだ。
ミルクが使うにしても、基本は銃なんだよな。
とりあえず、ミルクのローブだけ使うことにした。
さらにステータスが上昇する装備品や身代わりの腕輪を受け取る。
身代わりの腕輪は在庫が三桁くらいあるんだけど、貰えるものは貰っておこう。
俺たちは更衣室で着替える。
コートってどうかなって思ったけれど、想像していたよりは動きやすい。
これなら剣を振るう時にも邪魔になることはないだろう。
布都斯魂剣を使うか布都御魂を使うか悩んだけれど、最初は布都斯魂剣を使おう。
黒のダンジョンを潜っていく中で扱いに慣れたらそのまま使って、慣れないようなら布都御魂に持ち替えることにしよう。
全員着替え終わった。
姫の忍び装束は少し肌の露出が増えているな。
これを仕立てた奴の趣味だろうか?
逆にミルクの法衣はかなり可愛らしい感じだな。
「これ、本当に動きやすいわ。俊敏値が1割上昇してるのも素敵ね」
「私はいつも通りかな? 魔法防御がものすごく増しているし、防刃機能もあるみたいだけど実感はわかないよ」
「二人ともよく似合ってるよ」
「泰良も似合ってるわ」
「うん、カッコいいよ。その外套、明治か大正の雰囲気だね」
確かに昔の衣装みたいだよな。
外に出て黒のダンジョンの前に移動。
既にアヤメは待機していた。
現在12時55分か。
不思議と緊張感はないな。
みんなと一緒だからだろうか。
「クロ、お前は外で待っていてくれ」
「わふ?」
「ついていきたいって? 言っただろ。お前はここで待っていてくれ」
もしも俺たちに何かあったら、クロに魔物を倒してもらうつもりだ。
「上松大臣。俺の犬、ダンジョンの前で待ってもらうつもりですがいいですか? 頭のいい犬なので悪さは絶対にしませんから」
「現代に蘇った忠犬ハチ公というわけだな。構わないよ。ただの犬では無さそうだしな」
上松大臣、クロが犬じゃないって気付いているのか?
それとも鎌をかけただけなのか。
俺たちは笑って誤魔化した。
「時間だ」
上松大臣が言った。
俺たちは頷き合い、地下に続く真っ黒な階段に足を踏み入れた。
結界は――一切感じない。
「君たち」
大臣が声を上げる。
俺たちは振り返った。
「危ないと思ったら戻ってきなさい。自分の命を一番に考えるのだ」
頷く。
そして再び前を向いた。
もう振り返らない。
目の前の闇に飛び込むかのように階段を降りていく。
そして――
「待っていたよ、キングの娘とその従者諸君」
階段を降りるとそいつがいた。
俺は剣を抜く。
「警戒はしなくていい。僕には戦闘力はないのだよ。ダンポンくんと一緒でね。君たちが僕を殺したいというのなら殺してくれても構わない。数ある分体のうちの一つだ」
彼の言っていることは事実だろう。
だが、そう言われて「はい、そうですか」と警戒を緩めることはできない。
目の前のそいつは、そうされるだけの理由がある。
見た目はダンポンそっくり。
だが、白ではなく黒。
巨大なチョコレートマシュマロって感じの生物。
「はじめまして。僕がダンプル――このゲームの主催者だ」
今回の事件の首謀者であるダンプルは悪びれもせずにそう名乗った。




