死地への誘い
俺たち四人は政府が用意した車にこっそりと乗車すると生駒山上遊園地に向かって移動を開始。
移動を開始して暫くすると京都府警のパトカーが集まってきて、そのパトカーによって先導される。
サイレンを鳴らしている。
赤信号の交差点も警戒しながら通過する。
高速道路にもこの状態で入った。
かなり目立っている。
緊張感と、この先に待ち受ける不安、そしてなぜ俺たち四人が呼び出されたのかという疑問が場を支配していた。
先ほど車内で四人で話し合い、やっぱり日下遊園地跡のダンジョンの件が関わっているのだろうという結論に達したのだが、実は俺は心の中でそれを否定していた。
ダンポンは政府に対してあの調査の件では迷惑を掛けないようにと念押しをしていた。政府がそのダンポンの頼みという名の圧力を簡単に無下にするとは思えないんだよな。
信貴生駒スカイラインを通って生駒山上遊園地までやってきた。
生駒山上遊園地に生駒山を歩いて登るかケーブルカーでしか来たことがないので、こうやって車で来るのは初めてだ。
だが、生駒山上遊園地は中々に物々しい雰囲気だった。
周囲を幕で覆われ、上空のヘリの移動は全面禁止状態だったが、まさかここまで中が様変わりしているとは思わなかった。
これではまるで自衛隊の駐屯地だ。
俺たちは遊園地のレストランに入った。
当然、営業はしておらず、中には様々な機材が持ち込まれている。
恐らく、ここが司令部になっているのだろう。
その奥に、彼はいた。
牛蔵さんくらいにマッチョな五十歳くらいのおっさん。
その姿に俺はどこか見覚えがある気がする。
「急に呼び出して済まない。民間人である君達の協力に深く感謝する」
彼は立ち上がると深く頭を下げる。
「久しぶりだね、押野さん。それにミルクちゃんも」
「ご無沙汰しております、大臣」
「ご無沙汰しております、上松のおじさま」
大臣? 上松?
……っ!?
思い出した! 上松防衛大臣じゃねぇかっ!
姫と防衛大臣が知り合いなのはわかる。
というのも、富士山から溢れた魔物を俺が倒す際、キングさん経由でいろいろとやりとりした後、防衛大臣とともにその後始末に当たっている。
その時に知り合っているのだろう。
だが、ミルクは何故?
「上松のおじさまはパパと同じで信玄おじさまの弟子なの」
ミルクがこっそり教えてくれた。
牛蔵さんの兄弟弟子ってことか。
上松防衛大臣は元凄腕の探索者だったらしいが、その繋がりは知らなかったな。
「早速で悪いが、この資料を見てくれるかね?」
上松防衛大臣が出した紙は文字の羅列だった。
そこには英語や中国語、韓国語、アラビア語など世界中の言葉が並んでいた。
俺たちの名前が書かれていることと、そして英語の部分をかろうじて読んでみると、おそらく人名であろうことは予想できる。
人名の横に書いているのは国の名前だな。
しかし、これが何の資料なのかは?
「これは世界中でダンプルから黒のダンジョンに潜るように指名された人の名前だ」
「――っ!?」
ダンプルから指名だってっ!?
「ダンプルから政府に対して通信が届いた。明日の十三時から二十四時間。表に記された人物たちのみ、自分たちが作ったダンジョンの入場を許可する。その間にダンジョン十階層にある核を破壊したら人類の勝ち。それができなければ人類の負けとなる」
「負けた場合はどうなるの?」
「魔物がダンジョンの外に現れる」
ミコトが言っていた例のアレか。
「ただ、失敗した場合も救済措置があるようなことを奴は仄めかしていたが」
「あの……おじさま。私たちが選ばれたのは、日下遊園地跡のダンジョンの調査をしたときにダンプルに目を付けられたのですか?」
「違うわね」
否定したのは上松防衛大臣ではなく、姫だった。
姫はさっきからずっと資料を凝視していた。
「今回の件、日下遊園地跡のダンジョンの調査とは一切関係ないわ」
「我々も押野さんの意見と概ね同じだ」
どういうことだ?
姫は何に気付いたんだ?
「この資料のメンバー。パーティメンバーは最低一人から四人。そして、その中に必ず、私の兄弟姉妹が混ざっているのよ」
兄弟姉妹――それって、キングの子どもってことか!?
あの人は世界中に愛人がいて、その愛人の間にそれ以上の子どもを作っている。
つまり、世界中にキングの子どもがいる。
もう一度リストを見る。
押野妃の名前はない。
国籍を見ると同じ国は二つとない。
一つの黒のダンジョンに対して一組って感じか。
「それで、ダディ――キング・キャンベルはなんて? もちろん、連絡は取ってるんでしょう?」
「ああ。このリストはダンプルから通信が来たと同時に国連加盟国全てで共有するものとなった。そして、君の言う通りキング・キャンベルの子が関わっていることに気付き、アメリカ政府は真っ先に彼に連絡を取ろうとした。だが、連絡がつかなかった」
「つかなかった?」
「マンハッタンのダンジョンに潜っている記録は残っている。だが、配信クリスタルを通じて連絡を取ろうとしたが、失敗した。通信妨害をされている様子はない。彼が配信クリスタルを起動していないのだろう」
配信クリスタルを持っていても起動しなければ、送られてくる文字を見ることはできない。
スマホを持ち歩いているのにバイブも着信音もならない状態で鞄の中に入れっぱなしにしているようなものだ。
それでは連絡がつかない。
「日本には徴兵制度は存在しない。民間人である君達に対して、死地に挑めと強制することはできない。だが、それでも私は君たちに願いたい。どうかダンジョンに潜って欲しい。我々にできることならば何でもしよう。君達の安全を考慮し、身代わりの腕輪や政府が保有する最高峰の装備を用意する。他にも可能なことならなんでもしよう。どうか――」
上松防衛大臣はそう言って俺たちに深く頭を下げた。




