大量のD缶と万博公園ダンジョン
五月になったその日の放課後、青木が段ボールを持って家にやってきた。
その中にはD缶が大量に入っていた。
これでまだ半分らしい。
「D缶は軽いけど嵩張るからな。明日また持ってくるよ」
「ありがとうな。D缶が開く動画。もう30万再生行ってるんだな」
「凄いだろ? D缶が開く瞬間の動画って本当に珍しいんだよ。響さんからもお礼を言っておいてくれって頼まれた」
「俺のことは――」
「わかってる。言ってねぇよ。それより取り分だけど――」
「そっちは本当にいいって。お前の資格祝いと就職祝いだ」
それよりD缶だよ。
個人でも結構買ってるけど、だいたいばら売りがほとんど。
まとめ売りしてくれないと買うのが面倒なんだよ。
響さんの事務所、よく100個も集められたなって感心する。
てことで、青木が帰ったあと、D缶を詳細鑑定。
直ぐに開けられそうなものが5つ、時間をかければ開けられそうなものが20あった。
直ぐ開けられるものをいろんな手段で開封することに。
一個目。
開け方は直火で10分焙る。
ガスコンロでやると怖いので、火を付けた蝋燭の上で紐で縛って吊るす。
蝋燭の火でも直火は直火だ。
そして他のD缶を開ける準備をしている間に開いた。
缶から中身を取り出す。
……お、これって宝石か?
赤いルビーみたいだ。
貴重な気もするが、ダンジョン産の宝石は物によっては安く買いたたかれる。
何故なら、人工宝石と同じだと言われるからだ。
改めて詳細鑑定。
【炎の石:武器や防具に付けることで属性を変化させることができる石】
ただの宝石じゃない?
さらにインターネットで検索。
販売所買い取り価格……320万っ!?
うわ、激レアきた。
次だ。
二個目の缶を開ける。
これは砂糖をまぶして10分放置だった。まるで料理をしているみたいだ。
入っていたのは――これは大量の飴玉だった。
もしかして、スキル覚え放題?
【ダンジョンドロップ:美味しい飴。色によって味が異なる】
さらに詳細鑑定をすると、それぞれのカロリーや栄養素が表示された。
マジもんのドロップだった。
気を取り直して三個目。
これは一番簡単だった。
同じ部屋でD缶を二個開封したら開くからだ。
つまり、二個目が開いた直後に開いた。
中身は飴玉。
今度はスキルを覚える飴だまだろうか?
と思って鑑定してみる。
【ダンジョンドロップ:美味しい飴。色によって味が異なる】
ハズレだった。
飴玉ばかり増えていくな。
一応、さらに詳細に見る。
【スキル玉:舐めるとスキルを覚える。決して噛んではいけない。偽装されていて、鑑定してもダンジョンドロップとしか表示されない】
――っ!?
偽装されているのか。
これは驚いた。
これまでも鑑定所に持ち込まれて、ダンジョンドロップだと鑑定されたことがあるのかもしれない。そして、ただの飴だったと思ってがりがり噛む人は覚えられない。ちゃんと舐めることが重要なのか。
もしかしてっ!?
と俺は二個目の缶をひっくり返し、一個一個詳細鑑定していく。
全部ただの飴玉だった……。
スキル玉を舐めながら、四つ目の缶を開ける。
開け方はこれまでで一番複雑。
呪文を唱えるのだ。
「聖地」とか「出雲」とか「お願い」とか意味のありそうな言葉もあれば、用地とか参加とか意味はわかっても繋がりの無さそうな言葉も。
さらには、「いちゆ」とか「うです」とか言葉になっていない言葉もあった。
わからないけれど、スキル玉を噛まないようにメモを取った言葉を告げる。
「せいち ようち いとぜん
じゆう さんか んはつば
いちゆ うです こみから
いずも よろし おねがい しま」
正直、何がなんだかわからない。
詳細鑑定ではこれを唱えれば開くって書いてあった。
そして本当に開いた。
これ、俺からしたら開けやすくても、詳細鑑定がないと絶対に開けられないやつだ。
中身は、指輪?
二個ある。
シンプルな感じの指輪だ。
【成長の指輪:取得経験値が1.2倍になる。フリーサイズ。成長シリーズの一種】
これまた凄い物が来た。
しかも同じのが二個もあるなんて。
そうだ! これを鑑定してもらって、鑑定書付きでミルクへの誕生日プレゼントにすればいいな。
そして最後の一個を開けるためにホームセンターに。
買ってきたものを開封し、設置。
それは神棚(2417円)だった。
そこにD缶を供えると光り輝きだした。
神棚に供えれば開くって、なんか神秘的だよな。
中身はなんだろうな。
「これはっ!?」
ってやば。
またスキル玉を噛むところだった。
※ ※ ※
五月二日。
俺は青木と一緒にある動画を見ていた。
アメリカのマンハッタンに現れた謎のダンジョンの動画だ。
ライブ配信ではなく、録画配信だ。
金色の鎧と剣を持った男を先頭に七人のパーティがダンジョンに潜っていく。
先頭を歩くのは有名なダンジョン探索家のジャック。換金額、世界ランキング5位という有名なダンジョン配信者だ。
そして彼は驚いた。
英語はわからないので字幕を読む。
【なんてこった。一階層からブラックトードが出やがった。こいつはレベル50相当の敵だぞ】
【こいつが一階層から出るって、どんな凶悪ダンジョンだよ】
ブラックトードは猛毒を持つカエルで、とても素早く、しかもその舌で探索家の武器をからめとり、それを奪って攻撃してくる厄介な敵らしい。
しかし、ジャックは一人で突撃。
迫って来る舌を軽く斬り落とし、次の瞬間にはブラックトードを一刀両断していた。
強い。
これが世界トップクラスの動きか。
戦ってるところはリプレイのスロー再生でようやく詳細がわかったくらいだ。
ライブ配信されていたら何があったかわからないところだ。
ブラックトードが倒れると、赤い石だけが残った。
【Dコインじゃないな。魔石を落としたぞ】
【ブラックトードは魔石落としたっけ?】
【落とさないはずだ。もしかして、このダンジョンの魔物はDコインの代わりに魔石を落とすのかもな】
といった具合に、魔物が強い、Dコインを落とさないほかは普通のダンジョンのようだ。
魔物は強いって言ってもジャックさんなら余裕のようだ。
そして一階層の探索を終えて一度帰ることにした。
【おい、デスラットの群れがこっちに来てるぞ】
【戦うのは面倒だ。一度脱出しよう】
デスラットは戦闘中に仲間を呼んで次々に増殖する厄介な敵だ。
上級探索家の経験値稼ぎに使われることもあるが、ジャックレベルならその経験値も大したことはないと思ったのだろう。
戦わずに地上に出るようだ。
それで終わり――のはずだった。
【ああ、みんな。新しく現れたダンジョンは非常に危険だ。レベルの低い探索家が入ったら死ぬのは間違いない】
【おい、あれ見ろよ! デスラットがダンジョンから出て来たぞ】
【嘘だろっ!?】
そこからジャックたちとデスラットの地上での戦いが始まる。
さらに妙なことが起こった。
普通、レベルアップにより上がったステータスはダンジョンの外ではほぼ効果が出ない。
しかし、ジャックたちはまるでダンジョンの中にいるように戦うことができた。
まるで、ダンジョンの領域が地上にまで拡張されたかのような現象に、動画サイトのコメントは荒れに荒れた。
戦いはジャックたちの勝利で終わったが、入り口近くにいた警備員の一人が大怪我を負って病院に搬送されたらしい。
魔物がダンジョンの外に出る。ステータスがダンジョンの外でも発揮される。
それはどちらも想定外の事態だった。
今回はジャックが近くにいたから対処できたが、もしも高レベルの探索者がいない状態で魔物が外に出てきたら?
警察の持っている拳銃で対処できるだろうか?
「ヤバイな」
青木が呟く。
魔物が地上に出るのか。
その日を境に富士山の山頂付近が立ち入り禁止になった。
※ ※ ※
五月三日、憲法記念日。
GW初日の今夜、政府が富士山に出てきたダンジョンについて記者会見を行うと発表があった。
日本の政府だけでなく、国連加盟国の全ての国が同時に記者会見を行うというのだから、タダ事ではないのは確かだ。
そんな日の朝、俺がやってきたのは万博公園ダンジョンだ。
万博記念公園の隣が大型ショッピングモールで水族館やアミューズメント施設もあるため、連休のこの日は非常に人が多い。
万博公園ダンジョンは太陽の塔の裏にある。そのため、太陽のダンジョンとも言われている。
当然、そのダンジョンも凄い行列だ。
だが、俺はレベル20。
レベル20になると、3階層から一気に5階層まで探索が可能。
そして、人も少ない。
ここまで来ると、制限時間などもない。
ただし、入場料が結構高い。
なんと10,000円も取られるうえ、5時間以上入っていたら一時間につき2,000円の延滞料が取られる。
とりあえず、いつも通り、近くにPDを出しておく。
ダンポンはいま富士山に現れた事件のせいでゲームどころではないようだが、直接仲間に会って話をしたいそうだ。
「お客様。こちらはレベル20以上の方が並ぶ列となっております」
「俺レベル20超えてるんで」
「失礼しました。少々お待ちください」
証明書を提出したら少し係の人が驚いていた。
やっぱり年相応に見られるからそうなるよな。
18歳でレベル20はあまりいないはずだ。
「お待たせしました。ここが三階層になります。現在の入場者は31人。レベル20では五階層まで探索が可能となり、レベル5上がるごとに一つ下の階層に行くことが可能です。尚、五時間以上潜った場合は一時間につき2000円の延滞料が必要となります。また、事前の申請なく二十四時間以上ダンジョンに潜ることは禁止されています。二十四時間以上潜っていた場合、捜索隊を編成し派遣。その分の費用は別途請求させていただいた上、ダンジョン入場禁止等の法的措置を講じさせていただきますのでご了承ください。問題なければこちらにサインをお願いします」
「はい」
俺はその誓約書にサイン。
一階層は相変わらずみんな座って出待ち。
現れる魔物はスライムなのは同じだ。
二階層は緑スライムと緑ワーム(大きな芋虫みたいな魔物)、コボルト。
ここも係の人の誘導に従って到着。
「時間はダンジョン内で流れる鐘の音で確認できますが、十階層より下では鐘の音が聞こえませんのでご注意ください」
そう言って係員は帰っていく。
そして、俺の初めてのダンジョン探索らしいダンジョン探索が始まった。
さて、スキル玉で覚えたあのスキル。
ゴブリン相手だとオーバーキルだったが、こっちではどうか?
実戦で試すとするか。
日間ローファンタジーランキング9位まで上がってきました。
これも皆様の応援と、お気に入り登録と☆評価のお陰です。
~大阪の紹介①~
万博記念公園は昭和にあった大阪万博の跡地にあるとても大きな公園です。
もちろんダンジョンはありません。
自然文化園や日本庭園などは有料になっていますが、公園そのものは無料で入れます。
太陽の塔も間近で見ることができますが、中に入るためには前日までの予約必須なので注意してください。
(毎週水曜日休園で、休園日だと無料のところも入れないので注意してください)
公園の隣には日本最大級の大型複合施設EXPOCITY-エキスポシティがあります。
買い物だけでなく、体感型の水族館、動物観、美術館が融合したニフレルや日本一高い観覧車、まるでバラエティ番組のような体験型スポーツ施設のVS PARKなどもあります。
もし大阪を訪れたときは、是非足を運んでみてください。
(この情報は全て2024年5月6日時点の情報です。詳しくはホームページで直接ご覧になってください)