分身の検証
姫は実験としていろいろとやっている。
俺からも提案で「ふたりでジャンケンしたらどうなるんだ?」と言ってみた。
延々とあいこが続くだろうと思って見ていたが、一発で決着がついた。
逆に勝負がつかなかったのはクイズだ。
試しに問題を出したところ、二人揃えて同じ解答を口にした。
「分身のステータスってのはどうなってるんだ?」
全部本体と同じなのか、本体より弱いのか。
本体のステータスが下がってる可能性もある。
悟〇が天〇飯に、「四人に分身したのは失敗だったな!」と言ったみたいに使い勝手の悪いスキルになってしまう。
「分身の体力は本体の1/5で他のステータスは本体と一緒ね。デメリットとしては、分身を使用したら私の最大体力も1/5減るみたい。体力が減るときの痛みとかはないわ」
と二人の姫がそれぞれ持っていたクナイで素振りをして言う。
お前、プライベートでもクナイを持ち歩いてるのか――護身用?
ん?
そういや分身の服とか装備品とかも一緒にコピーされているわけだから――
「これって悪用しようと思えばかなり酷いことできるんじゃないか? 分身の持っているお金で買い物をしても、本体の財布の中身は一切傷まないだろ?」
自動販売機も騙される偽札を作り放題じゃないか。
銀行ATMにだって預けることができるぞ。
「「そんな悪いことしないわよ」」
二人の姫がジト目で言う。
まぁ、姫はそんなことする必要ないよな。
お金で買えるものは何でも手に入るお嬢様だし。
じゃあお金で買えないものは?
「姫がスキル玉を持ってる状態で分身して、その分身が持っているスキル玉を俺が舐めた場合、スキル玉を消費せずにスキルを覚えられるのか?」
だったら、英雄の霊薬みたいな貴重な薬も分身スキルを使って使い放題じゃないか。
うわ、最強の使い道を思いついてしまった。
だが、姫の顔色は優れない。
「うーん、ちょっと待ってて」
と姫が分身を解除し、奥の部屋に入った。
そして、戻ってきたときにはいつものツインテール姿だった。
姫はもう一度分身し、分身の姫が俺に何かを差し出す。
「泰良、これ装備してみて」
「あぁ、真っ赤な珊瑚の髪飾りか……」
確か守備値が一パーセント増えるんだよな。
髪につけてステータスを確認してみる。
「ってあれ? 守備値が増えてないぞ?」
「やっぱりそうよね。他にも身代わりの腕輪も効果が発揮されないの」
「さっき叩かれたら普通に痛かったわ。あ、クナイは普通に使えるみたい。たぶん、魔道具とか魔法薬みたいなものの効果はコピーできないみたい」
と分身の姫が身代わりの腕輪を俺に見せる。
鑑定してみても、その効果を見ることができない。
ただの腕輪になってしまったということか。
この様子だとスキル玉を持って分身しても、その効果をコピーすることはできなさそうだな。
「ボウガンの矢くらいならコピーできそうだが」
「その程度ね。魔法の効果がコピーできるのなら、経験値薬を大量にコピーして、楽にレベルをあげられるんだけどね」
「そうだな」
経験値薬は作ろうと思ったらいくらでも作れるんだけど、でも今の俺たちのレベルだと、1つレベルを上げるのに何百本も飲む必要があるからな。
最近だとPDでミミック狩りをして、大量にトレジャーボックスTを手に入れてるから、そっちの経験値薬もあるけれど、それも飲まずにおいている。
「D缶って凄いわね……泰良、市場に出回ってるD缶、全部買い占めるから、詳細鑑定してくれる?」
「正直勘弁してほしいんだが。家に大量に未開封のD缶があるんだよ。むしろそっちを開けるの手伝ってほしい。俺一人だと面倒な物も多いし」
ダンポンにいい加減に片付けて欲しいって言われている。
自力で開けられるものもいっぱいあるけれど、面倒な物も多いんだよな。
「例えば何をしたらいいの?」
「姫がD缶を腰にぶら下げてフルマラソン完走するとか」
「そのくらい喜んでするわよ! フルマラソンとか私に関係のあるスキルが手に入りそうじゃない!」
いや、D缶からスキル玉が出る確率はそこまで高くないからな。
フルマラソンっていうから、オリンピックの金メダルとか給水ボトルとか出て来るかもしれないぞ?
まぁ、姫がやる気になってるから、別にいいか。
明日持ってくるとしよう。
「おじゃましまーす! 姫が二人いるっ!?」
ミルクがやってきて、当然のように驚いてくれた。
この後、アヤメの同じリアクションに期待することにしよう。
ドッキリ大成功のプラカードを掲げたくなるほど二人いる姫にアヤメが驚いた。
その後、アヤメだけ仲間外れってのも申し訳ないので、スキル玉について説明した。
「黙っててごめんな。アヤメだけ仲間外れにしたいってわけじゃなくて成り行きでな。今度、アヤメ用のスキル玉も用意するから」
「いえ、私は壱野さんからいただいた大魔術師の装備だけでもスキル玉以上に力を貰ってますから」
アヤメ、マジいい子だ。
早めに彼女のスキル玉も用意しよう。
その後は、四人でてんしばDに。
周囲に誰もいないことを確認して、さっそく分身スキルを使ってみる。
ツボタコの群れに姫が単身で突撃。
ツボタコは墨を吐いてきたが、姫はそれを難なく避けると分身スキルを使用。
一人で群れの殲滅に成功した。
「押野さん凄いです!」
「「ありがとう、アヤメ」」
二人の姫がクナイをしまいながら口を揃えて言う。
さて、この後はキューブ狩りだな。
「そういや、ミルクのレベルも20になったから五階層まで行けるようになったんだな」
「五階層に行くだけならパパのEPO法人に入ったときから行けてたよ。いまなら八階層までは潜れるね」
日下遊園地跡Dにて、ミルクは一気にレベルが16から20まで上がった。
成長の腕輪と成長のリボンのコンボ効果もあるが、安全マージンを無視した戦いはかなりの経験値になる。
石巨兵とか後半はミルクがほとんど一人で倒してたもんな。
姫は28、アヤメは27とレベルが上がっている。
ちなみに俺はレベル35になった。
日下遊園地跡Dでは34までしか上がっていないが、あの後PDにも潜ってたからな。
えっと、ミルクが8階層まで行けて、レベル20以降はレベル5増えるごとに一階深く潜れるから、俺は11階層までは行けるのか。
「姫、俺ちょっと11階層まで行ってみたいんだけどいいか?」
「泰良、もうレベル35になったの? だったら11階層にいる鉄人形の鉄を集めてきてよ。ダンジョン産の鉄は今後必要になってくるから」
「鉄人形の鉄だな。わかった」
俺は姫から地図を借りて、単身地下11階層を目指した。