ダンポンの願い事
第三章開始です。
ニュースの中の出来事は、ほとんど自分に関係の無いもんばかりだと思っていた。
凶悪犯罪、政治家の汚職、大災害、そして戦争。
現実に存在するということは理性ではわかっていても、本能ではまるで御伽の国の出来事であるかのように思っていた。
だが、それが実際に存在する以上、無関係でいられない日が来てもおかしくなかったのだ。
そう痛感する数日間であった。
この数日間で、俺はテレビの向こう側に足を踏み入れてしまった。
生駒山の山頂に黒のダンジョンが現れた。
それはもう騒ぎになったらしい。
俺が通っている月新高校も決して遠い場所ではないことから、臨時休校になった。
もっとも、学校の授業が通常通り行われていたところで、俺は出席できなかっただろう。
その日一日、俺と姫の二人は政府からの要請により、臨時休業となっている生駒山上遊園地の飛行塔近くにあるレストランの中で待機させられていたのだから。
もちろん、俺は変身ヒーローマスクを装着しての待機だ。
富士山から溢れた魔物から人々を救った米国の軍事兵器として。
そして翌日。
「昨日は大変だったな。まさか、例の黒いダンジョンがすぐそこにできるなんて」
「でも、政府は現時点で問題ないって言ってるんだよね?」
「甘いよ、水野さん。国が全ての情報を開示するはずないじゃん。きっと、俺たちの知らないところで調査が進んでるんだって。生駒山上遊園地もいまだに休園で、生駒山の入山規制も行われてるってSNSに書いてあったぞ」
青木と水野さんが俺の机の周りでそんな話をする。
本当は情報を開示したくても開示できないんだよな。
生駒山に生まれた黒のダンジョンには誰も入れなかったのだから。
しかも、同様のダンジョンが生駒山だけでなく、世界中のあちこちに生まれていた。
しかもテーマパークだったり野球場だったり映画館のあるショッピングモールだったり、娯楽に関係のある場所ばかりに現れていた。
そして、同時にダンプルから世界各国にメッセージがあった。
今回生み出したダンジョンはゲームに使用するためのダンジョンだから、いまは特に警戒しなくてもいい。
ダンジョンから魔物が溢れることもない。
そういう感じの話だったのか。
ダンポンに確認を取ったところ、ダンプルは騙すために嘘をつくような生物ではない。
彼らがいまは警戒しなくてもいいと言ったのなら、それは本当だ。
そういう理由で、俺たちへの待機要請は解除された。
しかし、警戒の必要性が出てきたら、間違いなく俺たちは再登板させられることだろう。
それまでに少しでも強くなっておかないとな。
俺は水野さんを見る。
正確には彼女の頭を。
黒い。
白髪染めを使ったのだろう。
彼女は鍛冶師の覚醒者だ。
俺たちのパーティにとって一番必要な人材。
しかし、彼女は鍛冶師になることを拒んでいる。
命を危険に晒したくないという当然の理由で。
俺はテレビの向こう側に足を踏み入れてしまったが、彼女はそうではない。
当たり前の日常を享受する権利がある。
誘ってみるだけでも、声を掛けてみるだけでも、そう思ったがあの時、水野さんは俺に話してくれた。
期待をさせて、それを裏切るのが怖いと。
だから、彼女は覚醒者であることを隠している。
そんな彼女を誘えるわけがない。
「おーい、壱野。大丈夫か? 人間百面相やってるぞ」
「悪い。ちょっと疲れてるみたいだ」
青木にそう言って、俺は机に伏せた。
まぁ、ゆっくり考えよう。
そう思って。
気分転換に、PDでレベル上げを頑張ろう。
そう思っていたら――
「泰良! お願いがあるのです!」
家に帰ってPDに行くなりダンポンが俺にそう言ってきた。
だが、俺もぬかりはない。
「ちゃんと買ってきたぞ。今日はシャ〇レーゼのバターどら焼きだ」
「そうじゃないのです」
「なんだ、おやつじゃなかったのか。じゃあ、これは俺が食べる――」
「それはそれ、これはこれなのです!」
とダンポンが念動力を使ってバターどら焼きを奪い取る。
まぁ、元々ダンポンのために買ってきたものだから別にいいんだけど。
「で、なんだよ、願いって? 神龍じゃないんだから、死人を生き返らせることもできないし、ギャルのパンティもやれないぞ」
「何を言ってるのかわからないのです。僕はただ、新しいダンジョンを生み出すから、その候補地を一緒に考えて欲しいだけなのです」
……それって、普通の高校生が考えていいことなのか?




