秘密の開示
日曜日の朝。
一週間ぶりの四人集合。
ホテル内はペットの持ち込み不可のため、クロは家でお留守番だ。
「昨日はごめんね、急にキャンセルして。マムがアメリカから急に帰って来ることになってね。おかげでこっちは上から下までてんやわんやの大騒ぎよ」
「もう大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫よ。さっそく今日のダンジョン探索について説明するけれど、」
と言ったところで、その前に成長のリボンについて話をしようとしたのだが――
「あ、あの……その前に私から一つよろしいでしょうか?」
と先にアヤメが手を上げた。
彼女がこうして話を切り出すのは珍しい。
「アヤメ、どうしたの?」
ミルクが尋ねる。
「見てもらった方がはやいんですけど――えいっ」
彼女がそう言うと、突然彼女の服が変わった。
変身ヒロインみたいに一度裸になったりはせず、瞬きする間もない出来事だ。
なんとなく魔法使いの服っぽい。
結構可愛らしいデザインだ。
「アヤメ、その服どうしたの?」
「壱野さんから貰ったD缶の中から出てきました。その……壱野さん、鑑定してもらえませんか?」
「みんなの前で鑑定していいのか?」
「はい」
そうか。
アヤメは覚悟を決めたのか。
【大魔術師のローブ:魔力を大幅に上昇させ、さらに魔法を覚醒へと導く伝説のローブ(※東アヤメ専用)】
俺は鑑定結果を読み上げる。
それを聞いて、姫とミルクは当然驚いた。
「専用装備……パパから聞いたことがある。とっても珍しい装備だって」
「伝説級の装備の可能性が高いわね」
さらに、俺はその効果を説明する。
魔法防御:魔力のダメージを五割軽減する。
絶対魔法主義:魔法封印の効果を無効化する。
偽装:鑑定結果を偽装することができる。
帰属:持ち主以外の人間が着ることはできない。魔力を20消費することでローブを瞬時に纏うことができる。
不壊:このローブは持ち主が生きている限り決して壊れない。持ち主が死ぬと自壊する。
超節約主義:魔力の消費量が半分に減少する。
大魔術師:持ち主の魔力が五割上昇する。
今度こそみんな言葉が出なかった。
アヤメを除いて。
「このローブを着たときに、ステータスの魔力値がものすごく上がっていて、もしかしたらって思ったんです。私、壱野さん以外にはまだ言っていなかったんですけど、実は杖も似たような効果がありまして――」
とアヤメは自分が持っている杖の効果について説明をした。
とても辛そうな顔をしている。
「私、押野さんに認められてパーティに入って、でも本当は私の実力じゃなくて装備の実力なんです。ミルクちゃんがいろいろと頑張っているのを知っていて、白浜でも辛そうにしていて、私だけこんな風に楽して強くなって――ごめんなさい」
良かれと思ってプレゼントしたD缶だったが、アヤメを苦しめていたようだ。
悪いことをした。
「ううん、アヤメちゃんは悪くないよ。楽して強くなるって言うのなら、私なんて成長の指輪で経験値二割増しだし、一昨日泰良に貰った成長のリボンでさらに経験値二割増しで、みんなより四割も楽してるんだよ?」
「そうね。それにアヤメしか装備できないのなら、もうそれはアヤメの実力よ。胸を張りなさい」
と姫はそう言い切り、俺の方を見る。
「ところで、泰良。鑑定って、そこまで詳しくわかるものだったかしら?」
「……あぁ」
うん、こうなることはわかっていた。
アヤメとミルクは気付いていなかったようだが、姫は絶対に気付くだろうと思っていた。
アヤメが覚悟を決めたように、俺も鑑定結果を伝えるときに覚悟を決めていた。
このメンバーなら話しても情報を漏らすことはないだろうと信じて。
「俺のスキルは鑑定じゃなくて、詳細鑑定っていうんだ」
「詳細鑑定?」
「文字通り、より詳細に物事を知ることができるスキルだ。たとえばこのD缶」
と俺はインベントリからD缶を取り出して、
「鑑定結果は【中身がわからない缶。開け方は千差万別。滅多に開くことがない。最高の強度を誇るが、開封後はその強度を失う】って書いてあるが、詳細鑑定をすると、その開封条件がわかる。たとえばこれは――1カラット以上のダイヤモンドで叩くと開くらしい」
「ちょっと待って――」
姫が部屋に戻ると、時計を持って帰ってきた。
高そうな女性ものの腕時計だ。
「普段使いの安物だけど、デザインが気に入ってるの。でも、このダイヤなら1カラット以上あるわ。ダンジョン内に持ち込めないのが欠点ね」
絶対安物じゃないだろ。
姫がその時計でトントンとD缶を叩くと、D缶が光って開いた。
中に入っていたのはダイヤモンドの原石だ。
結構大きいと思う。
「凄いわね」
「そうだよな。ダンジョン産の宝石は安いっていっても、この大きさだとかなりの値段になるよな」
「そうじゃなくて、泰良の詳細鑑定よ。って、もしかして私に渡したD缶も――」
「ああ。姫に渡せば開くって思ってた。開く条件は所有者の俊敏値。あと、アヤメに渡したD缶も半日後に開くって知ってたし、なんなら大魔術師関係の装備が出る可能性が高いって思ってた。開封条件が、大魔術師の杖の所有者が半日所有することだったから。黙っててごめんな」
「そんな、壱野さんが謝る事じゃありません」
「うん、私もそんなスキル持ってたら簡単に話せないよ」
「黙っていて当然ね。そんなスキル前代未聞過ぎるもの。というか、私たちのこと信用し過ぎじゃない? 泰良、この詳細鑑定は公表するつもりはないのよね?」
「ああ、さすがに話したら詳細鑑定の仕事だけで手いっぱいになりそうで、ダンジョン探索ができないだろ? 鑑定士になるつもりはないからな。あ、明石さんにはまだ黙っておいてくれよ? 信用できるとは思うけれど、それでも会ったばかりだし」
「それを言ったら私も会ってまだ一ヶ月なんだけどね。一応秘密保持契約は結ばせてもらうわよ。こういうの、きっちりしておかないと気が済まない質なの。アヤメの分もね」
と言って、姫はパソコンを持ってきて、契約書を作り始めた。
その中で、ぶつぶつとD缶を買い占めないと――って口走っている。
牛蔵さん個人が一日であの量を集めたんだ。
姫が企業の力を使ってD缶を集めたらいったいどれだけの量が集まるんだ?
「あ、あの。契約書を作るのなら、私も新しく覚えた魔法について話がしたいんだけど。これもユニーク魔法で」
「ユニーク魔法?」
「うん。薬魔法って言って、薬を作り出して操る魔法。いまのところ、ポーション、聖水、火薬の三種類を生み出せるようになった」
「待って待って、そんな魔法聞いたことないわよ!? いくらユニーク魔法っていっても……薬を生み出す魔法っ!? ポーションに聖水? 火薬?」
と姫は俺の方を見る。
俺は――
「あぁ、俺が関わってるな。こっちは……また今度話すよ」
「まだいろいろと秘密があるのね」
「ああ、いろいろ秘密がある。ぶっちゃけ、詳細鑑定は俺にとって序の口」
「ははっ、私は天才のつもりでいたけれど、このままだとパーティで一番の凡人になりそうね」
姫が渇いた笑みを浮かべた。
「ミルク、どうするの? 私たちのEPO法人に移籍する? あなたのユニーク魔法があれば、ここに入らなくても好きな所に移籍し放題よ?」
「もちろん天下無双の正会員になるよ。うちのパパのEPO法人はもう看板だけで稼働できてないしね。これからよろしく、姫!」
「ええ、副理事のポストをあけて待っていた甲斐があったわ。よろしく、ミルク」
姫とミルクが握手で彼女を出迎える。
これで本格的にEPO法人天下無双結成だな。
「ああ、それとミルクに渡した成長のリボン、二個入りだったから、もう一個は姫とアヤメが交代で使うってのはどうだ?」
「それはありがたいけど、泰良はいいの?」
「男の俺がリボンってのは――」
「そういう問題?」
「大事な問題だ」
「わかったわ。他に、何か今話しておきたい秘密はある? この際なんでも引き受けるわよ」
そう言われ、水野さんのことが頭に過ぎったが、ここで話したら後戻りができなくなる。
鍛冶師については、もう一度彼女の意見を聞くべきだと思って黙っておくことにした。
代わりに――
「経験値薬追加で50本持ってきたから売却よろしくな」
「泰良、話すつもりがない秘密は秘めておきなさいよ。どうやってこの短時間に50本も経験値薬を調合できるのよ。さすがに一度には売れないわよ? 値崩れを起こすし、そうなったら調合士たちが仕事を失うわ」
「そうか? じゃあ自分たちで使うってのも考えないとな」
と思ったとき、姫のスマホが鳴った。
「翔上からだわ。どうしたの?」
明石さんからの電話に出て話をする。
途端に姫の顔色が悪くなった。
良くない電話のようだ。
「…………え? 待って、スピーカーにする」
と言って姫はスマホをスピーカーにしてテーブルに置く。
「もう一度言って」
『はい。先ほど、政府から連絡がありました。日本に新しい黒のダンジョンが生まれたそうです。マスコミ発表はまだですが、緊急時には例の魔導兵器の派遣を必要とする可能性があるため、二十四時間の待機要請が下りました』
例の魔導兵器。
富士山で戦った俺のことなのは間違いないな。
明日、学校行けそうにないな。
待機命令ではなく要請なのは魔導兵器の所有者が姫ではなく、GDCグループと米軍ということになっているからだろう。
「……それで、そのダンジョンの場所はどこ?」
『大阪と奈良の県境――生駒山の山頂。』
え? 山頂。
いやいや、生駒山の山頂っていえば――
『生駒山上遊園地です』
いよいよパーティが仮結成から正式結成に。
と、ここで第二部完結です。
え? こんなところで?
生駒山上遊園地は? 水野さんは?
と気になる点もあるでしょうが、完結です。
そして、明日からは第三部!
いよいよダンジョン配信スタート?
第二部終了時点で、
☆評価などまだの方は是非お願いいたします
このあとがきの下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう」
の☆を押して、
★☆☆☆☆(つまらない)~★★★★★(面白い)
まで五段階で評価していただけると助かります。