表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/409

秘密の開示

 日曜日の朝。

 一週間ぶりの四人集合。

 ホテル内はペットの持ち込み不可のため、クロは家でお留守番だ。


「昨日はごめんね、急にキャンセルして。マムがアメリカから急に帰って来ることになってね。おかげでこっちは上から下までてんやわんやの大騒ぎよ」

「もう大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫よ。さっそく今日のダンジョン探索について説明するけれど、」


 と言ったところで、その前に成長のリボンについて話をしようとしたのだが――


「あ、あの……その前に私から一つよろしいでしょうか?」


 と先にアヤメが手を上げた。

 彼女がこうして話を切り出すのは珍しい。


「アヤメ、どうしたの?」


 ミルクが尋ねる。


「見てもらった方がはやいんですけど――えいっ」


 彼女がそう言うと、突然彼女の服が変わった。

 変身ヒロインみたいに一度裸になったりはせず、瞬きする間もない出来事だ。

 なんとなく魔法使いの服っぽい。

 結構可愛らしいデザインだ。


「アヤメ、その服どうしたの?」

「壱野さんから貰ったD缶の中から出てきました。その……壱野さん、鑑定してもらえませんか?」

「みんなの前で鑑定していいのか?」

「はい」


 そうか。

 アヤメは覚悟を決めたのか。


【大魔術師のローブ:魔力を大幅に上昇させ、さらに魔法を覚醒へと導く伝説のローブ(※東アヤメ専用)】


 俺は鑑定結果を読み上げる。

 それを聞いて、姫とミルクは当然驚いた。


「専用装備……パパから聞いたことがある。とっても珍しい装備だって」

伝説(レジェンド)級の装備の可能性が高いわね」


 さらに、俺はその効果を説明する。


 魔法防御:魔力のダメージを五割軽減する。

 絶対魔法主義:魔法封印の効果を無効化する。

 偽装:鑑定結果を偽装することができる。

 帰属:持ち主以外の人間が着ることはできない。魔力を20消費することでローブを瞬時に纏うことができる。

 不壊:このローブは持ち主が生きている限り決して壊れない。持ち主が死ぬと自壊する。

 超節約主義:魔力の消費量が半分に減少する。

 大魔術師:持ち主の魔力が五割上昇する。


 今度こそみんな言葉が出なかった。

 アヤメを除いて。


「このローブを着たときに、ステータスの魔力値がものすごく上がっていて、もしかしたらって思ったんです。私、壱野さん以外にはまだ言っていなかったんですけど、実は杖も似たような効果がありまして――」


 とアヤメは自分が持っている杖の効果について説明をした。

 とても辛そうな顔をしている。


「私、押野さんに認められてパーティに入って、でも本当は私の実力じゃなくて装備の実力なんです。ミルクちゃんがいろいろと頑張っているのを知っていて、白浜でも辛そうにしていて、私だけこんな風に楽して強くなって――ごめんなさい」


 良かれと思ってプレゼントしたD缶だったが、アヤメを苦しめていたようだ。

 悪いことをした。


「ううん、アヤメちゃんは悪くないよ。楽して強くなるって言うのなら、私なんて成長の指輪で経験値二割増しだし、一昨日泰良に貰った成長のリボンでさらに経験値二割増しで、みんなより四割も楽してるんだよ?」

「そうね。それにアヤメしか装備できないのなら、もうそれはアヤメの実力よ。胸を張りなさい」


 と姫はそう言い切り、俺の方を見る。


「ところで、泰良。鑑定って、そこまで詳しくわかるものだったかしら?」

「……あぁ」


 うん、こうなることはわかっていた。

 アヤメとミルクは気付いていなかったようだが、姫は絶対に気付くだろうと思っていた。

 アヤメが覚悟を決めたように、俺も鑑定結果を伝えるときに覚悟を決めていた。

 このメンバーなら話しても情報を漏らすことはないだろうと信じて。


「俺のスキルは鑑定じゃなくて、詳細鑑定っていうんだ」

「詳細鑑定?」

「文字通り、より詳細に物事を知ることができるスキルだ。たとえばこのD缶」


 と俺はインベントリからD缶を取り出して、


「鑑定結果は【中身がわからない缶。開け方は千差万別。滅多に開くことがない。最高の強度を誇るが、開封後はその強度を失う】って書いてあるが、詳細鑑定をすると、その開封条件がわかる。たとえばこれは――1カラット以上のダイヤモンドで叩くと開くらしい」

「ちょっと待って――」


 姫が部屋に戻ると、時計を持って帰ってきた。

 高そうな女性ものの腕時計だ。


「普段使いの安物だけど、デザインが気に入ってるの。でも、このダイヤなら1カラット以上あるわ。ダンジョン内に持ち込めないのが欠点ね」


 絶対安物じゃないだろ。

 姫がその時計でトントンとD缶を叩くと、D缶が光って開いた。

 中に入っていたのはダイヤモンドの原石だ。

 結構大きいと思う。


「凄いわね」

「そうだよな。ダンジョン産の宝石は安いっていっても、この大きさだとかなりの値段になるよな」

「そうじゃなくて、泰良の詳細鑑定よ。って、もしかして私に渡したD缶も――」

「ああ。姫に渡せば開くって思ってた。開く条件は所有者の俊敏値。あと、アヤメに渡したD缶も半日後に開くって知ってたし、なんなら大魔術師関係の装備が出る可能性が高いって思ってた。開封条件が、大魔術師の杖の所有者が半日所有することだったから。黙っててごめんな」

「そんな、壱野さんが謝る事じゃありません」

「うん、私もそんなスキル持ってたら簡単に話せないよ」

「黙っていて当然ね。そんなスキル前代未聞過ぎるもの。というか、私たちのこと信用し過ぎじゃない? 泰良、この詳細鑑定は公表するつもりはないのよね?」

「ああ、さすがに話したら詳細鑑定の仕事だけで手いっぱいになりそうで、ダンジョン探索ができないだろ? 鑑定士になるつもりはないからな。あ、明石さんにはまだ黙っておいてくれよ? 信用できるとは思うけれど、それでも会ったばかりだし」

「それを言ったら私も会ってまだ一ヶ月なんだけどね。一応秘密保持契約は結ばせてもらうわよ。こういうの、きっちりしておかないと気が済まない質なの。アヤメの分もね」


 と言って、姫はパソコンを持ってきて、契約書を作り始めた。

 その中で、ぶつぶつとD缶を買い占めないと――って口走っている。

 牛蔵さん個人が一日であの量を集めたんだ。

 姫が企業の力を使ってD缶を集めたらいったいどれだけの量が集まるんだ?


「あ、あの。契約書を作るのなら、私も新しく覚えた魔法について話がしたいんだけど。これもユニーク魔法で」

「ユニーク魔法?」

「うん。薬魔法って言って、薬を作り出して操る魔法。いまのところ、ポーション、聖水、火薬の三種類を生み出せるようになった」

「待って待って、そんな魔法聞いたことないわよ!? いくらユニーク魔法っていっても……薬を生み出す魔法っ!? ポーションに聖水? 火薬?」


 と姫は俺の方を見る。

 俺は――


「あぁ、俺が関わってるな。こっちは……また今度話すよ」

「まだいろいろと秘密があるのね」

「ああ、いろいろ秘密がある。ぶっちゃけ、詳細鑑定は俺にとって序の口」

「ははっ、私は天才のつもりでいたけれど、このままだとパーティで一番の凡人になりそうね」


 姫が渇いた笑みを浮かべた。


「ミルク、どうするの? 私たちのEPO法人に移籍する? あなたのユニーク魔法があれば、ここに入らなくても好きな所に移籍し放題よ?」

「もちろん天下無双の正会員になるよ。うちのパパのEPO法人はもう看板だけで稼働できてないしね。これからよろしく、姫!」

「ええ、副理事のポストをあけて待っていた甲斐があったわ。よろしく、ミルク」


 姫とミルクが握手で彼女を出迎える。

 これで本格的にEPO法人天下無双結成だな。


「ああ、それとミルクに渡した成長のリボン、二個入りだったから、もう一個は姫とアヤメが交代で使うってのはどうだ?」

「それはありがたいけど、泰良はいいの?」

「男の俺がリボンってのは――」

「そういう問題?」

「大事な問題だ」

「わかったわ。他に、何か今話しておきたい秘密はある? この際なんでも引き受けるわよ」


 そう言われ、水野さんのことが頭に過ぎったが、ここで話したら後戻りができなくなる。

 鍛冶師については、もう一度彼女の意見を聞くべきだと思って黙っておくことにした。

 代わりに――


「経験値薬追加で50本持ってきたから売却よろしくな」

「泰良、話すつもりがない秘密は秘めておきなさいよ。どうやってこの短時間に50本も経験値薬を調合できるのよ。さすがに一度には売れないわよ? 値崩れを起こすし、そうなったら調合士たちが仕事を失うわ」

「そうか? じゃあ自分たちで使うってのも考えないとな」


 と思ったとき、姫のスマホが鳴った。


「翔上からだわ。どうしたの?」


 明石さんからの電話に出て話をする。

 途端に姫の顔色が悪くなった。

 良くない電話のようだ。


「…………え? 待って、スピーカーにする」


 と言って姫はスマホをスピーカーにしてテーブルに置く。


「もう一度言って」

『はい。先ほど、政府から連絡がありました。日本に新しい黒のダンジョンが生まれたそうです。マスコミ発表はまだですが、緊急時には例の魔導兵器の派遣を必要とする可能性があるため、二十四時間の待機要請が下りました』


 例の魔導兵器。

 富士山で戦った俺のことなのは間違いないな。

 明日、学校行けそうにないな。

 待機命令ではなく要請なのは魔導兵器の所有者が姫ではなく、GDCグループと米軍ということになっているからだろう。


「……それで、そのダンジョンの場所はどこ?」

『大阪と奈良の県境――生駒山の山頂。』


 え? 山頂。

 いやいや、生駒山の山頂っていえば――


『生駒山上遊園地です』

いよいよパーティが仮結成から正式結成に。

と、ここで第二部完結です。

え? こんなところで?

生駒山上遊園地は? 水野さんは?

と気になる点もあるでしょうが、完結です。


そして、明日からは第三部!

いよいよダンジョン配信スタート?


第二部終了時点で、

☆評価などまだの方は是非お願いいたします


このあとがきの下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう」

の☆を押して、

★☆☆☆☆(つまらない)~★★★★★(面白い)

まで五段階で評価していただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運の初期値が異常に高かった高校生が、缶詰ガチャで手に入れたスキルを使って現代ダンジョンで最強になる物語、漫画公開中!
詳細はこちら
漫画
― 新着の感想 ―
詳細鑑定以上の劇物案件なんてあったかなぁ 公表したら鑑定依頼でパンクする、程度の危機感ではまずいのではないかな
何の権限があって……と思ったが、要請であって強制力は無いのね。
[一言] 生駒山上遊園地遠足で行ったな懐かしい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ