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トレジャーボックスT

 白浜ダンジョン八階層。

 歩いていると、いきなり木の宝箱を見つけた。

 しかし、この宝箱を開けたりはしない。

 実は魔物である。


 ここに現れるのはミミックだ。

 正確にはトレジャーキューブという俺たちがてんしばダンジョンで倒したキューブの亜種で、十階層以降に稀に現れ、その強さは深い階層ほど強くなる。

 しかし、白浜ダンジョンには八階層に通常のモンスターとして現れる。

 キューブは逃げるだけだったが、トレジャーキューブは宝箱に擬態していて近付くと襲ってくるからミミックと呼ばれている。

 攻撃値は八階層にしては高く、遠くから遠距離攻撃で倒すか、噛まれるの覚悟で戦うしかない。

 遠距離攻撃の欠点として、通常の宝箱に誤って攻撃してしまうと、中身が壊れてしまう。

 その時、宝箱の中身はガラクタに変わる。瓶が割れるとか、何かが壊れるとかではなく、ガラクタという意味のわからないアイテムになってしまうのだ。

 もっとも、俺は気配探知があるので、ミミックと宝箱を間違える心配はない。


「解放:火矢(フレイムアロー)

 

 ミミックが燃えると牙の生えた箱をパカパカさせて動き出す。

 一撃で倒せないのか。

 まぁ、最下級の魔法だから仕方ないか。

 うーん、燃えてるなぁ。

 この状態で近付くのは危険だ。

 燃え尽きるのを待つか――と思ったらミミックの方から近付いてきた。

 仕方ないので、なまくらソードで応戦。

 それほど速くないから大振りでも当たるだろう。

 基礎剣術其之肆――


「真向斬り」


 上段からの振り下ろし。

 燃えて脆くなっていたためか、怪力のお陰か、ミミックが大したことないのか、ミミックの蓋が砕け、息絶えた。

 Dコインと……よしよし、トレジャーボックスTを落とした。

 トレジャーボックスTは、キューブが落としたトレジャーボックスの強化版。

 最低幸運値は150で、それを満たしていれば5割の確率で落とす。逆に満たしていなければ、0.5%しか落とさない。

 そして、この中身が結構いい。

 英雄の霊薬や聖女の霊薬のような伝説級の薬やアイテムは出ないが、それでも便利なアイテムが盛りだくさんらしい。

 その中には、お金を出しても買えないような便利なものも結構ある。

 姫からの指令は、このトレジャーボックスTを集めることだ。


 30分で12個集まった。

 いやぁ、ミミックは逃げないからキューブより集めるのが楽だわ。

 ミミック以外にも魔物はいるんだけど、全く動かない魔物を探せばいいだけだから、探すのが非常に楽。

 またミミックを見つけた。

 もう火魔法を使うのも面倒で、いまは普通に剣だけで倒している。

 何度か噛みつかれそうになったが、いまのところ服にもダメージはない。

 この調子でもっと集めないと――と思っていたら、人の気配がした。四人だろうか?

 パーティで潜っているようだ。

 その四人組がこちらに来た。


「あっ」


 うち二人には見覚えがあった。

 金髪縦ロールのお嬢様と明石さんだ。

 あの二人、探索者だったんだ。

 しかも、ここにいるってことはホテルの宿泊客ってことだろう。

 残りの二人はターミネーターみたいなスーツにグラサンのガタイのいい男。

 彼らもお嬢様の護衛だろうか?

 明石さんは朝会ったときと同じスーツ姿だが、お嬢様はなんか高そうな鎧を着て、ネックレスやら頭飾りやら指輪やらいろいろと着飾っている。

 詳細鑑定で見たところ、全部防御力を高める装備だった。

 しかも、最高ランクの。


 とりあえず、インベントリの自動収納機能はオフにしておこう。他人に見られると説明は面倒だ。

 魔物を倒しているのにDコインが出てこないぞ? って思われる。

 「どうも」と会釈し、ミミックを倒したあと、落としたDコインとトレジャーボックスを拾おうとすると、


「あなた、待ちなさい!」


 金髪縦ロールお嬢様が俺に待ったをかけた。


「そのトレジャーボックス、私に渡す栄誉を差し上げますわ!」

「は?」


 何言ってるんだ?


「それでは伝わりません。お嬢様が失礼しました。今朝ぶりですね。探索者の方だったんですか」

「はい。明石さん……でしたよね?」

「覚えてくださり光栄です。我々はこの階層でトレジャーキューブが落とすトレジャーボックスを集めているのですが、思ったように集まらず、困っているのです。もしよろしければそのトレジャーボックスを我々に売っていただけないでしょうか?」

「ダンジョンのドロップ品の個人間の売買は禁止されていたはずですが」

「お嬢様はダンジョン産古物商許可を取っていますので、その限りではありません」


 それって販売所が持っている認可だよな?

 個人でそんな認可を取ることができるのか?

 お嬢様なら可能ってことか。


「一つ百万円で買い取らせていただきます」


 販売所の買い取り価格は十万円。

 オークションだと落札価格の相場は八十万。

 そう考えると悪くない商談だ。

 だが――


「すみません。それはできかねます」

「なんですって!?」


 お嬢様が睨みつけて叫ぶ。


「このダンジョンには仲間と潜っていて、ドロップアイテムは公平に分配することになってます。だから俺の一存で売る事はできません」

「そんなの黙っていればいいではありませんか! あなたがトレジャーボックスをドロップしたことは他の人は知らないのですから」

「大切な仲間を裏切れるわけないでしょ」


 なんだと、このお嬢様は。

 話にならない。

 このまま無視して去ろうとしたら、


「どうしてもダメだと仰るのならこちらにも考えがありますわよ」


 と何か脅しのようなことを言ってくる。

 同時に、後ろ控えていた男二人が一歩前に出た。

 相手の強さはわからない。

 地獄の業火(ヘルファイア)を脅しに使うか、それとも尻尾を撒いて逃げるか考えると、


「お嬢様、おやめください。彼の仰っていることは当然の話です。問題を起こすようなら奥様に全部話しますよ」


 と明石さんがお嬢様に注意をする。


「改めまして、私は明石君代(あかしきみよ)と申します。貴方様のお名前を伺ってもいいですか?」

「……壱野です」

「そうですか。では、壱野さん、仲間の方と合流する時間と場所を教えていただけないでしょうか? 私がその時間にそちらに行きますので、その時に改めて買い取りの話をさせてください」

「それなら別に構いませんよ」


 トレジャーボックスTなら山ほどドロップしてるだろうから、姫がOK出せば1個くらい融通してもいいだろう。

 それに、お嬢様は好きではないが、明石さんなら信用できそうだ。

 もしかしたら、飴と鞭を上手に用いた交渉術かもしれないが、それならそれで、相手が一枚上手だったと思って拍手を送ろうではないか。


「では、俺はこれで」


 と今来た道を戻っていく。

 人の気配がしたら極力近付かないようにしよう。


 そして、約束の時間に階層を戻っていき、姫とアヤメ、そしてミルクと合流して地上に戻る。

 その最中、金髪縦ロールお嬢様との交渉の話を姫に伝えた。


「ということがあったんだ」

「また泰良は女の人と知り合って……」

「なんでしょうね。そういう運命なのでしょうか」


 俺を女好きみたいに言うな。

 相手のパーティは男二人もいたからな?

 今日初めて出会った人数だけでいえば、名も知らぬナンパ大学生も含めると圧倒的に男の方が多い。


「一個百万円ね。まぁ、妥当といえば妥当な金額よね」


 庶民のアヤメちゃんが「百っ!?」と驚いていた。俺も少し前までは同じ感覚なので気持ちはよくわかる。


「それで、トレジャーボックスはいくつ手に入ったの?」

「全部で183個だな」


 インベントリに入りきらずに、リュックにもパンパンに詰まっている。

 と俺はリュックを開けて、トレジャーボックスTのうちの一つを姫に投げた。


「相変わらず出鱈目な幸運値ね。こんなに手に入ったことは言ったらダメよ。売るにしてもこの一個だけにしておきなさい」

「言われなくてもそのつもりだ」


 姫が投げ返した一個をキャッチして、俺は頷いた。

 だから、アヤメちゃん。

 1億8千万とか計算しないでくれ。



 着替え終わって更衣室の外に行くと、ダンジョン前で明石さんが待っていた。


「壱野さん、交渉の席についてくださりありがとうございます」

「いえ。うちのパーティメンバーにさっき話したところ、交渉には前向きに応じるそうでして」

「それはよかったです。生憎、私たちでは一個も手に入らなかったので、なんとか手ぶらで帰る羽目にならなくて済みそうです」


 本当に明石さんは丁寧な人だな。

 お嬢様は一緒にいない。

 どうやらホテルに先に戻ったようだ。

 交渉を進めるにもその方がいいよな。

 そう思ったら、ミルクとアヤメが着替えから戻ってきた。


「泰良、お待たせ」

「壱野さん、そちらが交渉相手の方ですか?」

「ああ。明石さんだ。姫はどうした?」

「受付で何やら話していましたが、直ぐに来るそうです」


 アヤメがそう言う。

 社長の娘だから、いろいろとやることがあるのかな?

 と思ったら、明石さんが、目を丸くした。


「壱野さん、いま姫と仰いましたが、もしかして――」

「泰良、お待たせ」


 明石さんが何かを言いかけたところで、姫がやってきた。

 そして、姫と明石さんはお互いを見て固まった。


「明石君代――あんたが泰良の言ってた交渉相手ってわけ」

「……ご無沙汰しております、姫お嬢様」

「てことは、トレジャーボックスを欲しがっているのは」

「……はい。妃お嬢様です」


 ん? なんだ、この二人知り合いなのか?

 妃お嬢様?

 なんか姫に似ている名前だな。


「なぁ、姫。知り合いなのか?」

「明石というより、妃のね。まさか、あいつがここにいるなんて……」

「仲が悪い相手なのか?」

「そうね。仲は最悪よ」


 まぁ、あのお嬢様だもんな。

 姫に失礼なことを言っていてもおかしくない。

 姫がそれ以上言おうとしないので、どうしようかと思ったら、明石さんが情報を補足してくれた。


「壱野様。私が仕える押野妃お嬢様は、押野姫お嬢様の実の姉君にあたります」


 あぁ、そういうことか。

 だから名前も姫と妃で似ているのか。


 ……………………………………………………………………はい?

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
姫はできる女なのに
姉なるものだったか こっちはわがまま全開で育った系なのかな 君代ちゃんがそれとなく教育してないのだろうか それとも育成の方向性がアレで合ってるとか
最後の「はい?」の所で頰が引きつってて目がいつもより閉じているのが目に浮かぶ。ご苦労様です。主人公がこれ以上女性と親密にならないことを祈るばかりです。(但し三人を除く)
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