梅田ダンジョンはキノコ祭り
俺の前にD缶が十個ある。
宝箱から出たわけではない。
購入したのだ。
Dコインを換金したその金で。
売れば1000円って話だったが、ネットオークションだと5000円(送料込み)くらいで落札するのが相場だった。
十個セットってのが即決価格5万円だったので、即決購入。
それが今日届いたわけだ。
もちろん開け方はわからない。
ただ、俺のダンジョン生活はD缶から始まったから、縁起ものとしていくつか買っておこうと思ったのだ。
ネットで調べたのだが、D缶の中身は階層とは関係がないらしい。
一階層で出たD缶の中身がレアアイテムのこともあれば、深い階層で出たD缶に消しゴムが入っていたこともある。
共通することは、中身が缶に収まるサイズってことかと思うが、D缶より大きなものが出たという噂もある。
ちなみに、この缶、とても頑丈で核爆弾の威力にも耐えられるので、防具にしようとする試みがあったが、結局うまくいっていないらしい。
この缶は衝撃を受け流す。
たとえば首を守っていた場合、D缶が受ける衝撃は全部首に、胸を守っていた場合は胸に衝撃が加わる。
斬撃から守れるという点では有効かもと思ったが、斬撃の威力の場合、斬撃そのままの威力を受け流すので結局斬られたのと同じ状況になってしまう。
それでは使えない。
そしてD缶ともう一つ報告が。
土曜日、無理してレベル10にまで成長した俺だったが、なんと初スキルをGETした。
スキルはレベルが上がると一定の確率で覚えるという。
レベルが高くなるほど覚えやすくなるらしく、レベル10まででスキルを覚えられる確率は1割にも満たないらしいから、運がいい。
もしかして、高い幸運値が作用しているのだろうか?
覚えたスキルは、気配探知だった。
なんと、魔物だけでなく人、宝箱の気配までわかる。
これでスライム狩りが楽になるってもんだ。
って、もうスライムを倒す必要はないんだが。
――――――――――――――――――
壱野泰良:レベル10
換金額:9251D(ランキング:10K-50K〔JPN])
体力:52/52
魔力:0/0
攻撃:30
防御:28
技術:29
俊敏:24
幸運:138
スキル:PD生成 気配探知
――――――――――――――――――
ちなみに、ここまででスライム酒は30本出た。
一本は父さんに。一本は販売所に売り、残りは換金所経由でオークションで販売。
昨日、最初のオークションが行われたが平均20万円くらいで落札されているらしい。
一本だけ俺とは違う奴が最低落札額60万で出品していたが、ダンポンが次のオークションの出品予定リストに追加で20本のスライム酒を売りに出しているため、誰も落札しようとする奴はいなかった。
もしかして、あの販売所にいた金髪の兄さんだったりして。
今回は20万で売れたが、安定してスライム酒を売れば徐々に値段も下がっていくだろう。
「やったぞ、ダンポン! レベル10になった!」
「おめでとうなのです! 僕もジムバッジ8個揃えたのです!」
「そっちもおめでとう!」
相変わらずゲームばかりしているな。
ここで休憩する時間も増え、ダンポンと話をする時間も増えた。
タメ口の許可を貰ってからは、さらに仲良くなった気がする。
できれば俺も一緒にポ〇モンをやって交換したり対戦したりしてあげたいが、ダンジョン内にゲー〇ボーイを持ち込めない。
「ダンポン。それでレベル10の証明書を欲しいんだけど。名前と国籍在り、生年月日は無しで」
「証明書の発行手数料は20Dです」
「うん、頼む」
「記載するのはレベルだけでいいのです? スキルは書かなくていいのですか?」
「んー、気配探知も頼む」
証明書とは自分のレベルや所持スキルを証明するカードのことだ。
全記載で発行依頼したら身分証明書としていろいろな手続きにも使える正式なカードだ。
海外でも通用するっていうのだから、パスポートレベルの書類である。というか、トップレベルの探索者はパスポート代わりに使うことができる。
偽造不可能の異世界技術で作られているのだから当然だ。
梅田ダンジョンの二階層に行くにはレベル10が必要だから取得した。
このカードはダンジョン産銃砲刀剣類登録証と違ってダンポンが発行を行っているので、即時発行も可能だ。
「はい、できたのです」
顔写真付きの証明書だ。
名前とレベルと気配探知のスキルだけ書かれている。
この状態だと身分証明書としてはほとんど使えないんだけど、梅田ダンジョンの二階層に行くくらいならこれで十分だ。
「明日はまた梅田ダンジョンと接続できるようにしておくからな」
「はいなのです」
ダンポンが笑顔で言う。
ダンジョンのスライムよりもスライムらしい動きだ。
「それと、預けていた剣って梅田Dの換金所からも取り出せるんだよな?」
「はい、手続きしているのです」
「助かる」
ダンポンが預かった武器はダンジョンとは別の異空間に保管されていて、ダンポンならどこからでも取り出せる。
世界中の学者がその理論について研究しているが、まだ解明されていない。
いきなり他人のいる場所で剣を振るのは危険だろうから、まずは肩慣らしにここで剣の練習をすることにする。
剣を使うときに備えて販売所で剣の鞘を備えるためのベルトを購入していたので装備は問題ない。
スライムの気配が直ぐにわかった。
気配探知、本当に便利。
ということで、気配のいる方に行くとスライムを発見。
棍棒を使っていた時と同様上から振り下ろす。
「ん?」
剣だからスパッと切れるかと思ったが、押しつぶされているような感じに見えた。
居合い切りの達人が、藁人形をスパスパ斬っているイメージだったが、これは何か違うな。
切れ味が悪いのか。
一階層の宝箱から出た剣だもんな。それほど強い剣ではないってことだろう。
スライムソードと呼ぼう。
この感じだと、ちょっと丈夫な棍棒という感じでいいだろう。
「また出た」
スライム酒だ。
これは……明日父さんにプレゼントしよう。
酒好きなのに、前回プレゼントしたスライム酒、全然飲もうとしていないし。
さて、明日は始発で出発だし、早めに切り上げるか。
翌朝、五時起床。
正直寝不足だ。
全てあのネット小説が悪い。寝付けないので少し読んでみようと思ったら時計の針が二本とも天辺を指していた。
このままだと寝不足で電車を乗り過ごしてしまう。
「そうだ!」
と俺は庭に行き、昨日消したPDをもう一度出した。
ダンポンは今日もそこにいた。
「あれ? タイラ、梅田Dと繋がってないのですよ?」
「悪い。少し寝てから出発する」
「あ、そういうことですか。わかったのです」
俺は寝袋に入り、枕の上で高いびきをかくことにした。
どれだけ寝たかはわからないが、睡眠不足も解消し、梅田に到着。
電車で三十分かかるのに、こう何度も来るとはな。
交通系ICの残高が心もとなくなってきたのでチャージしておく。
前回と同じ場所にPDを設置し、そして、やってきた梅田D。
今日も凄い行列だよな。
ダンジョンから出てくる人もいる。夜勤組だな。お疲れ様。
俺はレベル10以上の入場口に行く。
ここはあまり並んでいない。
だって、レベル10になるには一日8時間、600回もダンジョンに通わないといけない。
普通に働いている人には難しい。
本気でレベル10を目指す探索者は少ないのだろう。
ちなみに、二階層の入場料は3000円と少しお高い。
そして、並んでいる人は少ないのだが、列は全く進まない。
十分くらい経過したところで一斉に進み、受付に行く。
「お願いします」
「いらっしゃいませ。梅田ダンジョンの二階層の探索は初めてですか?」
「はい、初めてです」
「では二階層の探索について説明させていただきます。二階層での魔物狩りは完全交代制の区分け方式で行われます。指定された区域の中で自由にダンジョン探索をなさってください。制限時間は一時間で、一日二度まで挑戦できます。区域の説明は全員が揃った後で行われます。二階層に出てくる魔物は歩きキノコとスライムが主ですが、稀にゴブリンが出てきます。ゴブリンはスライムや歩き茸と比べると狂暴ですし、最初は木の棒を持って現れますが、探索者が置いている剣などの武器を盗んで使用する場合がありますので、装備品は放置しないでください。ゴブリンに盗まれた剣のせいで事故が起きた場合、罪に問われる可能性があります」
「わかりました――」
俺の剣はなまくらとはいえ十分凶器だ。
管理には気を付けよう。
さらに、歩き茸と戦うときの注意点も教わる。
「説明は以上となります。質問はありますか?」
「途中退出はできますか?」
「基本ご遠慮いただいています。出口に向かう途中に他の区域を跨ぐと他の探索者様のご迷惑になりますので。途中退出する可能性がおありですか?」
「初めてだからキツイかなって思ったら帰るかもしれなくて」
「それでしたら出口近くの区域になれるように手配します。そこでしたら退出も可能ですし、スタッフも近くにいますから何かあったら対応できます」
「本当ですか? ありがとうございます。あ、預けている武器の取り出しってどこでできますか?」
「武器の取り出しについては、待合室で可能です」
という感じで受付は終わり、3000円を支払った。
待合室に行くと十五人の探索者が待っていた。
一階層にいる人と違って、ちゃんとした装備をしている人もいる。
換金所もあった。
ダンポンと違って人間の男性が働いている。
みんな武器を持っているので、先に荷物をコインロッカーに預け俺も武器を受け取ることにした。
「すみません、預けている武器を受け取ります」
「はい。探索者カードか証明書をご提示ください」
「お願いします」
さっき出したばかりのレベル10の証明書を出す。
「壱野泰良様ですね。どの武器を引き出しますか?」
「剣を」
「鉄剣ですね。どうぞお受け取り下さい」
受付の女性が箱から鉄の剣を取り出す。
あの箱がダンポンの管理する武器などを保存する空間に繋がっているらしい。
剣を腰に差して座る。
まるで病院の待合室みたいな場所だと思った。
「ねぇ、君も大学生?」
と隣にいた若い赤髪の男の人が声を掛けてきた。
覚醒者だろうか?
イケメンだ。
たぶん化粧もしている。
「似たようなものです」
大学生と高校生。うん、似てる。
「そうか。僕は響。響翔。二階層初挑戦」
「壱野泰良です。同じく初挑戦です」
「……………………はぁ」
何故か深くため息を吐かれた。
気に障る事でも言っただろうか?
「やっぱ、僕のこと知らないか。マイチューブでは登録者五千人行ってるんだけどまだまだだな」
「へぇ……」
「あ、登録者五千人って大したことないって思っただろ? 二階層にも入れてないダンジョン配信者が五千人って凄いんだからな」
「まぁ、スライム狩りばかりする動画って見ごたえありませんものね。ちなみに広告料ってどのくらい?」
「出た、大阪人の悪い癖。でも、気になるよね? だいたい動画一本で1万円くらいの広告収入かな」
高校生にとっては大金だけど、大学生だとどうなんだろ?
ダンジョン探索のライブ配信って最低二人一組って話だから一人で得られるお金じゃないだろうし。
「それで、君。よかったら君も僕の会社でダンジョン配信者にならない? って言っても二人だけの小さい会社だけど。顔も悪くないし、君には光るものを感じるんだ。もちろん配信用クリスタルは無料で貸し出すよ」
「いえ、俺、そういうの興味ないんで」
「そうか、残念だ。でも名刺を渡しておくから興味を持ったら言ってよ」
響さんはそう言って俺に名刺を渡してくれた。
ダンジョン配信者ねぇ。
PDをダンジョン配信したら流石にヤバイことになるだろうな。
そして、響さんは結局その後勧誘は一切せず、雑談に付き合ってくれた。
そして二階層の探索の時間になる。
全員で移動を開始、
ブルーシートに座ってスライムが湧くのを待ってる一階層探索者たちの横を通り過ぎ、二階層に続く階段を下りていく。
俺の探索場所は入って直ぐのところだ。
ちなみに、一番手前は一番人気がない。
何故なら、皆が奥に進むとき、魔物を倒して進むからだ。
魔物が殺されていくのが気配でわかる。
別にそれでもいい。
あとはPDで戦い放題だから、ここではほどほどに頑張る。
魔物の気配を感じた。
歩き茸だ。
エリンギのような足の生えた中型犬サイズのキノコがこちらに向かって走って来る。
攻撃方法は体当たり。
男性相手だと、急所を狙ってくるので注意が必要だという。
ドロップ品としてキノコがあるんだけど、見た目では毒キノコかそうでないかの区別がつかないため、鑑定をしないと持ち帰り不可だって言われた。
有毒鑑定も有料で時間がかかるため、持ち帰るつもりがない場合は全て換金所に提出するように。
一本500円で買い取ってくれるらしい。
ちなみにドロップ率は高くないと言っていたが――
「いきなり出たな」
剣で叩き潰すとDコインと一緒に赤いキノコが落ちていた。見た目毒キノコっぽいけれど、全部この色らしい。
キノコを拾い、背負っているリュックに入れる。
そして探索再開。
スライムが出てきた。
色が違う。
赤色だ。
赤スライムってそのまんまだな。
これも倒す。
普通の青いスライムとの違いがわからない。
どっちも一撃で倒せるし。
これが赤スライムだったら、俺がいつも狩っているのは青スライムじゃないか? って思うけれど、あれはスライムなんだ。
あ、スライム酒が出た。
これも革袋に入れる。
結構大きい袋なので余裕だ。
ゴブリンと戦いたいと思っていたが、出てきたのは結局歩きキノコと赤スライムだけだった。
ゴブリンは珍しいって言っていたから仕方ないか。
そろそろ制限時間だ。
歩き茸は滅多にキノコを落とさないって言っていたけれど、二十三匹倒して二十個も出た。
ドロップ率60%って書いてあったけれど、やっぱり俺は他人より少しだけ運がいいのだろうか?
スライム酒は一本だけだったが。
制限時間になり、ダンジョン内に鐘が鳴り響く。
俺は出口に向かった。
一階層でスライム狩りという名のスライム出待ちをしている人たちを横目にダンジョンを出て、レベル10以上探索者用の待合室に。
先に換金を済ませる。
「お願いします」
DコインはPDのダンポンに渡すので、キノコだけの買い取りだ。
合計20本。
ちょうど1万円になるだろう。
「こんなにですかっ!?」
「はい」
「か……かしこまりました」
受付の男性は驚いたようだった。
普通、情報サイトでキノコは全部換金するほうがいいって書いてあったけれど、もしかして、鑑定してもらって持って帰るのが普通なのか?
でも、鑑定料って5000円とかするし、5000円払って鑑定した結果、
「食用キノコです。あんまりおいしくないですね」
なんて言われたら辛い。
なので全部売る。
「Dコインの換金はよろしいですか?」
「そっちは纏めてするので」
「かしこまりました。キノコの買い取りについては支払いまで少々お時間を頂きますことご了承ください」
そして、スライム酒を鞄に入れたところで、後続が戻って来る。
響さんに挨拶しようかとも思ったが、お腹が空いた。
鞄からスマホを取り出し、時間を確認。
朝の八時。
思ったより早く終わった。
どこかモーニングのやっているカフェでも探して食事にしよう。
※ ※ ※
『先輩、二階層初心者の探索者がキノコを20本持ってくるってあると思います?』
『あるわけないでしょ。そもそも二階層で一時間で歩き茸を20匹倒す方が稀ね。歩き茸ってすぐに赤スライムに食べられちゃうんだから。かなり効率よく狩りをしないと難しいわ。それにキノコの最低幸運値は80よ? 二階層の探索者の平均幸運値は9ってところだから、ドロップ率は3%くらいね。幸運値80越えたら60%ドロップ。そもそも、そんな幸運値の高い探索者が二階層にいるわけないし』
『でも、実際に――』
『そこまでよ。探索者の換金アイテムについては同僚であっても漏らしてはいけない。これがダンジョン職員のルールでしょ。私たちは黙って探索者が持ってきた品を上に送ればいいの』
『……はい、そうですね』
『それよりキノコを上に回しなさい。まぁ、幸運値が低い探索者のドロップ品はだいたい毒キノコなんだけどね』
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