白浜ダンジョン
朝の散歩を終えた俺は、ダンジョン前でみんなと合流。
「この子がクロちゃんね。黒犬にしか見えないわね」
姫はクロを見て少し表情を緩める。
パンダといい、動物が好きなんだな。
「ふわふわね。ア〇ベンチャーワールドにいたら人気者になりそう」
あそこは犬とのふれあいコーナーもある。
でも、そんなところにいたら他の動物が緊張してストレスで死んでしまう。
パンダを殺してしまったら国際問題待ったなしだし、絶対にそこの住民にはさせられない。
受付(という名の姫の顔パス)を終え、更衣室で着替える。
今日は合宿ということで、俺もジャージに変えた。
アヤメとミルクもジャージ姿で、姫は相変わらずくノ一姿だ。
白浜ダンジョンでも新人用講習やスライム狩りが行われているが、それらは無視。
三階層にはホワイトシェルという白い貝の魔物がいる。
大きさは中華鍋くらい。
ほぼ動かないが、防御値が高いので初心者は無視するのが推奨される。
ちなみに、ホワイトシェルが落とすのはモンスターパールと呼ばれる真珠で、完全に真球の真珠は結構なお値段するらしい。
ただし、ドロップ率はスライム酒よりも低いのと叩き潰すのが面倒なので、初心者には人気がない。
氷、火、雷が苦手という弱点はあるが、低レベルで魔法を使える人間は少ない(何故かうちのパーティは四人中三人使えるが)のも人気の無さに拍車をかけている。
経験値はゴブリン並みだが、無視だな――と思っていたら、クロが近付いていき、ホワイトシェルを咥えたかと思うと、ホワイトシェルを噛み砕いた。
「ワフ!」
「あぁ、うん。いい子だいい子だ」
持ってきたDコインを受け取り、頭を撫でる。
昨日はダンジョンに行けなかったから、はしゃいでるんだな。
これにはさすがのみんなも驚いたようだ。
「クロちゃんってあんなに強かったんだ」
「私、車の中でクロちゃんの口の中に指入れて甘噛みさせてましたよ」
クロはいい子だから、やっていいこととやったらダメなことの区別はつくから大丈夫だぞ。
この分だと問題ないということで、全員で五階層に移動。
五階層にはサハギンとピンクシェルが出る。
サハギンは魚人の魔物。ヒレが進化して手足のように使うことができる。
高ランクのサハギンだと槍を持っていたりするが、ここのサハギンが持っている武器は木の棒くらい。
ピンクシェルはホワイトシェルより少し狂暴で、近付いたら噛みついてくる。結構大きいので気付かずに近付いてしまうことはないだろう。
逆に近付かなければ平気なわけだが、厄介なことにサハギンはそのピンクシェルを拾って集めて、敵を見つけると投げてくる。
俺たちが遭遇したサハギンも、ピンクシェルを持っていた。
そして、振りかぶってピンクシェルを投げてきた。
「わふっ!」
クロが空中でキャッチ。
ピンクシェルは口を開く間もなかった。
歯が食い込んで、僅かに貝殻にヒビが入っている。
一緒にD缶でやったキャッチボールみたいで楽しいか、そうか。
そのままミルクのところに持っていき、地面に置いた。
ピンクシェルは口を開こうとするが、クロが前脚でその蓋を無理やり閉ざす。
ピンクシェルは口を開かなくなった。
「ミルク、魔法。ピンクシェルは火魔法が苦手なんだろ?」
「あ、そうだった。解放:火弾」
呆気に取られてたミルクが正気に戻り、魔法を放つ。
ピンクシェルは焼き貝状態になって死んで、Dコインと化した。
ちなみに、サハギンは俺が倒した。
落としたのは、Dコインと真っ赤なサンゴの髪飾り。
「真っ赤なサンゴの髪飾りは防御値が1%上がる装備ね。滅多に出ないはずなのに、一発で出るなんて、さすがは泰良」
1%上がるのか。
ゲームだとこういう割合上昇の防具は、序盤は頼りなく思えるが、物によっては最後まで使える優秀なアイテムになる。
「そういや、姫はそういう魔法の防具とか貸してくれないんだな?」
「私、パパの持っている魔道具コレクションがあるから必要なら持ってきますよ」
ミルクが言う。
D缶を大量に溜め込んでいた牛蔵さんなら、確かにそういうアイテムもいっぱい持っていそうだ。
「そういうのって、成長の指輪や魔力を回復させる指輪と違って、今は必要ないでしょ? 装備の力を自分の力と勘違いして失敗した人間を私は大勢知ってるわ。必要だと思ったら貸してあげるからいまは自分の実力を試す場だと思ってそのまま頑張りなさい」
姫が心に刺さる言葉を言う。
俺の場合は装備ではなくスキルで、それを自分の力だと思ってしまっている。
装備に頼ってしまっているアヤメからしたらさらに耳が痛いだろう。
「じゃあ、姫は特に魔道具とか装備してないのか?」
「ええ。装備するとしたら十階層からかしらね」
「そうか。でも、姫は前線で戦うわけだしこれくらいは装備しておけ。ちょうど姫にピッタリだ。珊瑚って三月の誕生石だし、聡明って宝石言葉もあるからな」
と言って姫に珊瑚の髪飾りをプレゼントすると、彼女は少し驚いたようだ。
「泰良がなんで誕生石とか宝石言葉とか知ってるのよ」
「兄貴が宝石の販売員だから、宝石の勉強に付き合わされたんだよ……」
お陰で、宝石関係の豆知識がいろいろと蓄積されている。
こういうの、学校の授業に活かせたらいいのに。
「泰良、ちなみに五月の誕生石ってなに?」
「し、四月はなんでしょう?」
聞かれて、俺は思わず笑ってしまった。
「何がおかしいの?」
「いや、四月はダイヤモンドもそうだが、モルガナイトって宝石も誕生石でな、薄い赤の宝石なんだ。五月がエメラルドと翡翠。二人の色とは逆だなって思っただけだよ」
四月生まれのアヤメは緑色の髪、五月生まれのミルクは桃色の髪をしている。
「それって、私たちに似合わないってこと?」
「そんなこと言ってないだろ? 宝石ってのはカワイイ女の子に出会うために生まれてきたんだから、似合わないわけがない」
というのが兄貴が俺に伝えた宝石のセールストークだ。
ってあれ? 二人の様子が少しおかしい。
今の台詞、イケメンの兄貴が言うならまだしも、凡人の俺が言うには臭過ぎて、笑いを堪えているのか?
「泰良、来年の誕生日プレゼントは大変そうね」
姫が珊瑚の髪飾りを着けながら言った。
ミルクとクロは五階層に待機。
俺たちはそのまま七階層に向かった。
サハギンの上位種とか、ブルーリザードマンとか似たような魔物が多いな。
ダンジョンってレパートリーが少ないのか? と思ったら、空を飛ぶ魚が現れた。
エアフィッシュという魔物で、水鉄砲を放ってくる。
これが結構厄介で、当たると痛い。
ミルクの防御力だったら大怪我もする可能性がある。
「三枚におろしてあげるわ」
「私も行きます」
出てきたエアーフィッシュを二人は結構余裕に倒していく。
これなら七階層も問題ないだろう。
俺はここで別れ、一人八階層に向かった。
最近はPDもクロと一緒だったから、久しぶりのソロでのダンジョン探索だ。
この階層にはちょっと欲しいものがあるからな。
姫が合宿先にここを選んだのもそれが理由らしい。
気合いをいれて頑張らないとな。
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