琵琶湖の日々の終わり
『別に悪意があって黙っていたわけじゃないぞ。だからそう怒るではない』
トゥーナを通じて会話するには込み入った話になりそうなので、PDのショップで念話のスキル玉を買って、姫経由でそのスキル玉をミコトに渡した。
既にアヤメ、ミルク、姫の分身を乗せたヘリは八尾空港に到着したが、アヤメの呪いはもう解けている。
一応、一晩入院して経過観察することになったが、ミコトが言うには呪いは完全に消え去っていて問題ないとのこと。
それより、問題はミコトだ。
ミレリーが琵琶湖ダンジョンに来たのは偶然ではない。
誘導されていた。
ミコト、いや、ミコトの頼みを聞いたお宝ダンジョンのダンポンによって。
ミレリーがダンジョンとダンジョンの間を移動している方法は星の記憶とその力の流れに乗っていると予想したミコトは、お宝ダンジョンのダンポンに頼んだそうだ。
役目を終えて、俺はダンポンが眠る卵を琵琶湖ダンジョンの祭壇に捧げた。
結果、あいつは星の中、その力の流れに行くことができたという。
そこで、ダンポンはどうやったのかは知らないが、ミレリーをこの琵琶湖ダンジョンに誘導する役目を担った。
そして、ミレリーは星の流れの中でダンポンと出会い、この琵琶湖ダンジョンに導かれた。
そんな断片的な記憶が、彼女のエネルギーを吸収したとき、俺の中に流れ込んできた。
『どこまで計算だったんだ?』
『お宝ダンジョンのダンポンと話し合っただけじゃ。ミレリーの目的について。奴の意図を探ろうと思っての。何しろ、ほれ、妾って聖獣じゃろ? 異世界の存在からこの世界を守る役目があるから、そういうのは調べる必要があるんじゃよ』
『で?』
『ダンポンからかのエルフの勇者の目的を聞いたら、ダンポンが言うには何かを探していると――』
『何か?』
『可能性は三つあった。一つはエルフの勇者の目的、つまり彼女が救うべき世界を救う手段の捜索。というか、妾は最初はそれじゃと思っていた』
不破さんたちも同じことを言っていたな。
それが勇者の使命だって。
だから、ミレリーは消えることができずにこの世界を彷徨い続けていたと。
俺もてっきりそうだと思っていた。
『じゃが、それにしては妙じゃろ? 奴はこの周囲のダンジョンにばかり出没した。どこにあるかわからないものを探すのに、同じ場所ばかり探す阿呆はおるまい。近い場所を集中して探すのは、全てのダンジョンを虱潰しに捜したい場合を除くと、この周囲に彼女が求める物があるということじゃ。そんなの二つしか考えられんじゃろ?』
『俺とトゥーナか?』
『うむ。そして、妾はお主じゃと読んだ。じゃから、ダンポンに頼んでミレリーを探して、琵琶湖ダンジョンに導いてもらったのじゃ。お主たちが暫く琵琶湖ダンジョンに潜ることは確定しておったからのう』
『でも、よく見つけられたな』
『実はミレリーの奴は、京都ダンジョンにも現れての。その時に、軽い印のようなものをつけておったのじゃ』
『京都ダンジョンにも?』
『うむ。そのせいで、瘴気が活性化し、魔物が大量発生することになったわ』
それで、俺たちに魔物の駆除を依頼したのか。
『で、なんで黙ってたんだ?』
『だから怒るなって言っておるじゃろ? うまくいくかどうかは賭け。しかもかのダンポンから連絡が貰えない以上、妾としても可能性は未知数。そんな中途半端な情報を伝えては、今後の仕事に支障が出るかもしれん。妾の粋な計らいと言う奴じゃ。ただでさえお主は大切な面接の前じゃったしな』
そう言われたら、確かに事情を知っていたらこの数週間、ずっとミレリーのことが気がかりになって面接や戦いに集中できなかっただろう。
『それより、小娘の呪いについてじゃが、お主の予想通りじゃな。どうやら小娘の先祖が掛けられた呪いの元凶と、今回の呪いを再発させた存在は同じものである可能性が高い』
『やっぱりそうか。それって、世界の地下深くに封印されてる終末の獣と関係あるのか?』
『それはわからん。だが、その黒蛇が通常のダンジョンの魔物という線はなくなったな』
結局、推測の域は出ないってことか。
『ああ、それと喜べ。ダンジョン学園のダンプルから先ほど連絡があり、日本国内の瘴気の流れが緩やかになったから、年末には安全宣言が出されるだろうとのことじゃ。定期的に魔物退治をする探索者を派遣する必要はあるが、お主たちは正月は家で迎えられるぞ』
『本当かっ!? それは嬉しい話だ』
今日聞いた話の中で一番の朗報かもしれない。
ダンジョンは無事に片付いても、テイムした魔物たちの扱いとか、黒のダンジョンの今後の運用方法とかいろいろと問題は山積みだろうが、そんなのは偉い人が決めることだ。
とにかく、いまは家に帰れることが嬉しい。
これで琵琶湖ダンジョン関連のゴタゴタは全て終わり――
あれ? 何か忘れているような……いったいなんだ?
とその時、お腹が鳴った。
「そういえば、まだ晩御飯食べていなかったわね」
姫が言う。
そういえばそうだ。
ホテルに戻って飯を食べようかと思ったけれど、もう夜の23時だ。
「マ〇ドに行くか。あそこなら二十四時間開いてるだろ」
「この辺りにあったかしら?」
「あるよ。直ぐ近くのく〇寿司の隣のパチンコ屋の裏に」
「ああ、あったわね。前、一緒にちゃんぽんを食べた店の横ね」
「そうそう。今年はまだグラコロ食べてなかったんだよな。やっぱり冬はグラコロだよな」
「グラコロ?」
「なんだ、姫は知らないのか? マ〇ドは春はてりたま、秋は月見、冬はグラコロ。これが日本のマ〇ドなんだよ。アメリカには期間限定はなかったのか?」
「私はあまり知らないんだけど、兄が好きだったわね。期間限定でチキンビッグマックってのがあったらしいわ」
「え? そんなのあるのか。日本でも流行りそうだな」
なんて話しながら、タクシーを捕まえるのも面倒なので歩いて店に向かうことにした。
※ ※ ※
「へぇ、それで壱野くん、私のことすっかり忘れてたんだ」
「ごめん、本当にごめん! 忘れてたわけじゃ……いや、忘れてました。ごめんなさい」
俺は心の底から彼女に謝った。
疲れたからお風呂に入って寝ようと思ってホテルの扉を開けたら、水野さんがじっと椅子に座って待っていた。
その時、悲鳴を上げたのがいけなかったんだな。
彼女のことをすっかり忘れていたことがバレてしまった。
「事情が事情だから念話で連絡を取るのもいけないかなって思って、部屋でずっと待ってたんだけど、まさか二人でマ〇ドナルドに行ってるなんてね。勝手に帰ろうかなって思ったけど、武器はできたてだから万が一のことがあったら困るって思ってね、うん。ずっと待ってたんだよ? 私、明日も学校なのに、この時間だと明日何時にここを出ないといけないか」
「ごめんなさい。タクシー呼びましょうか?」
「私が乗ると思う?」
「乗りませんよね。勿体ないですもんね。ごめんなさい」
俺は再び水野さんに謝罪し、許しを請うたのだった。




