水晶の導きの先に
琵琶湖ダンジョンに着いた。
入り口にはダンジョン局から派遣されている警備員が立っていた。
「壱野さんに押野さん!? どうなさったのですか、このような時間に」
「ダンジョンに用事ができたの。詳しい内容は極秘事項よ」
それだけで、警備員は何も聞くことができない。
水晶玉に導かれてとか、正直に言うより説得力がある。
俺たちは中に入った。
さっきまでロビーに一人残っていた職員はいない。
全員、矢橋帰帆島公園に向かってまだ帰っていないのだろうか?
いや、そういえば今日の分の魔石を渡していなかった。
だから矢橋帰帆島公園の件が終わればもう帰れるのか。
「泰良、聖女の霊薬が手に入るのは五十五階層より下の階層よ。ただし、日本での発見例は万博公園ダンジョンのみ。他のダンジョンで見つかった記録はないわ。いくら泰良の幸運値が高くても……それに五十階層より下は――」
「……毒の魔物が多いんだろ。俺には八尺瓊勾玉の……」
首元に手をやり、そういえばミルクに返したんだった。
「解毒ポーションならインベントリに大量にあるから……ん?」
気配を感じて見ると、奥からダンポンが出て来た。
「お客さん! ちょうどよかったのです! さっきまでいた他の探索者も帰って困っていたのですよ」
「他の探索者って、西条さんと妃さんか。それで、どうしたんだ?」
「二十三階層に違和感があるので見てきてほしいのです」
ダンポンからの依頼か。
「ダンポン、悪いけどいまは時間が――」
「いや、待て。姫、二十三階層に行こう」
「泰良、でも――」
「迷宮転移があれば二十三階層に行くのに時間もかからない。それに、このタイミング。偶然とは思えない」
「偶然じゃないって、いい意味で? 悪い意味で? 第六感はどっちだって言ってるの?」
「いや、どうだろうな? そこに行くべきだっていうのは俺の勘なんだが、それが第六感なのか普段の勘なのかはわからないよ」
それでも、無駄だとは思えない。
姫は俺に従ってくれるようだ。
転移陣を使って二十一階層に移動、そこからさらに迷宮転移を使って二十三階層に移動する。
二十三階層に来た。
異世界の絵画、そして祭壇。
いつも通りの二十三階層だ。
「絵に変化はないわよね? 覚えてないんだけど」
「さすがにそういう細かい変化はわからないな。『8〇出口』みたいに、絵画が子どもの落書きになってたり同じ絵になってたらわかるんだけどな」
「なにそれ?」
「去年、青木と一緒に遊んだ、間違い探しみたいなゲームだよ。いつもの通路と同じ通路だったら真っすぐ進み、何か異変があったら引き返すってゲーム」
「へぇ、どんな間違いがあるの?」
「いろいろあるぞ? 普段は閉まってるはずの非常扉が開いていたり、壁の中から変な怪物が現れて追いかけてきたり――」
と俺が具体例を出したそのときだった。
部屋の側面にある壁の中から気配を感じた。
ここは安全地帯のはずだ。
魔物が現れるわけがない。
これがダンポンの言っていた異変!?
俺は鞘から二本の剣を抜く。
「姫、武器を構えろ!」
「もう構えてるわよ!」
クナイを構えた状態で姫が言った。
壁の中から現れたのは瘴気?
まさか、さっきの黒蛇が実はまだ生きていて、俺を追いかけてきた!?
先制攻撃をするか?
いや、今の俺でもダンジョンの壁を破壊するような力はない。
敵が姿を見せるのを待つしかない。
今度は油断しない。
確実に倒す。
「姫、敵が姿を見せたら琴瑟相和を使うぞ」
「二人で使っても二割しかステータスは増えないわよ」
「……わかってる」
二割上昇だったら、ミルクが使ってくれた活力の蕾にも劣る。
当然、さっき使ってもらった活力の蕾の効果は既に切れている。
それでも、黒蛇との戦いはこの身で覚えている。
レベルやステータスでは表すことのできない経験が俺の味方をするはず。
今度は負けない。
「来るっ!」
「琴瑟相和」
だが――現れたのは黒蛇では、いや、魔物ですらなかった。
緑色の髪の、トゥーナとは違うエルフの少女。
「ミレリーっ!?」
現れたのは、エルフの世界の勇者のミレリーだった。




