轟く虫の知らせ
PDのダンジョンを通って黒のダンジョンに行くことにした。
ミルクが、PDのダンジョンに通じる扉を開け――
「あ、ミルク! 開けるな!」
「え?」
ミルクが扉を開けたその瞬間、扉にくっついていたスライムが雪崩のように崩れてきた。
さっきまで魔物寄せの笛の効果で、スライムがずっと扉に体当たりしていたが、途中からその音も聞こえなくなった。
諦めたものかと思っていたが、気配はやっぱりそこにあった。
どうやら、扉に集まり過ぎて身動きとれなくなっていたらしい。
ミルクのレベル160は越えてる。
幸運値は低いが、しかし防御値はかなりのもの。当然、ダメージはゼロだろうけれど――
「ミルク、大丈夫か?」
「……配信してなくてよかったって思ったよ……玩具にされなくて」
「あ……あぁ……ドンマイ」
ミルクは配信中、こういうプチハプニングだらけで、そのたびに切り抜かれてSNSで玩具にされている。
中には全部計算でやっていると言う人もいるが、計算でスライムに潰されたりしない。
とにかく、スライムの中からミルクを救出し、再び黒のダンジョンに向かった。
スライムが入り口に集まっていたため、逆にそれ以外の場所でスライムに襲われることはほとんどなかった。
先ほど通った道順通りにダンジョンを進む。
「雰囲気が変わったね」
「黒のダンジョンに入ったからな」
振り返ると、さっきまで通っていた道が塞がってただの壁になっている。
そして妙なことに気付いた。
おかしい。
さっきまでこの辺りには魔物がいっぱいいたのだが、その気配がない。
その代わりに魔石や魔物のドロップアイテムが山ほど落ちている。
「姫の分身が倒したからじゃないの?」
「いや、姫たちは同じ場所で戦っていたはずだ……………………………………うん、念話で確認を取ったけど移動はしてないって」
ということは、ここで魔物が死ぬ事態が起きた?
とりあえず、インベントリの自動収納機能をONにして、落ちているアイテムをいっぱい回収。
牛蔵さんのところに進む。
姫の分身と別れた場所に辿り着いた。
大量に魔物のドロップアイテムが落ちていた。
姫がここで戦っていたのだろう。
アイテムを回収する暇もなかった、もしくは後で回収しようと思っていたところで倒れたのか。
「とりあえず、幽霊がいたら怖いから広範囲の光魔法放つね。解放:聖なる領域」
ミルクの周囲に光が広がる。
しかし、ドロップアイテムは落ちない。
仮に見えない魔物がいて退治できたとしたら、魔石の一つくらいは落ちるはずだ。
やっぱり何もいないのか。
とりあえず、気配探知を使って、常に気配に気を付けながら進もう。
牛蔵さんのいる黒のダンジョンのロビーに向かう。
「……!? 魔物の気配が近付いてくる。十や二十じゃないぞ」
牛蔵さんから逃げているのか?
いや、しかしダンジョンの魔物ってキューブのような特殊な魔物を除いて逃げたりしないよな。
魔物を追い払うスキルがあるのかもしれないが、聖域シートで安全を確保できている牛蔵さんが敵を追い払うとは思えない。
「ぐっ」
「泰良、どうしたの」
「わからない。何かものすごく嫌な予感がした」
虫の知らせっていうのか? いや、もう虫の声っていうより、虫の轟音みたいだ。
「え? 嫌な予感ってそこまで感じるものなの?」
「気配探知とも違う」
ステータスを確認する。
――――――――――――――――――
壱野泰良:レベル165(ランクB)
換金額:7891111D(ランキング:49〔JPN]617[ALL])
体力:7317/7317
魔力:560/560
攻撃:3001(+300)
防御:2359(+471)
技術:2577
俊敏:2561(+256)
幸運:8360
技能:速読 剣術Ⅱ 速筆
スキル:PD生成Ⅲ 気配探知 基礎剣術 瞬間調合
詳細鑑定Ⅱ 獄炎魔法 インベントリⅡ 怪力
火魔法 投石 ヒートアップ 基礎槍術
魔法反射 肩代わり トレジャーアップ
妖精の輪 琴瑟相和 水魔法 応用剣術
疾風 常在戦場 ラッキーパンチ 影獣化
対応力 付与魔法 空間魔法 猫の手
エナジードレイン 念話 隠形 財テク
鉄壁 二刀流 基礎格闘術 延長 ボス特攻
獅子搏兎の恩寵 エルフ語 千里眼 闇魔法
第六感
――――――――――――――――――
スキルが増えている。
あと、いつの間にかレベルが165になっていた。
どうやら、ここでスキルを覚えたのか。
第六感、これが原因。
『姫、第六感ってスキルを知ってるか?』
『直観力が磨かれるスキルよ。勘が働くっていうのかしらね? 覚えたの?』
『気付いたら覚えていたみたいだ。助かった』
嫌な予感がする。
つまり、強敵がこっちに来るってことか?
俺は剣を構えた。
「ミルク、気を引き締めろよ。いざとなったら転移魔法で逃げるからな」
「うん、わかった」
「「…………」」
「ねぇ、泰良」
「なんだ?」
「パパのところに行くなら、黒のダンジョンに入った直後に迷宮転移を使えばよかったんじゃない?」
「………………」
忘れてた。
だって、変な場所から入ったから、ロビーがダンジョンの奥って雰囲気がして、あっちが入り口って感じがしなかったんだよな。
とはいえ、何が来るか確かめたい。
剣を構える。
「来るぞ!」
「うん!」
魔物が見えた。
白い布を巻いた魔物の集団が。
その先頭を走っているのは見慣れた馬の魔物。
「疾風だ。さすが姫の従魔ね。先頭を走ってくるなんて」
こいつらがここにいるってことは、つまり地上を制圧してダンジョンにまで乗り込んできたってことか?
あれ? 俺の嫌な予感どこにいった?




