最強の軍団#side上松総司
私、上松総司の進む道の方向は、両親が新選組を心から敬愛していた時点である程度決まっていた。
特に好きなのは沖田総司らしく、そのため私に同じ名が与えられた。
その両親が私に剣道を習わせようとするのは当然の成り行きだった。
剣道場の師範が竹内信玄師範だった。
ランドセルを背負うよりも先に剣道着を着ていた私だったが、決して優秀な人間だったとは言えない。
中学に上がり、同年代の門下生も増えてきた中、その実力は中の下といったところか。
初めて竹刀を握った牛蔵から初太刀で一本を貰ったときは流石につらかった。
それでも、不思議と彼とは気が合った。
下手の横好きと言われるかもしれないが、私は剣道が好きだった。
きっと、幼いころからの両親の洗脳教育のためだろう。
何しろ、幼いころから子守唄代わりに新選組のドラマ(N〇Kの大河ドラマではなく、フ〇テレビのドラマ)を見ていたから。
お陰で身体が鍛えられた私は、両親の勧めで防衛大に進学し、そのまま自衛官となった。
どうも師匠はいろいろなところにコネがあるらしく、どういうわけか私は若き幹部候補として出世の道を進むことになるが、まさか他国からではなく魔物から国民を防衛するために働くことになるとも、そして防衛大臣にまで出世するとも思いもしなかった。
出世するほど苦労が多く、政治屋連中との軋轢は特にひどかった。
本当に国を防衛するのなら、一度全部ぶっ潰して最初から作り直したほうがいいのではないかと思うほどだ。
もっとも、師匠から聞いた話では放っておけば本当に日本に多大な被害が出るそうなので、冗談にはならない。
そう、色々と苦労してきた。
地獄も見てきた。
だが――
「なんだこれは――」
私は思わずそう言葉を漏らす。
風呂などを設営するときに使う天幕。
最近何かと目を掛けているEPO法人天下無双のチーム救世主の壱野くんに頼まれて用意したものだ。
その中に、壱野くん以外の三人の女の子、牛蔵の娘の牧野ミルク、天下無双の理事長押野姫、そして、調べたところあの人の孫だという東アヤメの三人が入っていき、私に言った。
『私たちがいいって言うまで覗かないでください』
鶴を助けた記憶はないのだが、そう言われて中を覗いたら碌なことにならない。
実は生駒山上遊園地ダンジョンの時も同じことを言われたことがあるので、それについては問題は無かった。
問題があったのはその後のことだ。
テントの中から魔物が出てきたのだ。
『もしもここから魔物が出てきたとき、首に白い布を巻いていたら私たちがテイムした魔物ですから安心してください』
そのようなことが本当にあるのだろうかと思った。
だが、チーム救世主は常に私の想像の斜め上を行く探索者パーティだ。
そういうこともあろうかと思っていた。
魔物の一匹や二匹、テイムするだろうと。
彼らには転移用の魔法陣が描かれた絨毯を渡したから、それを使って魔物を送って来る可能性も考えていた。
だが――
「これは、想定外だ」
現れた魔物は一匹や二匹ではなかった。
な、なんなんだこの数は。
百を過ぎた頃から数えるのが億劫になるほどの魔物が現れた。
もはや鶴の恩返しではなく、雀のお宿で貰った大きな葛籠だ。そういえばそういうアイテムがあったな。まさか、それを使って持ち運んだ?
それにしては数が多すぎるが。
「上松大臣っ! 大変で――え、うぇぇぇえっ!?」
中に入ってきた高木曹長が慌てて銃を構えて引き金を――
「撃つなっ! 仲間だ!」
「え、仲間」
なんとか引かずに済んだ。
「既にここの魔物はテイムされている(はずだ)」
私は恐る恐る最初に出てきた馬の魔物――エクリプスに近付く。
もしも、この魔物がテイムされていなかったら、無防備に近付いた私はこのエクリプスに噛み殺されてしまうか蹴り殺されてしまうだろう。
生唾を飲む。
だが、エクリプスは微動だに動かない。
まるで何かを待っているように。
「私の言葉がわかるのなら、小さく頷いてくれないだろうか?」
私がそう言うと、エクリプスは頭を下げる。
私の言葉がわかり、私の命令を聞いてくれている。
本当にテイムされているのか?
この数を?
「す、すごい」
高木曹長が呟く。
ああ、本当に凄い。
イヤになるほどに。
「曹長。それで何が大変なのだ?」
「それが、魔物が再びダンジョンから溢れたかと思うと、次々に地面の中に吸い込まれていくのです。ちょうどベータ……壱野氏がいなくなったあたりで」
壱野くんはダンジョンに入るための穴を掘ったと言っていた。
彼しか入れない穴だと思ったが、魔物も利用できるのか?
しかし、ダンジョンから出てきた魔物がダンジョンの中に?
恐らく、その誘導には魔物寄せの笛を使っているのだろうが、ダンジョンの中で繋がっているのならば、そもそも一度地上を通る意味はなんだ?
いや、それよりもこの魔物だ。
彼らはこの魔物たちを指揮して、ダンジョン外部に出た魔物を退治するように言っているのだろう。
だが、わかっているのか?
自衛隊の現代兵器ですら対処できない魔物の群れを指揮下に加えるということは、つまり、最強の軍団、いや、部隊を持つということになる。
こんなこと、外部に知られたら外交的にも問題になるだろうし、憲法を改正しようとする政治屋が――いや、考えるのは敵である魔物の対処だ。
「これらの魔物は自衛隊の指揮下に入る。反撃の準備だ!」
「はっ!」
つまらないことを考えるのは止め、私はいまもきっと何かしらの戦いをしているであろうチーム救世主たちに感謝の気持ちを送る。
この後起こるであろう政治絡みのいざこざは私が全て引き受ける。
君たちは君たちで存分に暴れてくれ。




