【閑話】天使になった日#青木
「今日の配信はじめるぞ」
水曜日。
俺――青木はダンジョン配信を開始した。
ただし、いつも一緒に配信をしている響さんはいない。
〔待ってた!〕
〔枠立て乙〕
〔あれ? 青きゅんだけ? ひびきんは?〕
やっぱり気になるよな。
「響さんはちょっと今日の配信は参加できないんだ。だから俺だけになった。響さんファンの人はごめんな。病気とか怪我とかじゃないから心配しないでいいぞ」
俺はそう説明した。
配信の常連のリスナーさんはいい人なんで、文句が上がったりはしない。
ただし、別のところで疑問の声があがった。
〔なんで青きゅん女装してないの?〕
やっぱりそうなるよな。
毎週水曜日、俺は女装姿で配信に参加することになっている。
しかし、今日はいつもの姿なので、リスナーのみんなが困惑している。
〔マテ、これはもしかして女装している青きゅんが男装しているのではないか?〕
〔なんて高度な思考回路!? 俺じゃなきゃ理解できないね〕
〔俺も理解できる。そう考えると青きゅんがかわいく見えてくる〕
〔青きゅんはいつもかわいい定期〕
いやいや、女装から男装ってなんだよ?
うちのリスナーおかしいから。
「実は事情があってな。みんなに俺の新しい魔道具を見せるんだ。宝箱から見つかったものでな。ダンジョン局に登録して、完全未登録のユニーク魔道具であることが証明されたんだ。しかも、物凄い魔道具だ」
俺がそう言った。
〔伝説級ユニーク魔道具!? マ!?〕
〔待って、ダンジョン魔道具考察スレの奴ら呼んでくる〕
〔俺は探索者スレの連中を――〕
〔ユニーク魔道具のお披露目とか、世界中で波紋を呼ぶ〕
〔俺たちの青きゅんが世界の青きゅんになるのか〕
案の定、リスナーからのコメントは大騒ぎになった。
同接数も一気に跳ね上がる。
「じゃあ、見せるぞ。これだ」
俺は武人の槍を持って言った。
〔槍? 魔道具じゃないの?〕
〔武人の槍っぽいな。普通にオークションでも出回っている槍だ。〕
〔もしかして、ガセ?〕
〔いや、待て、いまどこから槍を取り出した?〕
〔そういえば、槍を隠せる場所なんてなかったよな?〕
やっぱり気付く人は気付くよな。
「この槍の部分は普通の武人の槍だ。でも、ここの宝石はエンジェルストーンという魔道具でな。それを発動させると―」
俺の身体が光り、天使の姿へと一瞬で早変わりした。
「とまぁ、こんな感じだ。天使の姿になると槍の性能が大幅にアップするだけじゃなく、ステータスも上昇、さらにスキルもいくつか使えるようになる。あと、この槍は俺専用アイテムになってるから、他の人に盗まれる心配もない。俺が死んだらエンジェルストーンが砕ける仕様。だから、『ゆずってくれ、頼む』って言われても無理な相談だし、『殺してでもうばいとる』ってのもできないからな」
だいたい、運以外のステータスが+50になる。
そして、光魔法、飛翔という空を飛ぶスキル、天使の加護という闇以外の属性耐性が得られるアクティブスキルの両方が得られる。
ってあれ?
「おーい、みんな。どうした? 反応がないぞ? 配信クリスタルの調子おかしいのか?」
コメントが流れてこないので気になって尋ねてみると、
〔青きゅん天使キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!〕
〔天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使天使だーーーーーーーー!〕
〔天使は男でも女でもない。つまり、青きゅんは天使! 納得〕
〔防〇りのメ〇プルみたいな変身してる〕
〔え? もしかして身体も女性化してる?〕
〔青きゅんは男でも女でもない定期〕
〔興奮しているところすまないが、とんでもないアイテムじゃない? 売ればいくらになる?〕
〔専用アイテムになってるから売却できないよ〕
〔羽生えてる! 空飛べるのかな〕
〔魔法少女ステッキという変身できる杖がある。それと同系統の武器だと思う。専用武器の中には武器を召喚できる機能もあるから、青木氏が何もないところから槍を取り出したのはその力を使っての可能性が高い〕
〔ガチ考察乙〕
〔ひびきんが来られない原因察した〕
〔あっ、なるほど〕
〔同接500万再生突破〕
〔青きゅんがトレンド入りしてる!? 世界トレンド一位だって〕
〔本当に世界の青きゅんになったのか〕
え?
俺が世界トレンド一位!?
これ、収益いくらくらいになるんだ?
その後、天使の姿で光魔法を使ったり、槍で魔物を倒したりしてみんなに楽しんでもらった。
「今日の配信はこれで終わりだ! 気に入ってくれたなら、チャンネル登録よろしく頼む! 次回は響さんも復帰できるはずだからな!」
俺はそう言って配信を終わった。
配信後、日本中、いや、世界中から様々な問い合わせが殺到し、俺はとても大変な目に遭うんだけど、それはまた別の話。
とりあえず、ダンジョン配信の世界デイリーランキング一位は手に入れた。
そして、意識を取り戻した響さんは俺の配信を見て、再び寝込んだ。




