武器強化計画(その4)
その日は久しぶりにゆっくり寝た気がする。
というのも、暇があったらPDに入っていた俺たちだったが、武器を水野さんに預けたからPDに潜る気にもならなかった。
翌朝、スマホのアラームが鳴る前に起きた俺は、アラームの設定を解除したあと、着替えてホテルのレストランに。
ホットコーヒーとアイスミルクをホテルの人が貸してくれた水筒に入れて、多目的施設に行く。
彼女のことだから、まだ武器を作っている可能性があるからな。
施設の鍵は――しまった、鍵がかかってる。
そりゃ、女性一人の作業だったら防犯上鍵はかけてるか。
うーん、水野さんを念話で呼ぶと仕事の邪魔になりそうだな。
と思ったら解錠されて扉が開いた。
扉を開けたのはクロだった。
「おはよう、クロ。水野さんのこと見てくれてたんだな。迎えにきてくれてありがとうな」
「わーふ」
クロが欠伸をして、俺の影の中に入っていく。
あ、迎えに来たんじゃなくて寝に来たのか。
影の中で寝るのが快適なんだな。
中に入る。
人の気配のする方に向かった。
こっちだな。
金属を叩く音が聞こえてくる。
やっぱり水野さんはまだ起きているようだ。
仮眠くらい取ってくれただろうか?
あ、金属を叩く音が止まった?
この部屋から気配がする。
扉をノックすると返事がきた。
「あ、壱野くん!」
「水野さん、様子を見に来たんだけど。あと、コーヒーとミルクを持ってきた」
「ありがとう。ちょうど休憩にしようと思ってたんだ。見てよこれ! 結構いいクナイでしょ?」
水野さんができたばかりのクナイを鑑別のモノクルで調べながら言う。
へぇ、姫のクナイを作ってたのか。
ミスリル製かな?
ミスリル製のクナイなら前も作っていたから新鮮味はあまり感じないけれど、詳細鑑定で調べてみる。
【ミスリルのクナイ(+13):ミスリル製のクナイ。霊体をも切り裂く特殊仕様。鬼の力で強化されている】
なっ、めっちゃ強化されている!?
それに、霊体も切り裂くって!?
「鰐霊神の牙を使ったら霊体も切り裂けるようになるみたいなの」
「鬼の力って?」
「神工鬼斧の効果だね。耐久値と攻撃値が大幅に上がるだけじゃなく、武器強化を使える回数が増えるんだよ」
武器強化スキルは魔石を使用することで武器を強化できるスキルなのだが、強化できる回数は決まっているらしい。
魔石の種類は武器の種類によって変わる。
ミスリル製のクナイだと、赤の魔石を使うらしい。
そして、1回使うと+0~+3まで強化される。技術値と攻撃値が高いと強化できる確率が上がるらしい。
通常なら3回までしか強化できないのだが、鬼の力で強化された武器は5回まで強化可能なのだとか。
「+13ってことは、+3を3回、+2を2回ってこと?」
+3を4回で+1を1回かもしれないが。
「あはは、まさか。武器強化で+3ってあんまりでないんだよ。最初にミスリルのクナイを作ったときから+6だったんだ。そこから5回強化して、+2を2回、+1を3回って感じかな?」
「え? 最初からミスリルのクナイが+6だったんだ。前までミスリルの武器を作ったらマイナス補正が付いてたのに……」
「うん。でも、鬼の力で強化された武器が作れるのなら、神の力で強化された武器も作れそうだけど、いまのところ鬼で強化できた武器しか作れてないんだよね」
と水野さんがアイテムバッグの中から、いろいろと武器を取り出す。
ミスリル製のものだけではなく、死蔵されていた魔物素材を使った武器もいろいろあるな。
「あ、これ預かっていた壱野くんの剣と外套だよ」
【布都御魂(+6):日本の初代天皇の国作りに用いられたという神剣のレプリカ。天に掲げると毒を浄化することができる】
【布都斯魂剣(+7):スサノオが八岐大蛇を退治した時に用いた神剣のレプリカ。蛇種、竜種に対して与えるダメージが上昇する】
【闇火鼠の外套(+6):魔界に生息する火鼠の皮を使った外套。火と闇の力を防ぐ効果を持つ】
全部強化されてる。
武器強化って、武器だけじゃなくて防具も強化できるんだ。
布都御魂で浄化できる毒は軽度のものだけだったのに、毒全般浄化可能になっている。
それと、布都斯魂剣に、蛇種、竜種特化なんてなかったはずだ。
「あれ? 装備が全部+6か+7? ミスリルのクナイだと+1の方が多かったけど、こっちは強化しやすかったの?」
水野さんから聞いた話だと、俺の武器は3回しか強化できない。
ってことは、布都斯魂剣は最低1回は+3が出ていることになる。
ミスリルのクナイの方が強化が難しいのか?
「ううん、むしろこっちの方が強化が難しかったよ」
「だったらどうして?」
「強化に失敗したらこれを使ったからね」
水野さんが見せてくれたのはリセットハンマーだった。
強化値が0になるハンマー。
そうか、これがあれば、武器強化で強化可能な残り回数もリセットされるのか。
「納得するまで武器強化を使ったからね。壱野くんの武器の強化に青の魔石ほとんど使っちゃったよ」
「そっか、ありがとう。助かるよ」
ちなみに、青の魔石の買い取り価格は少し値下がりして、それでも一個四百万円くらいするんだけど、アイテムバッグの中にいくつあったっけ?
……うん、考えるのはよそう。
そのくらいの魔石なら、今の俺たちなら直ぐに稼げるだろうから。
「よし、休憩終わり! じゃあ、次は籠手とか服の下に着る軽鎧とか作るよ!」
「待って、水野さん! もう十分! 今日はこれで十分だから、ひとまず寝よう!」
俺はそう言って、渋る水野さんを無理やりホテルに引き上げさせたのだった。




