それぞれのお宝ダンジョン(その2)
~side青木~
「本当に宝箱しか出ないんだな」
ダンジョン配信したら盛り上がるダンジョンだと思う。
世界でも公表されているのは一例のみ。そして、それは配信されていない。
世界初のお宝ダンジョン配信。
いったいどれだけ再生数が稼げるか。
とはいえ、泰良はチーム救世主と騒がれたり、国民栄誉賞を貰ったりしているのに目立ち過ぎることを嫌っている節がある。
牧野はどっちでもいい感じだな。
あいつは親父さんが元プロボクサーで、今でもマスコミによく取り上げられる。そのため、あいつも何度かテレビに出たことがある。目立つことに慣れている。
姫ちゃんは目立つことに対してメリットとデメリットを考えている感じだな。
そしてアヤメちゃんはあまり目立ちたくない方だと思う。
それぞれ考えがある中、お宝ダンジョンの配信については行わないと決めたのならそれに従うよ。
「お、槍か?」
宝箱の中から、柄の部分に宝石が散りばめられた槍が出て来た。
芸術品としての価値も高そうだ。
泰良たちから借りた鑑別のモノクルで調べる。
【武人の槍:武人が愛用したという槍】
武人の槍はそこそこ高い槍だ。
買えば五十万円くらいしたはず。
俺からしたら大当たりだが、泰良から見たらそうでもないんだろうな。
でも、武人の槍ってこんな風に宝石が散りばめられてたかな?
不思議に思いながら、とりあえず槍を持って次の宝箱に向かった。
~side水野~
「水野先輩! 凄いっすよ! この箱庭牧場! まるでド〇えもんのひみつ道具っす!」
「本当だね、花蓮ちゃん。これでお肉がいっぱい食べられるよ」
「いやいや、さすがにこれ、あたしたちでは扱いきれないっすよ」
でも、こんなもの現実に出たら混乱するんじゃないかな?
【箱庭牧場:箱庭の中で牛たちが生活している。ここから出荷される生産物は現実世界で手に入る】
箱庭牧場は結構大きいのでキサイチくんに運んでもらう。
ダンジョン産のお肉はとても美味しい。
そして、壱野くんの家にある魔法の水筒から出る牛乳も。
ここの牧場で手に入る生産物が同じような品質だとしたら。
うーん、押野グループに所有してもらって、ホテルで提供するようにした方がいいかな?
「水野先輩はダンジョンに入るのは初めてなんっすよね?」
「うん、そうだよ。一応、ステータスを確認するためにロビーまで入ったことがあるけど、それ以上は初めてかな? 魔物と戦うのは怖いからね」
「まぁ、鍛冶師はステータス的に危ないっすからね。あ、宝箱見つけたっすよ。次は水野先輩が開けるっす」
「うん、じゃあ開けるね」
私は宝箱を開けた。
中に入っていたのはD缶だった。
これは壱野くんに開け方を見てもらわないとダメな奴だね。
と私がD缶を手に取った瞬間、D缶の蓋がカパッと音を立てて開いた。
「え!? D缶が開いた!? 見るの二回目っす」
「えっと、なんか条件満たしていたみたいだね。中身はダンジョンドロップ……もしかしたらスキル玉かも」
はははっ、と笑いながら、たぶんスキル玉だろうなって思った。
もしかして、これも壱野くんの幸運の恩恵かな?
「じゃあ、次はあたしが開けるっすね。あ、お地蔵さんのぬいぐるみっす! かわいい! 何か特別な力はあるっすかね?」
二人で鑑別のモノクルを使って調べてみる。
【身代わり地蔵:中に魔石を入れた人間が状態異常になったとき、中の魔石が身代わりとなってくれる】
あはは、これはたぶん凄いアイテムだよね?
本当にお宝ダンジョンは凄いアイテムが多いんだ。
また宝箱を見つけた。
開けてみる。
中に入っていたのは――
「またD缶?」
「そうみたいっすね。また水野先輩が触った途端に開くんじゃないっすか?」
「もう、そんなわけないよ」
と私がD缶を手に取った瞬間、D缶がパカっと音を立てて開いた。
うん、これ、絶対壱野くんの幸運のせいでしょ。
~sideトゥーナ~
一人でダンジョンに潜るのは初めてのことだ。
トゥーナは、ルシャトゥーナ・ラミロア・マクル・ノ・ハンデルマスとして生まれたその時から今日まで一人でダンジョンに潜ったことがない。
そもそも一人で行動していたのはシェルターの中にいたときくらいだ。
もっとも、そのシェルターの中にいたときの記憶はない。
「……ん、宝箱」
中を開ける。
中には小さい宝箱が入っていた。
そういうこともあるのかとその宝箱を取り出してもう一度開ける。
その中に入っていたのは――
「え?」
木の髪飾りだった。
特別な効果があるわけでもない。
ダンジョン産のものでもない。
ただ、トゥーナにとっては大切なもの。
トゥーナの母、先代のエルフの女王がトゥーナのために折れた世界樹の枝から作ってくれた髪留めだ。
この世界に来るとき、シェルターの中に持って入ったのに気付いたら無くなっていた。
これが宝箱の中に入っていた?
偶然?
もしかして、思い出のアイテムに姿を変えるアイテムとか?
鑑別のモノクルを使って木の髪飾りを調べる。
鑑定結果が出ない。
代わりに、小さな宝箱の鑑定結果が出た。
【メモリーボックス:失われた思い出の品が現れることがある宝箱】
どうやら、この宝箱が魔道具だったらしい。
「……お母様、トゥーナは女王としての役割を果たして、エルフの世界に戻ります。その時は一緒にカレーを食べましょう。絶対お母様も気に入ると思いますよ」
トゥーナはそう呟き、髪飾りを頭につけた。
~sideミコト~
妾は一足先に宝部屋からロビーに戻った。
ダンポンたちが炭酸せんべいを食べながらゲームをしておった。
「あれ? ミコト、宝箱はもう開け終わったのです?」
「ふむ、そちらは妾の分身たちがしてくれている」
そして、木の葉を取り出して投げると、木の葉がゲームのコントローラーに変わった。
「妾も一緒に興じようかと思っての。かまわんか?」
「三人対戦なのですね? 歓迎するのです」
「負けないのですよ」
妾はロ〇ッタ、ダンポンはたぬきマ〇オとノ〇ノコか。
キツネの妾にたぬきのキャラを使うとは……というか、任〇堂よ。
たぬきマ〇オやねこピ〇チがいるのに、何故きつねル〇ージはいないのじゃ?
スマホアプリのマ〇オカートツアーにはいたじゃろうに。
「あれ? ミコト、操作方法を知っているのです?」
「分身とはいえ、妾は京都ダンジョンを守護していた聖獣じゃぞ? 得意に決まっておるじゃろ」
「どういう理屈なのです?」
「任〇堂は京都の会社じゃ」
たとえば、ス〇ーフォックスの主人公がキツネなのは、ゲームでゲートを潜るシーンと伏見稲荷大社の鳥居を潜るシーンが関連付けられたためだそうじゃ。
世界の記憶の影響を、特にその土地の記憶に影響を受けやすいダンジョンじゃ。
京都ダンジョンの管理人をしていた妾にとって、任〇堂のゲームの記憶もいろいろと入っている。
とはいえ――
「実際に遊んでみると思ったよりは難しいがの」
ダンポンといい勝負になっていた。
「ところで、ダンポンよ、お主らに聞きたいことがある」
「なんなのです?」
「炭酸せんべいなら一枚だけ食べていいのですよ?」
「そのことではない。妾が聞きたいのはミレリーというエルフの勇者のことじゃ」
そして、妾はコントローラーを右手に持ったまま、左手で取った炭酸せんべいを口に運んで言う。
「奴は本当にこの世界を彷徨っているだけなのか? お主たちならその答えを知っているのじゃろ?」
妾がそう言って口を閉じる。
炭酸せんべいが軽い音を立てて割れた。




