ミルクとアヤメ#side牧野ミルク
前話では描かれなかったミルクとアヤメの話し合いです
結構ギスギスしているお話なので、そういうのが嫌な方は読み飛ばしてください
話し合いの結論は、前話で語っている通り、
「状況確認」「宣戦布告」そして、「いまのところは保留」という結末ですので。
ミルクとアヤメは二人で姫が用意してくれた隣の部屋に入った。
だが、二人とも最初の一言が出ない。
アヤメとは一年の時、同じクラスメートだった。
特別に親しいわけでも、かといって仲が悪いわけでもない。
会えば話をするし、一緒にお弁当を食べたことだってある。
二人が友だちと呼べる関係になったのは、二年生の時。
クラスが別々になって、それまでの関係もなくなり少し疎遠になったとき。
ミルクが覚醒した。
髪の色がピンク色に染まった。
覚醒者のことは知っていたし、羨ましいと思ったこともあったけれど、自分の髪の色が違うものになって、さらによくわからない力が自分の中に渦巻いているのがわかって、気持ち悪かった。
そんなとき、アヤメのことを思い出した。
アヤメもミルクが覚醒する一ヶ月前に覚醒していたのだ。
ミルクはアヤメに相談した。
アヤメもミルクと同じ悩みを持っていた。
全てが解決したわけではない。
それでも同じ悩みを持ってる同級生がいることが心強かった。
10クラスもあって、三年生のクラス替えでもう一度アヤメと同じクラスになれたのは、覚醒者であるミルクたちへの配慮からだったのかもしれない。まぁ、同じクラスに所属させて管理を楽にしたかったのかもしれないけれど。
周囲の同級生はミルクたちを異物のように見る。
大半は好奇心によるものだけど、中には本当に嫌悪感を持つクラスメートもいた。
覚醒者というだけで、受験に有利になる。それに嫉妬しているのかもしれないけれど、もしかしたら単純に気持ち悪いのかもしれない。覚醒者はそうなった時点で人間と別の生物になる。そういう俗説があることはミルクも知っていた。
だから、ミルクは自然とアヤメと二人でいることが多くなった。
泰良と会ったのはそんな時だった。
会いたいときは、泰良が行きそうなゲームセンターや本屋に行ったのに一度も会えなかったのに、会いたくないと思っていた時に限って、家から遠く離れた場所で再会したのだ。
笑顔で声をかけたつもりだけど、内心怖かった。
覚醒者になった自分を見たとき、泰良がどんな反応をするか。
泰良は驚きはしたけれど、普通に受け入れてくれた。
それが嬉しかった。
また泰良のことが好きになった。
でも、アヤメに少し申し訳ないと思った。
自分には泰良がいるけれど、アヤメはまだ他人と関わるのが少し怖いと話していたから。
だから、彼女に好きな人ができたと聞いたときは自分のことのように喜んだ。
まさか、その相手が泰良だなんて考えてもいなかった。
「……アヤメ。私は泰良のことが好き」
「ミルクちゃん……私も」
「うん、聞いてる。泰良は王子様なんだもんね」
神様は何故こんな意地悪をするのだろう。
「ねぇ……」
「ミルクちゃん。私は諦めるつもりはないよ」
「私だって。泰良以外の人を好きになれないから諦められないよ」
「「…………」」
また無言になった。
友だちか恋人か。
よくある究極の二択だけど、私たちは二人とも友だちよりも恋人の方が……
「確認するけど、アヤメは泰良と付き合ったりしてないよね? 気持ちもまだ伝えていないんだよね」
「ミルクちゃんだってまだ付き合ってないんだよね。幼馴染の関係性も好きで直ぐに変えられないって言ってたもんね」
「「…………」」
お互い、電話で近況報告をし過ぎた。
名前以外は筒抜けだった。
むしろ、ここまで話をしていて、なんで相手が同じ人だって気付かなかったのか。
いっそのこと二人同時に告白することを提案しようかとも考えた。
泰良との付き合いの長い自分の方が有利だと思った。
「アヤメ。泰良のことは大好きだけど、私は探索者になって手に入れないといけないものがあるの。泰良のことは大好き。これは絶対に変わらない。でも、ダンジョン探索は遊びじゃない」
聖女の霊薬を手に入れて、パパの呪いを解いてあげたい。
ここで泰良を取り合って、どちらかが実際に付き合うことになったらパーティはかなり気まずい関係になる。
それは私の望むところじゃない。
「私も遊びじゃないよ。本気」
アヤメが言った。
「だったら、泰良のことは保留にしない? お互いに抜け駆けはしない」
「そうだね……うん、ミルクちゃんがそれでいいのなら、私もそれでいいよ。でも、もしもミルクちゃんと壱野さんが付き合うことになっても、それでも私は諦めないから」
「私だって……ねぇ、アヤメ。私たち、友だち……のままだよね?」
「うん。そうでいたいね」
本当に私とアヤメが友だちのままでいるのかわからない。
それでも二人の間に協定は生まれた。
いまはそれでいいと思っている。
そして、アヤメが言ったのと同じで、彼女が泰良と付き合うことになっても、私は祝うことはできないし、やっぱり諦められないと思う。
それだけ、泰良の存在が私の中では大きくなっていた。
石舞台のダンジョンで命を救ってもらったあの日から。
そして、パパの命を助けてくれて、その気持ちはダイヤモンドよりも硬くなった。
絶対に揺らぐことはない。
「それと、姫のことだけど」
「……うん。押野さんも絶対に壱野さんのこと好きだと思う。優先順位は低そうだけど」
「そっちも警戒しないとね」




